次のステップ
魔物厩舎。
フシャアアアアアアア!!!
グルルルアアアアアアアア!!!
コケェエエエコッコオオオオオオ!!!
「暴れるなよ。暴れたらやらんぞ」
――ピタッ
それぞれの檻の中で猛り狂っていた魔物たちが大人しくなる。
お座りや伏せのポーズですまし顔をしながら爛々と目を輝かせている魔物たちを見渡し、全員が大人しくしているのを確認してからそれぞれの檻を回っていく。
「頼んだぞ」
――魔力ー!
――水ー!
手に持った如雨露の中に入り込んでいるスライムたちにお願いすると、勢いよく水が流れ出てきた。
それを檻の中に設置されている水入れの中に注いでからすぐに横に移動する。
シャアアアアアアア!!
ニャアアアアアア!!!
すぐに檻の中の魔物――二匹の翼の生えた猫のような魔物が水入れに駆け寄り、お互いに威嚇しあいながら争うように水を飲みだす。
「怪我はやめろよ。喧嘩するとしてもケガだけはやめろよ」
聞こえているのか聞こえていないのかわからない二匹を放置して、別の檻に移動して水を注いでいく。厩舎の全ての檻を回ったところで一息ついて改めて魔物たちの様子を見るけれど、一匹残らず水を飲むのに夢中だった。最初に水を注いだ猫の魔獣の檻など、空になった水入れを必死に嘗め回して水の一滴すら残していない有様だ。
「やっぱり凄いな、コレ」
厩舎の魔物たちが豹変した理由。それは今も如雨露の中に入っているスライムたちがつくりだした魔水に他ならない。あの日、スライムたちが【魔力を帯びた水】をつくった日。俺は本当に魔力が入っているのか確かめるためにこっそりと厩舎の魔物たちにこの水を与えてみた。
その結果、それまで与えていた井戸の水とはけた違いの魔力に溢れた水を飲んで、魔物たちはたちまちその味(魔力)に魅了されてしまったのだ。魔力の込められた水を与えることができる俺の前に、恐ろしい魔物たちは膝を屈したのである。
普段からほとんど魔力の込められていない餌しか与えられていない魔物たちにとって、魔水はそれだけの価値があったんだろう。あるいは、もしかしたらテイマーである上級生たちから与えられる魔力が少なくて魔力に飢えていたのかもしれない。
「まあ、掃除も楽になったしいいことだな」
ともかく、こうして魔水の力で俺は厩舎の魔物たちのボスと認められた。
掃除をしようと檻の中に入っても、以前のようにこちらの隙を伺ってくることもなく大人しくしているようになったので、毎回魔水を与えるようになった。
一人で掃除をするのは大変なので、魔物たちが大人しくしてくるならこのくらいはいいだろうと思っている。
……いつも一緒に組んで掃除をしていたシドだが、今は別行動をしている。仕事を半々に分けてあって、それぞれ別々に仕事をしている状態だ。顔をあわせてもすぐに離れていくし、話しかけようとしても明らかに避けられている。
数日前、スライムを気持ち悪い化け物だと言っていた時からこんな感じだ。どうやらスライムだけではなく俺自身も嫌われてしまったらしい。
「……まあ、考えても仕方ないか」
折角できた友達が離れていくのは悲しいが、向こうが嫌っているのなら仕方ない。こんな便利なスライムたちのことを嫌っているのも勿体ないと思うけど、シドがスライムを嫌うのはシドの自由だ。
まあ、多少は寂しく思うけど、シドがいないお陰でこうして魔水の実験を人目につかずに行えるのでこれはこれでラッキーと思おう。魔石の時にも話したが【魔力を帯びた物質】というのは非常に貴重で高価なので、俺が魔水を自由につくれるということはしばらく秘密にしようと思っている。
にゃああぁぁん!
「ん? ああ、飲み終わったのか」
考え事をしている間に猫たちはもちろん他の魔獣たちも魔水を飲み終えていた。
なので今度は空になった水入れに普通の水を入れていく。魔水を二杯も入れるとさすがに魔力的にきついのでおかわりはなしだ。
不満そうな視線を向ける魔物たちを後にして、寮の井戸でたっぷりとウォータースライムに水を与えてから授業に向かった。
◆
「ウォータースライムに進化できた者が増えてきたな。それではそろそろ次の授業を始める」
スコット先生が教室の中を見渡しながらそう言った。
初めてスライムと従魔契約を結んでから二週間が経ち、俺以外にもウォータースライムを連れている生徒が何人か出始めていた。だいぶ成長して大きくなっているスライムたちも何匹かいるのでここ数日で進化ラッシュが起こると思う。
ただ、シドの連れているスライムはクラスでもかなり小柄な方であり、ミーファが連れていたスライムは大きさだけは十分大きかったけれどつまみ食い癖が治っていないのでまだまだ進化は先だと思う。
「次の授業では二つのことを同時に進める。一つは新しいスライムと契約して自分で考えて自由に進化させる授業だ。この授業はウォータースライムに進化をさせられた者だけが受ける資格があるので、まだ進化させていない者は早く進化させるように」
そんなクラスの状況を気にしていないのか、スコット先生はさっさとスライムを進化させろと言って次の授業の説明を始めた。
「もう一つは全員参加の授業だ、スライムではなくこの魔物を育ててもらう」
そういうとスコット先生は手に持って袋を傾け、中身を教卓の上にぶちまけた。
「……種?」
それは種に見えた。
ただ、俺の知っている種のどれとも似ていない――規格外の大きさをしている種だった。進化していないスライムと同じくらいの大きさで、俺の拳くらいの大きさの丸々とした楕円形の黒い種。
それをスコット先生から一人一つずつ受け取っていく。表面は硬く、中がぎっしりと詰まっているようでかなり重かった。
「これはマンドラゴラという魔草の種だ。お前たちにはスライムの育成と一緒にマンドラゴラの栽培も行ってもらう。それではこれから畑に向かうぞ」
魔草の栽培。
それが俺たちの次のステップらしい。なるほど。
……ところで、魔草って魔水で育てても大丈夫かな? 如雨露にスライムたちを入れてそのまま地面に撒いたら誰にも気がつかれないと思うけど、どうだろう?




