力持ち
「これで回収、終わったっすかね?」
剛が散らばった死体の山を見て、背伸びするように体を伸ばす。
「うぃーっ! 剛、お疲れっ。ご苦労だった」
見張りから戻ってきたアリスは、剛の背中をバシバシ叩きながら、ねぎらいの言葉をかけた。
「痛いっての! たくよっ! 少しは手伝えよお前もさ」
「えー、気持ち悪いからやだよ」
「たくよっ! あ、アニキ、これ回収した魔石っす。どうぞ」
そう言って剛が魔石を渡してきた。
「剛達のコミュニティでも魔石使うんでしょ? だから、それはあげるよ」
「え? でも、いいんすか?」
「あぁ、いいよ。って勝手に決めちゃったけど、唯もいい?」
勝手に話を進めてしまい、唯に慌てて声をかけると「いいですよ」とすぐに返事を返してくれる。
だが、二人の意見を否定する奴が一人。
「えー! あげるなら僕にちょうだよっ!」
ベリルが剛ににじり寄ると、困ったように後に一歩下がる。
「唯、ベリルを捕まえといて」
「ラジャ! です」
唯が軽々とベリルを担ぎ、引き剥がす。
「お姉さんのいけず〜! はーなーしーてーよ〜!」
手足をバタつかせるが、唯はびくともしなかった。
ベリルは人とは違う何かだが、その姿はおもちゃを買ってもらえない子供のように見える。
飴をあげるつもりで、宗田は魔石を一個差し出すとベリルは勢いよく顔を背ける。
「ふんっ! そんなのいらないもんっ! 上質な方がいい」
「こいつは……たく、ほらよ」
わがままな娘に育ったもんだ。
そう思うが、自分を助けてくれたし、お駄賃のつもりで上質魔石をベリルにあげることにした。
「毎度〜! んまんまっ!」
肩に担がれたまま魔石を受け取ると、それを勢いよく吸い取る。
「アニキ。その子……何者っすか?」
魔石から魔力を吸い出す姿を初めて見た、アリスと剛が目を見開いていた。
「わからん! でも、空気の読めないわがまま娘って設定になってる」
「わがままじゃないやい!」
「そんなこと言ってるから、唯にムカつく声、とか言われんだぞ。なっ、唯」
「そうですね。本当にムカついて、たまに思い出すと、衝動に負けそうになりますね……」
「ちょっ! お姉さんのそれは本気で怖いからっ!」
「えへっ!」
唯が可愛く笑うと、ベリルは諦めたように項垂れる。
「そう言えば、これはどうする? ポーション製造機だっけ? 持ってく?」
宗田が思い出したかのように、地面に無造作に置かれたドリンクバーのような機械を指さした。
「さ、さすがにそれはもらえないっす!」
「僕もそれは気が引けるから、宗君達が持っててよ」
剛とアリスがそう言った。
続けて、アリスがため息交じりに言葉を発する。
「それに持って返るにしても、これはちょっとね……」
機械で出来てるようなポーション製造機は見るからにかなりの重量があるように見える。
確かに、ゾンビやグールと言った奴を相手するのに手が塞がるのは致命的だった。
かく言う宗田達はお互いがそれなりにフォローし合えるが、アリスと剛には少しの疲労が見えている。
「それもそうだよな……俺もこれどうしようかな」
宗田がぼやくと唯がベリルを下に降ろし、ポーション製造機に近寄る。
「よっと! あ、軽い。宗田さん、そんなに重くないですよ」
唯が武器を持たない方の手で、脇に抱きかかえるように持ち上げた。
重さを感じさせない動作に、魔法か何かで軽くなってるのかと思い、唯を手招きして呼び戻す。
「ちょっと、唯、それ持ってこっちにきて」
「はーい」
ちょこちょこ宗田の近くに寄ってくる。
「一度、その機械みたいなの下に置いてもらっていい?」
「あ、はいです。……よいしょっと、な」
唯の可愛らしい掛け声と共に、傷がつかないようにとゆっくりと地面に置いた。
「本当にそんなに軽いの? どれどれ……あっ」
宗田が両手で持ち上げる。
「確かに、そこまで重くはないけどさ……片手は絶対に無理だ」
「そうですか? ひょいって簡単に持てましたよ」
唯が首を傾げてこっちを見る。
「アニキ、自分も持ってみていいですか?」
宗田と唯のやり取りに興味を持った剛が近づいてくると、宗田はポーション製造機を地面に置いた。
「どれどれ……」
剛が指の関節をポキポキと鳴らすと、それに合わせて盛り上がった胸筋がヒクついた。
体脂肪を削ぎ落とし、筋肉で圧迫された血管が皮膚に浮かび上がっている。
鍛え抜かれた肉体は鋼のよう。
その剛腕が、ポーション製造機に添えられると、剛が腰を落として力を込める。
「んぎぎぎっ! なんだこれ……めちゃくちゃ重いぞっ!」
歯を食いしばって何度か試してようやく腰の辺りまで持ち上げることに成功したが、剛はそこから一歩も動くことができなかった。
「アニキも姉御もやばいっす……どうなってるんすか」
完全な敗北に剛が崩れ落ちる。
「やーい! 見せかけ筋肉っ!」
アリスが茶々を入れるが、剛は強く睨み返すだけで動くことができない。
それを見て、意地悪な笑みをアリスが浮かべて追い打ちをかけていた。
ベリルもそれに意気揚々と参戦して、アルスと二人ではしゃいでいる。
「ほらほら、ベリルちゃんだめですよ」
唯がベリルを引き離す。
「お姉さん! もう少しだけだから、遊ばせて! お願い!」
「唯ちゃん! 僕からもお願い!」
ベリルとアリスが懇願する姿は、年齢の離れた姉妹に見える。
みんなの微笑ましい光景を眺めて、宗田の心の陰が少しだけ薄れる。
ただ、たまに戻ってくる過去の影がどうしても離れようとしてくれない。
まとわりつくようにいつまでも追いかけて、どうやっても自分がこの世界の一部になることを拒絶しているようだった。




