魔〇スライム
ダンジョンは魔力に溢れていて魔石が採取できるのだけど、濃い魔力の影響を受けた強力な魔物が現れる危険な場所でもある。大勢の冒険者がダンジョンの中で殺されている。
たぶん俺の両親もダンジョンで死んだ冒険者だったんだと思う。物心ついたときにはスラムでゴミを漁っていて、周りには俺と同じように冒険者の両親が死んで孤児になった子供たちであふれていた。
そういう孤児を狙って優しく声をかけてくる連中がいる。本当に極稀に孤児たちのことを心配して保護しようという優しい人もいるけど、ほとんどの人間は孤児を使い潰すことが目当てで寄ってくるクズ野郎たちだ。
一番多いのはダンジョンに孤児を連れて行って、モンスターの囮にしたり、罠を探させるために使ったりする連中だ。生き残ることができたら飯を食わせてくれると約束して連れて行くが、付いていった奴らはそのまま二度と会うことはなかった。
先ほどのエイトという上級生はダメだ。人間を食い物にしているクズの類だ。あれの話に乗ると破滅すると俺の経験が警鐘を鳴らしていた。
詳しい話は聞かなかったのでよくわからないけれど、たぶん魔石スライムをつくったいうのも嘘だろう。もしも本当に魔石スライムがつくれたら俺だったら秘密にする。魔石スライムを量産して魔石の値段が下がったら損をするからな。誰にも教えずにこっそりと魔石をつくって売った方が絶対に儲かるはずだ。
「……どうやって魔石をつくったんだ?」
ただ、間違いなく詐欺だと思うけれど、偽魔石スライムがつくった魔石は本物だった。スラムに住んでいた頃に何度も見たことがあるから偽物ということもない。
本物の魔石をつくりだす、偽物の魔石スライム……よくわからない。
そもそも、魔石スライムがつくれないというスコット先生の話は真実なのだろうか。
「スライムが魔石がつくれないのは、【魔力を帯びた物質】をスライムがつくれないからだったな」
魔石とは【魔力を帯びた石】のこと。石の種類は問わず、全部魔石だ。
これが例えば金属だったら魔金属や魔導金属などと呼ばれる。魔導金属で有名なのはミスリルやオリハルコンだろう。これもスライムにはつくることができない。
他にも樹木だったら魔木や魔草、生物だったら魔物あるいはたまに魔生物とも呼ばれる。
こういう【魔力を帯びた物質】はスライムにつくることができないし、人間にもつくることができない。錬金術師は魔道具をつくることができるけど、あれは元々魔力を持っている物質を素材に使って加工する魔術なので魔力を帯びていない物質では魔道具をつくることはできない。
だから魔石は希少価値があって高く売れるし、魔力を帯びた魔物の素材や魔導金属も重宝される。それが常識なんだ。
「……でも、【魔力】と【物質】ってスライムからすると別なんだよな」
両手にそれぞれスライムを持ち上げてみる。【魔力】を糧にするマナスライムと、物質である【水】を糧にするウォータースライム。
「【魔力を帯びた物質】ってことは、【魔力】と【物質】が混ざり合って合体しているってことのはず」
両手に持ったスライムを近づける。
そのまま、スライム同士がぶつかりそうになって。
――合体ー?
――合体ー!
「え」
ぴょん、と手から飛び上がったスライム同士がぶつかって【合体】した。
――合体ー!
――成功ー!
「……ん?」
一つになったスライムたちの姿に違和感を覚えて、よく見てみると……なんだこれ。
「ウォータースライムの中に、マナスライムが潜り込んでいるのか?」
青みがかった透明のウォータースライムの体の中にマナスライムがいた。スライムが体内にモノを取り込んだりしているのを見たことがあるが、どうやらそれと同じような状態らしい。
「合体とか言うからびっくりしたけど、ただ潜り込んだだけじゃないか。びっくりさせるなよ」
――合体なのー!
――合体したー!
二匹一緒になってプルプル震えているスライムたちが合体したと言ってくるが、ただくっついただけじゃ合体とは言わないだろ……。
「……まあいいか、じゃあ試しに水を出してみてくれ」
コップを一つとってスライムたちの前に置いてみる。この状態でも水を出せるならマナスライムを部屋に置いておく必要もないだろう。よく観察しないとスライムの中にスライムが入っているとは気がつけないはずだ。
――出すー!
――水ー!
「……ん? あれ、この水……」
コップの中に溜まっていく水が、違う(・・)。
これは、いつもウォータースライムが出す水とは違って。
「これ……魔水、か……?」
【魔力を帯びた水】がコップの中に満たされていた。




