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12回目の人生、与えられた選択肢を全て拒否して永遠の泥沼を楽しみます『三人の怪物を鎖で繋いだ至高のティータイム』  作者: あとりえむ


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第7話

ヴァレリア公爵邸の庭園には、季節外れの薔薇の香りが立ち込めていた。


手入れの行き届いた芝生の上に用意された、真っ白なクロスのかかったテーブル。


そこには、今この国で最も注目を集める四人の男女が顔を揃えていた。


元婚約者の王太子アルヴィン。


新しく公爵家の養女となったマリア。


そして、リゼットのビジネスパートナーにして共犯者のレオンハルト公爵。


アルヴィンは隣に座るマリアの肩を抱き寄せながら、対面に座るリゼットを挑発するように睨みつけている。


マリアはリゼットに教え込まれた通りの完璧な微笑みを浮かべているが、その指先はわずかに震えていた。


リゼットはと言えば、沸騰したての湯を銀のポットに注ぎ、茶葉が静かに開くのを眺めていた。


またこの光景ね、と彼女は思う。


六回目の人生では、ここでマリアに毒を盛られた。


八回目の人生では、アルヴィンが私の前でマリアに愛を誓い、私は屈辱の中で気絶した。


乙女ゲームなら、ここは中盤の盛り上がりを見せる修羅場イベントだ。


案の定、リゼットの視界にノイズ混じりのウィンドウが浮かび上がる。


『イベント:嫉妬と牽制のティータイム』


『選択肢A:レオンハルトに甘え、アルヴィンの独占欲を煽る。』


『選択肢B:アルヴィンを悲しげに見つめ、レオンハルトの庇護欲を刺激する。』


くだらない。


リゼットは心中でその二つの文字を握り潰した。


愛だの恋だのという、湿った感情をぶつけ合うための時間は、今の私には一秒たりとも残っていない。


彼女は茶杯に琥珀色の液体を注ぎ、それをテーブルの中央へと差し出した。


「ご機嫌よう、皆様」


リゼットの唇が、美しく、そしてどこか不気味な形に弧を描く。


「今日は愛の語らいではなく、私たちが共倒れにならないための、現実的なお話をしましょうか」


◇ ◇ ◇


アルヴィンが鼻で笑い、マリアの腰を強く引き寄せた。


「現実的な話とは何だ、リゼット。貴様との縁が切れた今、公務以外の話などあるまい」


彼は、リゼットが自分を失った寂しさを埋めるために強がっているのだと、未だに信じ込んでいるようだった。


リゼットは優雅にカップの縁をなぞる。


「公務……いえ、これは国家の財政に関わる緊急の案件ですわ、殿下」


彼女は背後の侍女に目配せをし、数枚の書類をテーブルに並べさせた。


そこには、アルヴィンがマリアへの贈り物や夜会の費用として、王家の予備費を不当に流用している証拠が詳細に記されていた。


「お父様からセラフィム鉱山の採掘権を譲渡された際、関連する全ての支出経路を調査いたしました。殿下、この穴をどう埋めるおつもりかしら」


アルヴィンの顔から余裕が消え、紙のように白くなる。


その横で、レオンハルトが愉しそうに喉を鳴らした。


「ほう。王太子の尻拭いを、かつての婚約者が行うとは皮肉なものだな」


「レオンハルト公爵、あなたも他人事ではありませんわよ」


リゼットは鋭い視線を彼に向ける。


「あなたが闇市場で動かしている魔石の流通マージン、今後三割を我がヴァレリア家へ納めていただきます。さもなければ、このお茶会の終了と同時に、正規ルートでの供給を完全に停止いたしますわ」


場に凍りつくような沈黙が流れる。


システムの警告音が、リゼットの耳の奥で悲鳴を上げていた。


『エラー:愛の告白イベントが、一方的な資産凍結予告に書き換えられました。』


リゼットは、その警告を甘い音楽のように聴き流しながら、マリアに静かに微笑みかけた。


「マリア、あなたからも殿下にアドバイスを差し上げて? 愛する人の危機ですもの」

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