日用品が欲しい
「やっほー! ただいまっ!」
記憶商店が管理するアパートの玄関を開けてベリルが中に駆け込んで行く。
「ちゃんと靴を並べてよねー」
唯は散らばった靴を並べながら小言を言っていた。
こう見れば、家族のようにも見えるかもしれないが、腐臭がこびりつき、血みどろの姿を普通の人が見たら卒倒するかもしれない。
宗田達は剛達と一旦別れることにして、三人はアパートに帰ってきていた。
もう一度、同じ場所で待ち合わせする約束はしているが、日が落ちるくらいとアバウトな時間を指定している。
時計のない今となっては、太陽の動きや星の配置を見るしかない。
文明の築き上げた力の偉大さをひょんなことから感じてしまった。
「あ、宗田さん、先に中にどうぞ」
ポーション製造機を両手で持ってるため、唯が扉を押さえてくれる。
「ほら、ベリルも手伝えよ」
宗田がベリルに言うと、面倒くさそうな顔をしながら、奥の扉を開けてくれた。
「よいしょっと」
部屋の隅にポーション製造機を置いて、唯の元に戻る。
「押さえとくから、唯も中に入っていいよ」
「あ、ありがとうございます」
唯は大斧をぶつけないように慎重に中に運び入れる。
「これ……どうしよう」
「一旦、廊下に置いて、刃先だけ布を巻こうか」
置き場所に困った唯に宗田が声をかけると、ゆっくりと床に置くと、その重量に床が軋むように鳴いた。
「……疲れましたね」
斧を置くためにしゃがんだ唯が立ち上がると、宗田に顔を向け、口を開く。
唯の瞼がわずかに沈み、少し疲れた様子が見て取れた。
自分が勝手に一人で外に出たことと、唯との約束を破ったことが頭によぎり、胸の奥をチクリと刺した。
バツが悪そうに、目を伏せると自然に謝罪の言葉が出る。
「俺のせいで、心配かけて……ごめんね」
宗田の言葉を聞いて、唯の沈んだ瞼が一瞬大きく開くと、慌てた様子で声をあげた。
「あ、いえっ……その、そう言うつもりじゃなくて」
手を胸の前で何度も振って、宗田のせいじゃないと訴えてくるが、それが余計に苦しさを増してくる。
お互いの間に微妙な空気が流れ俯いてしまうと、追い打ちをかけるように子供の甲高い声が聞こえてきた。
「そうだ! そうだ! お兄さんが勝手に外に行かなければ、こんなことにならなかったんだぞ!」
やかましいわ。
と、思ったがこの空気をぶち壊してくれたことに感謝したくなる。
今のうちにと、標的をベリルに替えることにした。
「いいのかー? 俺がそうしてなかったら、アリスさんがこの世にいなかったかもしれないんだぞ?」
宗田がベリルに言うと、腕を組み考えるように顔を天井に向ける。
「うーん……それはだめ! やっぱりお兄さん! よくやった。褒めてあげる!」
すぐに手の平返しするベリルに乾いた笑いを返すと、宗田はお風呂を沸かしに浴室に向う。
――イメージはお湯
蛇口を捻ってお湯を出すよりも、魔法で一気に溜めた方が早いと思い、宗田はいつものフレーズを紡いだ。
「便利だわ」
一瞬で浴槽が満杯になるのを見て、思わず声が漏れ肩の力が抜けた。
――――
「あー、さっぱりした」
「おかえりなさい」
頭にバスタオルを巻いた唯が出迎えてくれる。
ドライヤーのない今となっては、髪の毛は自然乾燥するしかなく、ベリル含めて頭がタオルでぐるぐる巻きになっている。
「ドライヤーとか欲しいよね」
二人の姿に自然と言葉が出た。
「そうですね……あればいいんですが」
「明日、記憶商店で見てみようか。それと、ポーション製造機も、どう使うか検証して剛達と合流しよう」
唯にそれを伝えると嬉しそうに頷いた。
「ちゃんと、僕の分も残しといてね」
ベリルの言葉に「分かってるよ」と返して、今魔石がどれくらいあるか見る。
「結構、あるな」
机にバラバラに出して数えてみると三十二個あった。
前にアスエラと戦った時に手に入れたのと合わせると、五十は越えている。
そうなればドライヤーを買ってもお釣りが来るだろうと、明日の楽しみが増えて、宗田の心も少し弾む。
「お兄さん、僕……そろそろ眠い」
ベリルのその言葉に魔石を袋にしまい、急いで机を片付ける。
その間に唯が布団を敷いてくれて、三人で川の字に横になった。
「電気、消しますね」
唯の言葉に返事をすると、パッと明かりが消えて、月明かりと闇が部屋の主役へと変わる。
「お兄さん、お姉さん、おやすみ〜。また、明日ね」
「ベリルちゃん、おやすみ。宗田さんも、おやすみです」
「はいよっ。おやすみ」
そして、宗田は天井を見ながらゆっくりと瞼を閉じた。




