参加する?
「紫苑さんって言ったっけ?」
「紫苑でかまわない。それで、なんだ?」
「……やっぱり、そっちのコミュニティに参加させてもらえないか? 紫苑」
宗田は紫苑に対する不快感を隠すことなくそう言うが、彼は眉一つ動かさない。
その彼の態度にたじろぎそうになったが、唯に放った言葉を思い出し踏み止まる。
お互いが無言で見つめ合い、少しの時間が経つと紫苑の方から口を開いた。
「そうか。その子供になにか言われたのか?」
「まあ、そんなところだ。俺達だけだと寂しいから、お願いだってよ」
宗田は紫苑と会話を進めると、ベリルがわざとらしくアリスに抱きついて、「離れたくないよ〜」と演技をしながらこっちを見た。
それに気づかないアリスは、ベリルを力の限り抱きしめて、泣きそうな声で紫苑を説得するように話す。
「じ、じおん……ざん。ベリルちゃんが、かわいそすぎます〜……。だから、お慈悲を〜」
ベリルを胸に抱えたアリスが紫苑のすぐ近くに寄ってきて、懇願するとちらりと目だけを動かした。
その後に、息を強く吐き出すともう一度宗田へと目を向ける。
「まあ……いいだろう。許可する。その変わり、彼女が暴走しないように見張ること。それが条件だ。もう二度と……いや、なんでもない」
最後になにかを言いかけたが、途中で言葉を切ってしまう。
紫苑が最後の言葉を切る時に、少しだけ彼の表情がぶれたように見えた。
追求するかとも考えたが、今はコミュニティに参加することが優先と、一旦は腹の奥へと隠す。
「それはありがとよ。でも、お前が唯に向けた態度は忘れないからな」
「……ふむ。覚えておこう」
宗田は紫苑に言い放つと、後へ振り返り唯の元へと戻る。
「あ、あの……ありがとうございます」
唯が遠慮がちにお礼を述べてきたが、宗田は首を振る。
「あんなこと言われたら、誰だって嫌だろ? だから、当然だよ」
だって、君がいないと自分の"日常"が消えちゃうんだから。
傍にいてもらわないと困るんだよ。
腹の中で、自分の本音が溶け出すように溢れると、自責の念に腹が締め付けられるようだった。
純粋に彼女と離れたくない。
それだけで良いはずなのに、彼女を利用しようとする自分に苛立ちを覚える。
なら、いっそのこと、過去を捨てて今を生きることを選ぶかと言えばまだ割り切れない。
そうしてしまえば、世界が滅んだことを肯定してしまいそうで嫌なんだ。
まだ、死んでない。
終わってない。
取り戻せるんだ。
真奈と言う存在も自分の中の日常だったが、それは捨て去った過去。
もう、必要ない。
一番必要な神崎唯を失いたくないんだ。
少しだけ元気のない唯の顔を見ると、自己嫌悪で押しつぶされそうになるが、その手を握って誤魔化した。
結局は保身のため。
覚悟をいつまでも決められない、惨めな自分が本当に嫌になる。
唯の手を握った指先から体温が血液を通して、体中を駆け巡る。
それが余計に自分の心を刺してくる。
無意識に反対の手を胸に当て、痛みを押さえるように指先を胸に食い込ませた。
なにもない日常にこんなに恋焦がれるとは思いもしなかったな……。
昔を思い返すだけで心臓が高鳴るし、少し時間が経てば元に戻るかとも思ったが、そんな甘い考えはそろそろ終わりなのかもしれない。
「苦しそう……宗田さん、具合、悪いんですか?」
唯に声をかけられて初めて眉間にシワが寄るくらい力がこもっていることに気づく。
「え? あっ、大丈夫だよ。ちょっと……どうしても紫苑が気に食わなくてさ」
「……そう、ですか。宗田さん……その、なにか困ってたらいつでも話してくださいね」
唯が真っ直ぐに見つめてくると、宗田はそれを直視できず思わず逸らしてしまった。
彼女の真っ直ぐな気持ちに、自分の腐っ心が拒絶反応を示したのだ。
「今は……大丈夫だよ。もし、なにかあったらすぐに話すから、そん時はお願いね」
「……はい。分かりました。あ、えっと、私はなにがあっても宗田さんの味方ですよ」
自分の気持ちを悟られないようにするが、唯はなにかに気づいているように感じられた。
傷つくようなことを言われたのは、彼女のはずが逆に自分が慰められるとは、情けないな……。




