四面楚歌
「ちょっ! ゾンビがどうしてこんなにっ!?」
アリスが叫ぶ。
宗田達を挟み込むようにゾンビの群れが現れた。
道路に隙間なく敷き詰められるように現れたゾンビ達が、ジリジリと迫ってきた。
最初は一体。
それを倒すと奥から、さらにもう一体。
走り抜けようとしたが結局は一本道で挟み撃ちにあい、身動きが取れなくなった。
軍となったゾンビの群れの襲撃に、全員で応戦してる真っ最中。
前方は宗田と唯が。
後方は真奈達がどうにか押さえているが、ジワジワと詰められていた。
「なにか……おかしい」
後方から唯の援護をする宗田がゾンビを観察するように見た。
「やっぱりだ……」
不格好であるが、ふらつきがない。
死んでいるはずのものが、訓練された兵士のように真っ直ぐにこっちに向かってくる。
倒しても倒しても波のように押し寄せるが、互いにぶつかることがない。
前が止まれば後ろも止まる。
これは、明らかに統率された動きに見えた。
だが、今はそれどころじゃない。
唯の動きが目に入った。
「――はぁっ!」
唯の掛け声と共にゾンビが縦に斬り裂かれ、その内側をさらけ出す。
その勢いのままさらに奥に一歩踏み出すと、血に濡れた地面がべちゃりと音を立てた。
「やあっ!」
かけ声一つと共に大斧を横に振るって数体のゾンビをなぎ倒すが、奥から溢れるようにゾンビ達が湧き上がってくる。
「イメージは炎弾。バースト」
宗田の魔法により唯に近づくゾンビに援護を行った。
腹を足を頭を炎の弾が貫き、そいつは絶命した。
「数、多いなっ! 唯、離れてくれっ!」
「――はい!」
宗田の言葉に唯が後に飛び退く。
生気のない無数の瞳はまるで地獄へと誘う使者のように見えて、宗田の背筋を震わせてくる。
だけど、それは恐れではなく全身の血の流れが変わったかのように興奮を与えてくる。
頬が勝手に吊り上がる。
止めようとしても止まらない。
「はははっ! ――紅蓮の砲撃」
赤い魔法陣が一瞬で展開されると、宗田の持つ最大火力の一撃が放たれる。
わずかに下に傾けて地面に着弾させると同時に、爆音と共に大量の肉片が空に舞う。
それが雨のように降り注ぎ、宗田の顔を撫でるように掠めて赤く染め上げた。
肉片が触れても嫌がる素振り一つ見せず、白目に血管を浮き上がらせてずっと真っ直ぐ見つめ続ける。
アスファルトが砕けた白煙が視界を覆い、奥がはっきりと見えない。
一瞬の静寂が宗田を包む。
すると、煙が揺らぎ黒い影が見えた。
「――にく〜!」
煙を切り裂くように、グールが数体飛び出してくる。
それに合わせて魔法を構築しようとすると、唯の方が先に前に出た。
「死ね」
唯が小さい呟きと同時に斧を軽く振るうと、グールの体を横に両断する。
そして、着地すると同時に柄の端をもって一回転による一撃で、落下するグールの体にとどめを刺す。
ただ、それでも死者の群は足を止めることはなく、唯に迫る。
ゾンビとグールの波状攻撃に晒されるが、彼女は下がることなく猛然と戦い続ける。
その瞳は、ゾンビやグールを見ていない。
ただ――殺す。
その一点だけを赤く濁った瞳は映し出しているようだった。
「ははは……すごい」
宗田は彼女の戦いに見惚れるように、視線が奪われた。
血に濡れ、臓物が体にかかり、頭から爪先まで紫と赤に彩られる。
唯はまったく気にした様子を見せず、笑っていた。
鋭く射抜く濁った赤い瞳を細く歪ませて白い歯を剥き出しにする彼女は、この時間を楽しんでいるよう。
まるで、踊っているかのように立ちはだかる魔物の集団に一人で突っ込んでいく。
――羨ましい。
猛然と突き進む唯。
なぜか血が騒ぐ――熱い。
「俺も……そこに……」
足がわずかに前に出るが、少し残っていた理性が踏み止まらせた。
少しだけ冷静になった頭で唯を見る。
この世界に染まった末路。
自分の行き着く未来の姿を見せられているような気がした。
だけど、それに比べればまだ自分が正常に見えて、なぜか安堵するように肺から空気が抜けていく。
――本当に、本心なのか。
嘘ついてる。
嘘はだめ。
正直になろうよ。
頭の中でいろいろな声聞こえたような気がする。
視界が赤い。
ゆっくりと手を伸ばそうとすると声がして、赤い世界があっと言う間に消え失せた。
「君は彼女を見て、自分は――まだ、化け物じゃないと思ってるのかい?」
肩越しにそっちを見る。
「紫苑……」
紫苑の感情のない瞳がこっちを見ていた。
宗田が彼の名前を呟いたが反応はなく、ただ自分を真っ直ぐに見ている。
宗田はなにか言おうと口にしようとしたが、ただ唇が震えるだけで何もでない。
自分の心に土足で入られたような気がして、奥歯を強く噛み締めた。
宗田が口を強引にした時、アリスの声がする。
「ほら! ぼさっとしない! 一点、突破するよっ!」
視線を動かすと、三人がこっちに向かって走って向かってくるのが見えた。
「君も十分――化け物だよ」
紫苑が小さく呟いた声が鼓膜に貼り付いた。




