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開封の儀

 「さてと、開けてみようか」

 記憶商店から届いた箱の中身をさっそく開けてみることにした。

 「えへへっ! なんか楽しいですね!」

 唯が楽しげに笑い、テーブルの上の箱を見つめている。

 「あ〜け〜ろ〜」

 ベリルはやかましく、宗田を急かしてきた。


 「はいはい。お二人さん、ちょっと待ちたまへ」

 箱を閉じてるテープに手を伸ばすと、端の方からゆっくりと剥がす。

 粘着物が指にひっつきペタつくが、それを気にすることなく引っ張ると、箱の表面が剥がれる軽快な音が響いた。

 そして、最後まで剥がし中身を確認すると、プチプチに包まれている小さい箱が出て来る。


 「本当に……通販だな」

 小さい箱を中から取り出すと、簡素な外観に黒猫と記憶商店の名前が書いてあった。


 「ん〜……せっかくだから唯が開けなよ」

 「いいんですか?」

 宗田は頷きを返す。

 彼女にとっては記憶商店で初めて自分の物を買ったことになる。

 せっかくならばと、宗田は唯に開けてもらうように二つの箱を渡すと「ありがとうございます」と唯が受け取った。


 「それじゃぁ……まずは、こっちからでっ!」

 唯が二つあるうちの、大きい方に手をかけるとゆっくりと箱を開ける。

 

 「おぉー!」

 発泡スチロールのようなものにはめ込まれたピンク色のドライヤーが出てきた。

 黒猫の絵柄と達筆な字で墨の方に、"記憶商店"とメーカーの名前が書いてある。

 たかだがドライヤーだったが、それを見た宗田は胸の内側が少しだけ明るくなった気がした。

 唯も震える指先でゆっくりとそれを取り出す。


 「なんか……私、感動しちゃったかも、です」

 これを送り届けてくれた店の名前の通り、過去の記憶が思い起こされる。


「ねえ、ねえ、二人でそんなにぼーっとしててさ。早く次も出してよ! つまんない!」

 ベリルの癇癪は哀愁を噛み締めていた空気をあっと言う間に破壊する。

 おかげで意識が現実へと引き戻された。


 「あははっ。ベリルちゃんごめんね。すぐに開けるから待ってね」

 ベリルに唯が優しく言葉をかける。

 それを宗田はなんとなく横から見ていたが、こうしていると普通の優しい女性にしか見えない。

 少し童顔で、小さくて、ふざけ合えるような仲で、親友でもあり……"それ以上の存在"でもある。

 

 彼女が嬉しいと自分も嬉しい。

 相思相愛と言えばそうなるかもしれない。

 でも、まだ自分の中の利用しようとする感情の一部が邪魔をして先に進めないが、いつかちゃんと話して全てを受け止めたいって思う。


 「あっ、なんか可愛い」

 宗田が思いに耽っていると、唯がいつの間にかブレスレットを手にしていた。

 

 鉄色の簡素なブレスレットの表側には、顔を撫でる黒猫が描かれ、その横にはクリスタルのような白くて小さい石がはめ込まれている。

 唯からそれを借りて裏側を見ると、"記憶商店"とやはり書かれており、しっかりと自社をアピールしていた。


 「これに、あの斧が本当に入るのか?」

 不思議な製品を販売してる企業だから、詐欺なんてことはないだろうが、どうやってあの巨大な斧が中に入るのか想像がつかない。

 

 「不思議ですよねー」

 唯に返すと同じように彼女も眺め、それを左腕に何気なくはめる。

 「――きゃっ! えぇっ! なにこれ……凄い」

 唯が驚くのも仕方ない。

 横で見ていた宗田も目を丸くして、言葉が出なかった。


 「……勝手に……縮んだ?」

 唯の手首には大きかったブレスレットが、ゴムのようにふにゃりと柔らかくなると、手首に巻き付くように形を変えた。


 「これ外したい時は……外れてください? で、いいのかな」

 唯がそう言うと、再びブレスレットが歪んで元の大きさに戻る。

 「どうなってんだ? 記憶商店……やばいだろ」

 宗田は呆れに違い感嘆の言葉を述べると、向かいに座っているベリルが腕を組んで、何度も頷いていた。

 

 「いやー! 記憶商店、さすがだね。噂以上にすごいや」

 感心したようにベリルが言う。

 「さっ、お姉さん。あの、斧をそれにしまおうよ」

 「あ、うん。やってみるね」

 三人は立ち上がり、斧が置いてある廊下へ移動する。


 「う〜ん。これは……どうしたらいいんでしょうか」

 唯がどうしていいか分からず、柄の部分を指先で突いたり、握ってみたりを繰り返している。

 「お姉さん、それを外した時と同じ要領でやってみてなよ」

 「それって、ブレスレット?」

 「そうだよ〜」

 

 ベリルに言われて、唯が頷く。

 ブレスレットの表面を親指で軽くなぞってから、斧の柄の部分を握った。

 そして、軽く深呼吸すると唯が口を開く。


 「えっと……中に入れ?」

 そう言った瞬間、斧は崩れるように形を変え始めた。

 鋼鉄で出来た金属の塊が、硬さを忘れて蛇が地面を移動するように揺れている。

 

 それが細く伸ばされると、控えめに埋め込まれている小さいクリスタルの中に吸い込まれた。

 廊下にあった大斧は姿を消し、はめ込まれた石の色が白から赤色へと変わる。


 「わっ! なにこれ……」

 唯が自分の腕をマジマジと見る。  

 「どう? 凄いでしょ! えっへん!」

 ベリルが威張るように両手を腰に当てて胸を突き出した。

 

 「ちなみに、出す時も同じことやればいいと思うよ。そう言う、"収納系の魔具"は同じような使い方だから覚えといてね」

 ベリルが唯と宗田に向かって説明する。

 そこには子供っぽさはなく、小さい学校の先生のように見えた。

 二人は彼女の言葉に頷いて返す。


 「教えたお駄賃に、魔石ちょーだいっ!」

 そう言ってベリルは両手を前に伸ばした。

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