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謝罪と懇願

 「それは……どう言う意味です?」

 そう言い返した唯の瞳からは温度が消えていた。

 

 「どう言う意味もなにも、言葉の意味のままよ。それで……宗君とはどう言う関係なの?」

 

 唯が真奈に、口を開く。

 

 「宗田さんは――」

 「――真奈、辞めろ」

 唯の言葉を遮るように、宗田は語気を強めて言い放つ。

 

 「え……宗君?」

 「なんで、そんなに唯に突っかかるんだ? 彼女は俺にとって"大切な一人"なんだ。それに危害を加えるなら……真奈でも――許せない」

 腹の中に溜まっていたものをぶつけるように吐き出すと、真奈の瞳が見開かれ、まつ毛が震えた。

 薄いが形のいい唇をきつく結び、耐えるように拳を握っている。


 「お前が敵意を向けてくるなら、容赦しない」

 鋭く射抜くように見る。

 「あ、その。そう言うつもりじゃなくてね。宗君の隣に立つ資格があるかって……」

 「はっ?」

 真奈の言葉に宗田は苛立ちを隠すつもりはないようだった。


 「資格? 馬鹿じゃないのか? むしろ、他に男をつくって、目の前でその男とどっかに行ったお前の方が資格なんてないわ」

 これまでに溜まっていたものが噴き出るように、口から外に出ていく。

 

 「確かに昔……付き合ってたころほったらかしにした俺が悪かった……だけど、されたことは忘れない!」

 宗田が一言話すたびに言葉尻が徐々に強くなり、最後の方は怒鳴るような声になる。

 真奈の肩がビクリと跳ねた。


 鼻筋が通り、整った顔立ちの彼女の表情が少しずつだが歪んでいく。

 しだいに嗚咽が漏れ、両手で顔を隠ししゃがみ込んでしまった。

 

 それを宗田が見下ろすが、手を差し伸べることもなく落ち着くのを待っている。

 しばらくして、真奈ぽつらぽつらと話し出した。


 「わ、私……宗くん。ごめんな……さい。あの時は、その感情的になってて。ああすれば……私を見てくれるかと」

 「…………。」

 「それに、彼ゾンビになって死んじゃって……もしかしたら、またやり直せるかなって……思って。だから……許して。お願い……」


 彼女のすがるような態度に宗田は別の意味で背中がぞわりと波立つ。

 

 約二年、それが真奈と付き合っていた期間だったが、こんな"人間"だったとは思わなかった。

 前を歩いていたアリスと剛は真奈へと近寄ろうとするが、一歩踏み出したまま固まってしまう。


 「ちょっと、宗くん。さすがに真奈さん、可哀想だ……よ。昔、いろいろあったかもしれないけどさ」

 庇おうとするアリスに向かって、宗田が鋭い視線を送ると彼女はバツが悪そうに顔ごと横に逸らす。

 

 「あ、アニキ、落ち着いてくれよ」 

 剛がなだめるように手を伸ばしてきたが、宗田が反応を見せないとそのまま動きが止まる。


 自分でも驚くほど心が冷え切っていた。

 少し前までならこの涙にたいして胸がかなり痛んだだろうが、唯や葵、ベリルと一緒に過ごしてその気持ちは思い出へと変わってしまっている。

 だから、今の真奈が許しを請おうが、なにも思わない。


 「――許すもなにも、興味がない」

 これが今の自分の気持ちだ。

 

 「……そいつが、宗君を……たぶらかした、のね」

 真奈から発せられた言葉には"嫉妬"に近い感情が込められているように感じられた。

 彼女の肩が強くこわばり、口元がぎりっと音を立てる。


 黒い瞳。

 一瞬だけ彼女の目に――闇が見えた。


 だけど、宗田が瞬きをするとそれは消える。

 今のは、なんだ。


 宗田の胸の内側がゆっくりと撫でられるように、体が震える。


 「宗くん……なんで私を見てくれないの……」

 真奈がそう口走ると顔をぐりっと上げ、血走った目が唯を捉えた。

 

 「みんな……みんな、私を見てればいいの。私を見てくれない人なんて――いらないもの」

 嫉妬が憎しみに変わり、彼女の体からなにかが滲み出てくるように見える。

 それが、地面を這うように広がり宗田の足に触れようとした時、ずっと口を閉ざしていた唯が声を上げた。


 「ねぇ……宗田さん。私、やっぱり――我慢できない」

 朱色に染まった瞳が闇の中で異様な光を放つ。

 

 「なんなの――こいつ。気に食わない。宗田さんに嫌われると思ってずっと堪えてたけどやっぱり――殺す」

 唯から放たれる殺気に、アリスと剛が押されるように一歩下がる。

 だけど、真奈は口角が鋭く吊り上がるように笑っていた。


 「ふぅ。ようやく……本性を見せてくれた」

 真奈がすっと立ち上がると、唯を真っ直ぐに見た。

 さっきまでの惨めな彼女はそこにはなく、凛として立ち向かうように堂々と立っている。


 「なに? どう言うこと? まぁ、いいけどさ。どのみち殺すね――」

 「――唯、待って!」

 宗田が叫んだが、唯の振るった斧から発せられた風が頬を掠める。


 だけど、真奈はそれを見切っていたように宙返りするように避けて唯から距離を取る。

 彼女が体勢を整えて腰に下げてある刀に手をかけようとした時、突然手を叩く音が聞こえた。


 「真奈、そこまででいい」

 それは、低い男の声だった。

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