名前
それからも、時間の許す限り銀髪の少女から講義を受けていた。
「どうして、魔石を持つ生物を倒すと位階のレベルが上がるんだ?」
「それはね〜。教えて上げましょう。ででんっ!
――倒した魂の一部が倒した人の魂に吸収されるからでした〜」
少女がパチパチと拍手をする。
「吸収?」
唯が口を開く。
「魂回って言うんだけど、そう言うシステムが世界にあるんだ」
「つまり、俺の身体には大量のゾンビ達が……」
宗田はわざとらしく、両手で肩を抱き震える。
「魂と言ってもエネルギーだけなんだけど、捉え方ではそうなるかな」
「ちなみにさ、効率よく稼ぐ方法は?」
「ブブーッ! お兄さん、ズルはだめです! 罰として脇こちょこちょの刑に……」
指をわきわきと動かして、にじり寄ろうとすると、鋭い殺気を感じて宗田と少女は固まった。
「あは……は、お姉さん、冗談だよ? あはは」
少女はすぐに宗田から離れると、朱色に染まりかけた唯の瞳が元に戻った。
「はぁ〜、お姉さん怖すぎ。そりゃ、お兄さんの夢に出てくるわけだ」
疲れたように少女がぼそりと呟くと、宗田の表情が固まった。
今思い出してもあの夢のできごとを鮮明に思い出すことができる。
唯には申し訳ないが、夢の中の彼女はアスエラと対峙した時よりも、禍々しくて狂気に呑み込まれているように思えてしまう。
それだけ強い思いなのだが、単純な人を好きになるとは違い、もっと生々しくて根源的に欲する欲望そのものに見えた。
でも、唯の思いが強いからってどうして夢が繋がったのだろうか?
「どうして、夢で唯と繋がったんだ?」
「んー、説明が難しいけど、魔王が現れる前に変なこととか無かった」
宗田はその日のことを思い出す。
「あ、そう言えば……空間が歪んだり、店員が……ゾンビに見えたり、なんかいつもと全然違ったと思う」
「そう! それ! 今ある世界が侵食されると、少しだけ理が曖昧になるんだよ。
それで、強い思いに負けて、お姉さんの思いがお兄さんの精神に届いちゃったわけ。それでも、そうそう起きないことなんだけどね……」
唯の宗田にたいする気持ちは、曖昧になったと言えど法則を捻じ曲げるほど凄いと言うことが分かった。
少女が宗田に触れようとすれば、すぐに反応するし、アスエラとの一件以降、たがが外れたような気がする。
その本人に目を向けると、頬を赤らめて下を向いていた。
耳まで真っ赤で、こちらの様子を見るように、たまに視線だけが飛んでくる。
こうして見ると可愛らしいのだが、ひとつ間違えれば、思いが爆発する時限爆弾のように危険を孕んでいた。
「お姉さんの中からずっと見てたけど、危険が迫ったら逃げろとか、それは使っちゃだめって言うとすぐに怒るからびっくりしちゃったよ」
たまに怒鳴ったり叫んだりしてたのは、そう言うことだったのか。
「そ、それは、君が宗田さんを置いて逃げろとか、見捨てろとか言うからじゃないですか!」
唯が慌てて顔を上げると、弁明するようにまくし立てる。
「えへっ! だって宿主守らないと僕消えちゃうからさ。お兄さんの命なんてって思ったけど……さっきので考えが変わったよね〜」
少女は悪びれた様子もなく、そう口にした。
「つまり、お前が全て悪いってことね」
宗田は唯の味方をすることにした。
「えー、それはごめんってば! でも、お兄さんがまさかね〜」
含みを持った言い方に、宗田が聞き返すが少女は笑顔を見せたままで答えを教えることはなかった。
やっぱり自分で見つけろってことなのだろうか。
「ところでさ。ずっと僕をお前とか君とかじゃ、あれだし、名前つけてくれないかな? ん〜、できれば格好いいのがいいな」
少女はねだるように唯と宗田を交互に見る。
「花子は?」
宗田がふざけて言うと、銀髪の少女はギロリと睨んでくる。
乾いた笑みを返すと、唯と目が合う。
「名前、何がいいでしょうね……?」
「コロコロ表情変わるから……コロ助とか?」
唯と宗田は中々思いつかず頭を悩ませる。
すると、唯がなにか思いついたかのように口を開いた。
「コロコロ、コロ助……コロコロコロコロ。あっ、それなら"ベリル"なんてどうかな?」
「ちょっ! お姉さんの頭の中ミラクル過ぎない? コロコロ言ってたのがどう変換されたらベリル、なんて格好いい名前になるの?」
宗田の心の声を、少女が代弁してくれた。
「えへへー、格好いいでしょ。前にベリルって鉱物は色で呼び名変わるってのを見たの思い出して、宗田さんが表情コロコロ変わるって言ったから、どうかなって」
少女は考えるように俯くと、勢いよく顔を上げ目を輝かせる。
そして満面の笑みを浮かべると
「ベリルか〜……うん! 気に入った! 今日から僕はベリルだ! お兄さんお姉さん、改めてよろしくね」
葵と言う存在はアスエラによって消えてしまったが、新しく銀髪の少女、もといベリルが仲間に加わることになった。




