少しずつだが、薄れていく仮面
暴力的に叩きつけた拳から伝わる頭蓋を砕く音は心地良かった。
これまでの鬱憤をぶつけるように、ただ殴り、蹴り飛ばし、踏みつける。
ゾンビに対する蹂躙は、宗田の内側に秘めた思いをさらけ出そうとしていた。
「次は――お前」
額を鷲掴みにすると、電柱に向かって後頭部から叩きつける。
重い音の後に水気を含んだ音が宗田の鼓膜をなぞり、ぶるりと体が震える。
そして、ペロリと唇を舐めると、誰のとも知らない鉄の味が舌を刺激して口元が勝手に綻んでしまう。
過去を奪い去ろうとする奴は敵。
それは人も魔物も変わらない。
――だから、殺すんだ。
それが正しい選択なんだから。
目についた奴の四肢をもいで頭を潰す。
宗田の動きにゾンビついて行くことができない。
ゾンビが掴もうと動いた時にはその場に宗田はいない。
変わりに鉄球のように重く鋭い拳が飛んでくる。
運よく生き残ったと思っても、そのまま引き倒されて頭から中身をぶちまける結果となる。
「やばいよっ! グールが三体も!」
アリスが叫ぶと指をさす。
宗田がその先を目で追うと、今にも襲ってきそうな白い怪物が三体、こちらに向かって来ていた。
宗田が再び震えた。
それは恐怖ではないのは、吊り上がった口元が証明していた。
「はははっ!」
我慢できずに笑い声が漏れると、手の平を三体の白い怪物に向ける。
――イメージは戦車
――穿つ一撃は鋼鉄をも粉砕する
――敵を貫く咆哮
――紅蓮の砲撃
首の長いゾンビを葬った一撃を放つ。
「――ヤバすぎるだろ! アリス!」
爆風からアリスを庇うように、剛が覆い被さる。
宗田は爆風の先を見据えて動かない。
白煙が風に吹かれ徐々に視界が開けてくると、大きく抉れた道路と余波で崩れた塀が宗田の視界に移る。
三体の怪物の姿はそこにはなく、あるのは白い肉片と紫色の血液だけだった。
それがぶつぶつと泡立ち、肉の焼ける臭いが鼻腔を撫でた。
自分の魔法の威力に改めて気分が高まると、瞳孔が大きく開いたのが分かる。
そして、感触を確かめるように何度も手を握り、自分の内側に意識を向けると、魔力の塊は小さくなっているが、まだ余裕があることに乾いた笑いが勝手に溢れだした。
「大地は嘆きそれが怒りとなりて敵を貫く牙となれ———土槍」
その声は剛だった。
後方から迫る数十体のゾンビの足元が光ったと思うと、ぼこりと隆起する。
それが膜を突き破るように飛び出して、数体のゾンビの腹を串刺しにした。
「もう……無理、魔力切れだ」
「剛は休んでて、後は僕が」
アリスの両手には逆手に握られたナイフがあった。
「辞めとけ、お前の武器じゃ、ゾンビ殺れないだろ?」
アリスが歯を食いしばり、怯えたように体が萎縮する。
すると、剛の技で飛び出した槍のような土の柱が明滅を繰り返す。
「あ〜、後はアイツを信じるしかない」
その言葉と共に、土の柱が一斉に崩れ落ちた。
次の瞬間、溜まった圧力が開放されるようにゾンビがなだれ込んでくる。
「――んっ!」
アリスが目を強く瞑る。
――炎弾「フルオート」
その声と共に、銃声のような音が鳴り響いた。
リズムを奏でるように止まることなく、音が鳴り響きアリスが目を開けると、宗田が悪魔のような笑みを浮かべている。
宗田の周囲に浮かぶ三つの球体からは、連続して炎の弾が発射される。
一発撃つごとに白煙が上がり、通った空間は熱で陽炎のように揺れていた。
「はははっ――これはいいや」
宗田は笑いながら魔法を放ち続けた。
かつては一発撃つたびに、魔力が枯渇しかけていたが、今は溢れんばかりの魔力を感じていた。
制御も前より格段に上がり、なんとなくできるかもと試したら、球体を三つコントロールできた。
これもアスエラとの戦闘のおかげか、それとも"内に眠る"何かのおかげか……どちらにせよ、この世界で生きるため、彼女を守るためには好都合。
延々と続くような、宗田の魔法は一瞬にしてゾンビの群れを崩壊させた。
穴が空いた部分から赤い炎が燃え上がり、それが連鎖するようにゾンビ達が一斉に燃える。
そして、死にきれなかった奴らが這う姿は、地獄から逃げ出す亡者のように見えた。
宗田が一つ一つ頭を正確に打ち抜き、静寂が戻った。
時折、パチリと人の脂が弾ける音が宗田の奥で余韻として残り、それが少しずつ熱くなった心を冷ましてくれる。
熱気を帯びた空気が口から吐き出されると、ゆっくりと目を閉じて、二人に近づいた。
「大丈夫?」
そう優しく声をかけたつもりだったが、二人の瞳の奥は怯えるように揺れていて、それが宗田の心をチクリと刺した。




