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この声は神の声

 ――パンパカパンパンパーン

 ――おめでとうございます。

 ――クエスト「二人の生存者」を完了いたしました。

 ――報酬:「無機質な大斧」

 ――贈呈開始。


 葵の両親の両親がゾンビになり、それを倒した時に聞こえた声がした。

 馬鹿にするように、妙に明るいラッパ音が鼻に付くが、もらえた報酬は確かなものだった。


 宗田の目線の高さくらいに光が浮かび上がると、そこから伸びるように斧の先端が飛び出してくる。

 持ち手部分まで金属でできていて、刃の部分は人の胴体ほど大きかった。

 その逆側には控えめな刃が付いており、それが光を跳ね返し思わず目を細める。

 完全に全てが出現すると、宗田の身長より僅かに大きい。


 「ぐぅ……これは重い」

 宗田は両手を使ってどうにか持ち上げることはできたが、足元がふらつき思うように動けなかった。

 これを扱うにはもっと位階を上げる必要があるかもしれないと、諦めて地面にそっと置く。


 「ねぇ……剛、今のって」

 「あぁ、多分……"神の声"じゃねぇか?」

 剛とアリスがぼそりと口を開くと、宗田が振り向いた。

 その瞬間、背筋が伸びるように二人は体が固まり、動けなくなっていた。


 「今の声、知ってるの?」

 いつもの調子で声をかけたつもりだったが、二人の喉がキリキリと締め付けられるように音が出ず、口だけが虚しく動いている。


 落ち着かせようと、もう一度声をかけようとした時――


 ――エクストラミッションが開始されました。

 ――安全領域の展開を中止。

 ――ミッション「白い軍団」


 神の声と呼ばれた声が再び天から降り注ぐ。

 次の瞬間には落ち着きを取り戻した、空気が震え出した。

 何か蠢くように音が聞こえると。


 「たべたい〜」

 「おなかはぼくの」

 「あしからくう」


 そこかしこで声がした。

 宗田の体が緊張で強張る。


 逃げる方法を模索しようと、周囲を見渡すが赤い目玉がギョロリとひしめき合っていた。

 ポツリポツリと数が増え、民家の屋根にもそいつらが姿を現す。


 宗田の体から血の気が引いていく。

 指先が冷たく勝手に口が震えて歯がなった。

 二人を庇うように前に出たが、大量に浴びせられる殺気に宗田の足が竦む。


 「二人だけで……逃れる?」

 そう宗田が問いかけると。

 「……無理に決まってる。終わりだ、はは」

 剛が返事をしたが、力なく震えていた。


 それなら、置いて逃げるか?

 そう思いもしたが、まだ残っている宗田の心が足を止めさせる。


 ――イメージは……


 宗田の周囲に五個の球体を浮かび上がらせる。

 「限界か……」

 もっと数を増やそうにも、六個目を出そうとすると空気中に四散する。


 宗田の喉が鳴り、覚悟を決める。

 それと同時に――


 「――いただきま〜す!」


 一気に動き出す。


 「イメージは……炎弾」

 宗田の声は諦めたかのように力がなかった。

 「唯……ごめんね。――フルオート」


 炎の球体から一斉に発射された弾丸が、白い怪物にぶち当たるが、動きをわずかに鈍らせることしかできない。

 ただ、そのおかげで飛びかかろうとする奴らを地面に叩き落とすことには成功するが、致命傷を与えるまでにはいかなかった。

 どうにか今の一瞬を凌いでいるが、すぐに宗田の魔力に限界が来てしまう。


 「ここまでかよ……くそ――」

 悪態を吐き捨てた時、炎の球体は完全に消失し、宗田は片膝をついて座り込む。

 朦朧とする意識の中で、どうにか立ち上がろうとするが、余計にバランスを崩し、うつ伏せに倒れた。


 ヒタヒタと吸い付くような足音が耳のすぐ傍で聞こえると、観念したように目を瞑る。

 せめて苦しまないで死ねればいいなと思うが、感情のない魔物には無意味と悟ると、乾いた笑いが溢れる。

 

 「――空の悲鳴が敵を貫く刃となれ。サンダーアロー」


 アリスと呼ばれた女の声がした。

 剛と同じように呪文を口ずさむと、閉じた瞼の裏が明るくなる。


 「やっぱり……だめだよ、ね? はははっ」

 彼女からも完全に戦意が喪失したらしく、ただ乾いた声を上げるだけだった。

 

 今稼いでくれた時間で、ほんの少し回復した魔力を練る。

 震える足で立ち上がると、大口を開けた目の前怪物に手を突っ込んだ。


 「イメージは……炎弾」

 次の瞬間、そいつの穴という穴から煙が上がり崩れるように倒れる。

 宗田は避ける気力もなく、その巨体に潰されるように一緒に倒れた。


 「星……きれいだわ」

 文明が滅んで空気が澄み渡り、星が立体に浮き出るように綺麗に見えた。

 それを隠すように、別の怪物の手が顔に伸びてくると宗田は再び目を瞑る。


 「――宗田さーん!」

 遠くから、唯の声が聞こえた気がしたが死にゆく人間の最後の幻聴と思い、反応を示すことはなかった。

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