ポーションは何味?
「――これは!」
ポーションを一気に飲み干すと、味わうように瞳を閉じる。
そして、一気に開かれると、宗田は驚いたような声を上げた。
「え! どうしたんですか!?」
宗田の反応に、焦ったように唯が近寄る。
「よく分からんっ!」
そう感想を述べると、唯が冷たい眼差しで宗田を見る。
「宗田さん……」
一言名前を呟いた唯の声には抑揚がない。
「いやー、だってさ。少しはふざけたいじゃん。ってか、本当に分からないんだよ。栄養ドリンク? 効果もよく分からないしさ。だから、驚いたのは事実だし――」
「――宗田さん」
ただ、名前だけを呼ぶ唯に、宗田は戦慄を覚えた。
「…………。」
その迫力に宗田は沈黙する。
彼女の瞳からは感情の全てが消え失せ、瞳が赤く染まっていないにも関わらず、宗田の背中を何かが這いずるように怖気が走った。
まるでゴミを見るように、唯は宗田から視線を離さない。
瞬きをせず無表情で見られ続ける。
やべっ! ふざけすぎた。
そう心で思ったが、後の祭り。
宗田は強引に話題を変えることにする。
「よし、今度は上質な魔石を入れてみよう!
そうしよう! ベリルも飲む?」
「ちょっと、お兄さん。こう言うタイミングで話を振るのは、ないんじゃないかな〜」
いつもは空気をぶち壊すが、こう言う時に限って読みやがる。
四面楚歌のように針のむしろに立たされた宗田は、乾いた笑いを発しながら、平謝りすることにした。
「ごめん、ね?」
「もう! 宗田さんはいつもそうです! 心配ばかりかけて! もう! もう! もうっっ! 嫌いです!」
その言葉に唯の溜まった言葉が決壊する。
ただ、いつものように拗ね怒る彼女の姿がとても愛らしく思えた。
そのおかげで夢のせいで沈んだ気持ちは完全に消え失せて、過去の辛い経験を記憶の片隅に追いやることができた。
「あははっ! ごめんね! やっぱり唯を見てるとさ……こう、なんだ血が騒ぐのよ」
わざとらしく手をワキワキと動かして見せると、唯の眉間にシワが寄り、むっとした表情になる。
「嫌いです〜! 宗田さんなんて嫌いなんです〜!」
「ほらほら、お兄さんもお姉さんも遊んでると先に進まないよ」
宗田と唯がじゃれ合っていると、宥めてきたのはベリルだった。
やれやれと目を細めて、そっとテーブルにあった魔石に手を伸ばしている。
「――へっ!」
「ベリルちゃん、勝手に取っちゃダメだよ」
唯の動きは宗田にも微かにしか見えなかった。
「これは宗田さんの物ですから……ね。間違えて、手を引き千切っちゃうかもよ?」
「あは……はははっ……はい」
さっきまでふざけ合っていた唯の顔からは瞬きひとつよりも早く、感情の色が消えている。
瞳の奥には血のような濁りが渦巻き、ベリルを圧倒した。
「お兄さん……お姉さん怖いよ」
ベリルはおよよとした感じで、宗田に近寄る。
「そう? 別に唯だから普通じゃない?」
「えー! 絶対おかしいよ! お兄さんもお姉さんも頭のネジが飛んでるんじゃないの? もう、はこっちのセリフだからね」
ベリルが騒ぐと、宗田と唯は目を見つめあって肩を竦めて、笑い合う。
――――
「さてと……次は治癒ポーションを試そうと思うけど、スタミナポーションの件もあるから、上質魔石で試すよ」
「はーい。楽しみですね」
スタミナポーションを魔石で手に入れた時と同じ手順で、治癒ポーションのボタンを押す。
――――ガラ、ゴトン
その音は自販機からジュースが出てくる時の音、その物。
懐かしく、過去の情景が頭に浮かぶ。
音一つに物思いに耽っていると、横から白くて細い腕が伸びてくる。
「どれどれ〜。あ、今度は、治癒ポーション(極小)って書いてますね。それに……やっぱり記憶商店」
今度は唯が手に取ってそれを眺める。
「これの中身って、何でできてるんですかね?」
蓋を開けて唯は鼻を近づけると、「栄養ドリンク?」と宗田と同じような事を言っている。
「スタミナポーションは、薬っぽい匂いはするけど、味は……まぁ、普通だったよ」
「そうなんですね。それじゃぁ、さっそく効果試しましょうか?」
と言って、唯がキッチンの方へと向うと、右手に包丁を持っていた。
ベリルと宗田の顔から血の気が引く。
「お姉さん……それで何をするつもりなのかな? あははっ」
「え? 治癒ポーションの効果を確かめるんだよ? 宗田さん、ちょっと指を切り落としてきますね」
ポーションを持って浴室に行こうとした彼女を全力で止める。
「唯、だめ、だめだめ! 治せるかもしれないけど、そこまでしなくていいからね?」
「でも、宗田さんが試したいって?」
「そうなんだけどさ……あ、あれだよ。試したいけど、唯に怪我して欲しくないのが上なんだ。だからね? 包丁貸してね?」
すると「えへへへ」と嬉しそうに笑い、おとなしく包丁を渡してくれた。
唯の突破的行動には驚かされたが、どうやら惨事には繋がらなかったらしく、一気に力が抜ける。
「――いっ!」
安心して油断してしまい、間違えて刃先に触れると、中指に鋭い痛みが走る。
そこから、ドロリと赤黒い液体が中指から滲み出してきた。
「あ……私のせいで……」
唯が俯く姿を見て、宗田は「やべっ」と心の中で思い、ベリルに目配せする。
それに瞬時に気づき、急いで動きだした。
「お兄さん、これ! 使って! 早く!」
ベリルが慌ててポーションを差し出す。
「多分、僕の知ってるポーションなら、飲んでもかけても大丈夫だからさ!」
宗田に向かってそう言い放つベリルは、唯の顔色をチラチラと伺っていた。
「お、おう! 試したかったからちょうど良かったわ!」
宗田が怪我したことに自責の念を感じている唯の肩がしゃくり上げるように震えている。
また、あらぬ方向に行く前に急いでポーションを飲み干した。
「ぷはぁっ! おぉ! 唯、これ見てよ。治ってるよ! ほら!」
宗田は唯を褒めちぎり、今のできごとを事故ではなくポーションを試したかったということにすり替える。
それが功を奏したのか、唯がパッと顔を上げて差し出した宗田の指先をみた。
「……わぁっ! 本当だ! ポーション凄いですね!」
どうにかことなき終えて、ベリルと宗田は肺に溜まった空気を盛大にぶち撒けた。




