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身体能力

 コツコツと石ころが転がり、最後にはぽちゃりと水に落ちた音が、闇に沈んだ道に染み渡る。

 ほんの小さい音でも波紋のように広がり、盲目の屍者の耳に聞こえるのではないかと嫌な汗が流れ落ちる。


 「一人ってこんなに緊張するんだっけ?」

 宗田の言葉に反応する人物は誰もいない。

 「今度、唯にバレたら冗談抜きで監禁されそうだよな……」

 その声は重たく沈んでいた。

 慎重な足取りで、ため池の横を通り過ぎると、駅の近くまで到達する。


 「やっぱり辞めとくべきだったか?」

 建物の隙間から顔を覗かせると、道路のそこかしこにゾンビの影が見えた。

 ここで音を立てれば奥から大量のゾンビが向かってくるだろう。

 小さい音に反応してはそこに向かって動き出し、肉がなければ動きを止めて、佇むように揺れている。

 その中を突っ切る覚悟はなく、迂回して駅前に向うことにした。


 「位階のレベル上げついでに、探索してようと思ったけど、予想以上に数が多いな……」 

 宗田のアパートの前では、ちらほらと見かけるくらい。

 しいて言えば雷のあの日に数が増えたが、すぐに散らばるように数を減らしていった。

 音以外にもなにかに反応してる可能性はあるのかもしれない。

 その他の要因に気をつけつつ、宗田は足を進める。


 ――――

 

 両サイドを民家の塀で囲まれた一本道の奥の方に人影が見える。

 「あれは……ゾンビか」

 わずかに生存者の可能性を期待したが、その希望は漂う腐臭に簡単に崩される。


 「――先手必勝」

 宗田が足に力を込めると、ふくらはぎの筋肉が意思に答えるように硬くなる。

 舗装された地面を強く蹴り上げると、一気に距離を詰めた。


 「――え?」

 瞬く間にゾンビとの距離が縮まり、その背中が目前に迫ると、宗田は右足を突き出してゾンビを蹴り上げた。

 その瞬間、足の裏にゾンビの体内で骨が砕ける感触が伝わり、全身の産毛が総毛立つ。

 蹴られた勢いのまま、何回転も転がり電柱にぶつかると、体がひしゃげて、ゾンビの両足は関節から捻じ切れる。


 「これ……俺が? どうなってるんだ?」

 まるで自分じゃないように体が軽く、踏み出した時にはゾンビが目前に迫っていた。

 背中に放った蹴りも、本来であればその場に倒れさせるだけのつもりだったが、結果は車がぶつかったように吹き飛んでいた。

 ペタペタと自分の足を触ってみるが、特に異常はない。


 「レベルアップで能力が向上した……のか?」

 それしか要因が見当たらない。

 アスエラとの戦闘でかなりの数を相手して、倒した。

 つまり、その分の経験値が宗田に入ったと言うことになる。


 「嬉しい誤算だけど、急に変わりすぎて……ちょっと、慣れないと危ないかもな……」

 ここぞと言う時に力加減を間違えれば、大惨事を引き起こす可能性もある。

 自分の力を確かめるように手を握り、真っ直ぐ見据えると、這うように迫ろうとするゾンビが見えた。


 「こんな姿になっても……死ねないのか」

 その言葉には憐れみのような重さが込められていた。

 「ゆっくり寝てくれ」

 そう言って、頭に向かって足を振り下ろすと、水風船が潰れるように形が消えた。

 以前までの自分ならば、この行為に吐き気を催してたが、今となっては泥で足が汚れた程度の不快感しかなかった。

 レベルアップで身体能力が向上した変わりに、人としての正常な心が消えていくようにも思える。


 「流石に……これから魔石を取るのはきついな」

 足を使ってゾンビをひっくり返すと、その胸を見て宗田が呟く。

 胸を引き裂く道具もなければ、さすがに胸を両手で引き裂くような行為ができるほど、心は失ってないようだった。

 軽く目を伏せてから、宗田はその場を離れることにする。

 

 ――――

 

 「これなら、魔法も少しは強くなったのか?」

 新しい物を手に入れて試してみたくなる子供のように、自分の魔法も気になった。

 

 胸の奥に意識を集中すると、奥の方で熱い力の塊が見えた気がした。

 それに触れるように意識をさらに潜らせると、バチリと雷に弾かれるように強制的に弾き返される。

 その力強さに、魔法も強くなっていると確信めいたものを強く感じ、逸る気持ちを抑えられず次の標的を足早に探し出した。


 「ちょうどよく……って、中々いないよな。それに俺の魔法うるさくて、ゾンビがわんさか集まるだろうし」

 駅から少し外れれば、ソンビを見つけるのは困難だった。

 魔法を試すことができず、肩がわずかに下がりとぼとぼと足を進めると、何か思いついたように足を止めた。


 「屋根……登れば見渡せるかも」

 宗田が試しに塀に向かって軽く飛び上がる。

 「マジか……」

 人の頭よりも高い塀の縁に一足で飛び乗ることがでできてしまった。  

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