表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/85

サーチ

 屋根の上に飛び移ると宗田は目を瞑る。


 ――イメージはサーチ。


 魔石の純度を調べるために使った魔法を使用すると、瞼の裏に小さい光が僅かに見える。

 それこそ消え入りそうなくらい小さく、意識を集中しないと分からない程度だった。

 

 それに遠くまで見通せるほど万能でもなく、ざっくりとした位置が分かる程度。

 宗田は落胆に肩を落として、閉じた瞳をゆっくりと開けた。


 真っ直ぐに見据えた先にあったのは、燦然(さんぜん)と広がる闇だった。

 明かり一つなく、薄く黒色をした似たような民家の屋根が立ち並んでいる。


 「…………。」

 宗田は無言でそれを見つめ続けた。

 今でも心の底では、崩壊した世界を否定し続けている。

 夜寝て、スマホの目覚ましに起こされて、気だるげに仕事に向う代わり映えのない毎日を繰り返す。

 だけど、何回起きても宗田の願いは叶うことはなかった。


 いつしか、自分もこの世界に呑み込まれて消えてしまいそうで、心が萎縮してしまう。

 決別をいつまでもできない、過去の日常が宗田の腹の中でずっと重く沈んでいた。


 その日常を覚えてくれるのは、神崎唯ただ一人。

 彼女を失えば、自分が完全消えてしまう。

 唯は強い。

 それこそ自分よりもだ。


 思いが強過ぎることで、妄信的に暴れてしまうが、彼女の戦い方は常軌を逸脱している。

 自分の体がどうなろうと意に返さず、宗田を助けるため狂い尽くす。

 その強さは絶大だが、一つ間違えれば一瞬で砕けてしまいそうで、そう思うと体が萎縮する。


 そうならないためにも、自分が強くならないといけない。

 彼女(過去)を失って、消えてしまうことだけは絶対にしたくなかった。


 宗田はが周囲を一瞥する。

 「ん? 今のは?」

 一瞬だけ闇を払うような光の筋が見えた気がした。

 

 「今の……行ってみるか」

 宗田が向かいの家を見据えると、軽く助走を付けて飛び上がる。

 「危ねっ、ギリギリだった……。でも、意外と行けるもんだな」

 向かいの家の屋根の端に着地すると、後に倒れそうになるのを踏ん張ってどうにか耐えた。


 「一気に……行くぞっ」

 宗田が大きく息を吸って吐き出すと、屋根の上を全力で駆ける。

 家の屋根に飛び移るたびに、ドンッと重たい音が響いて近くのゾンビが向かってくるが、気にせず突き進む。

 道路を進むよりも圧倒的に速く、そして普通の人間の力を超えていた。


 近くに行くにつれて、音が鮮明に聞こえる。

 誰かが戦っているような、乱暴な口調だった。


 ――――

 

 「――っ、アリス危ない! 下がれっ! ぐうっ!」

 男の叫びが聞こえた。

 それに答えるように、もう一人。

 「(つよし)もいいから逃げるよっ!」

 二人の声には余裕が無かった。


 その声に宗田の心臓の鼓動が速くなる。

 ゾンビに襲われた男性を助けられなかった無念が、腹の奥底から浮き上がってきたのだ。

 次こそは助けると、さらに加速する。


 「くそっ! しかも、"グール"もいるのかよ!」

 「どうしよう! 囲まれちゃったよ!」

 「……俺が囮になるから、アリスだけでも逃げろ」

 剛と呼ばれた男は、アリスと呼ばれた金髪の女を守るように、鉄パイプを片手に、ゾンビと白い怪物の前に立ちはだかる。

 

 「お前、身軽だろ? 後ろのゾンビくらい簡単に撒けるはずだ。早く行け!」

 剛がそう言うと、アリスはぎゅっと強く目を瞑り両手に握られたナイフを強く握る。

 「僕……置いて逃げるなんてできない!」

 「っ! 馬鹿野郎! 早く……もう、遅いか」


 観念したように剛が言うと、両手で鉄パイプを握る。

 構えた腕が震え、眉間には汗が流れる。

 アリスも激しい運動をした時のように、肩が大きく上下していた。


 「たべさせて〜」


 白い怪物が群れをかき分けるように前に出ると、鋭い牙を剥き出しに笑う。

 その歯の先端には、誰かを捕食したであろう服の一部が挟まり、血に濡れている。

 ベロリと口全体を紫の舌が舐めると、ゴキゴキと両手の指の関節を鳴らした。


 「いただきまーす!」


 白い怪物が地を蹴った――


 ――イメージは銃。

 ――打ち出すは炎の弾。

 ――敵の貫く一撃を放つ。

 ――炎弾「バースト」


 宗田が魔法の呪文を唱えると、白い怪物に吸い込まれるように一発は側頭に、二発は肩に食い込んだ。

 衝撃で弾かれるように体が激突すると、僅かな隙が生まれる。


 「ごめん、ちょっと借りるわ」

 「え? あっ、おい!」


 大男の声に反応する余裕はなかった。

 白い怪物が起き上がろうするのを足で踏みつけて、押さえると。

 炎弾が命中して出来た小さい穴に、鉄パイプを突き刺した。


 「あぎ……ひっひひひひっ」


 白い怪物の呂律がおかしなことになるが、かまわず奥に突き刺し、僅かに捻りを入れて脳を破壊する。


 「よし、次だ」

 ゾンビが宗田に迫る。

 怪物の頭から、鉄パイプを引き抜いて顎から頭目がけて一突き。

 ぐるりと目が完全に白目を剥くと、そのまま崩れさる。


 ぞろぞろと集まるゾンビに目を向けて、一歩宗田は足を踏み出した。

 「死ね」

 その一言に宗田の憎しみが存分に込められているかのように、重く剛とアリスの肩が小さく震える。


 「剛、あの人大丈夫なんだよね? 笑ってるよ」

 「た、多分な。信じよう……」 

 

 剛の喉が鳴り、アリスは宗田の気迫に押されて指先一つ動かせなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ