少しずつ明かされる真実
銀髪の少女の言葉を素直に受け入れることはできなかった。
向かいに座る唯も同じように動揺が隠せず、瞬きの回数が増えている。
死んだと言うことならば、今こうして存在する肉体はなんなのだろうか?
葵が消えた悲しみや、唯を守ると決めた決意、その全ては虚構。
実はここは地球じゃなくて、死者の世界となるのか。
混乱が絶頂を迎えようとすると、少女が続きを話かけてくる。
「でも、お兄さんもお姉さんも生き返った。つまり、魔素に適応できたんだよ。あっ、ちなみに魔素は不思議な力を使うのに必要な"エネルギー"だからね」
少女はさらに言葉を続けた――
「――違和感なかった? こうなる前に」
そう言われた時、唯がぼそりと呟く。
「胸……熱かった」
「そう! それっ! それは適応者の証だよ」
「えっと……つまり、その違和感がない人は……」
「全員――死んだよ」
あの時のことが鮮明に蘇る。
「え? じゃぁ、家族は……? そんな、嘘だよね?」
唯が嘆くように口を開いた。
「もし、何もなければ……残念だけど」
この世界になる前に、自分も家族に連絡をしていたが、家族全員が違和感がないから心配するなと言っていた。
唯の家族もそうだ。
少女の言葉を信じるなら、全員が――死んだ。
「いや! 嘘! そんなの信じられない!」
唯が悲痛な叫びを上げて立ち上がった。
「――唯!」
外に行こうとする彼女に宗田が名前を呼ぶと、今にも泣きそうな顔で振り返る。
その顔を見た宗田も胸が強く締め付けられ、胃が裏返りそうになった。
自分達も生きてるんだから、家族もきっと。
そう思うようにしていたことが、少女の言葉で完全にひっくり返った。
目の前が歪み出し、宗田も唯を追いかけるように立ち上がった。
少女の言葉を信じてないわけじゃない。
自分の目で確かめないと気がすまない。
ただ、それだけ。
「二人とも待って、ここからが本題だよ」
少女がこちらを見て話しかけてきた。
「本題って……なんだ?」
少女を見下ろすように宗田が言う。
「うんうん。怖い顔しないでね。葵って子も、家族も、この世界を戻す方法が一つだけあるとしたらどうする?」
その言葉で部屋の空気が沈む。
唯も宗田も次の言葉を黙って待っていた。
再び少女が口を開く。
「――魔王を殺すこと」
淡々とした口調で少女がそう言った。
「んまっ、魔王を殺してとある"神器"を奪えば元通りだよ。"彼も"まだ一度しか使ってないしさ。あと二回は使えるからね」
――――
宗田と唯は向かい合って座り直していた。
「少し落ち着いたかな?」
少女がそう聞いてくる。
「少しは……唯は大丈夫?」
宗田が唯に話しかけると、小さく頷くが指がせわしなく動いている。
「落ち着いたなら、何よりだ。じゃぁ。後は二人が決断するだけだね。魔王を倒すか、今の世界と現実を受け入れるか。これから君達はどうする?」
少女の問いかけに、唯と宗田は黙り込む。
俯いて頭の中で、思考を巡らせた。
魔王を殺すと言っても、どこに居るかすら分からない。
まして、今の自分達で倒せるのかと言えばどうなのだろうか。
「なあ、魔王は何処にいるんだ?」
宗田が少女に問いかける。
「あー、それはね……内緒。と言うか言えないんだ」
「言えない? どうして?」
「この世界を創り変えた魔王は……神と同類。つまり、そのルールで魔王を見つけることが条件付けされてるんだよ。破れば……完全に滅ぶよ」
神と同類か……。
「今の俺達で勝てる?」
「瞬殺されるね」
少女の言葉は冷酷に事実を告げた。
「でも、可能性はあるよ。特に、お姉さん。本当に凄いよ! こんなに狂ってる人間久しぶりに見た!」
少女は目を輝かせて唯を見た。
「君の力はなんなんだい? 彼に対する愛? 初めてみたよ。こんなに狂った魔法、存在してるなんてさ。やっぱり僕が選んだだけある」
少女がずいっと顔を近づけ、まくし立てるように唯に言うと、その圧に押されるように後に体を仰け反らせた。
「ちょっ! 近いです!」
唯は少女を押し返す。
「それに、恥ずかしいから……あんまり愛とか、その本人の前で……」
唯は耳まで真っ赤にしながら、最後は聞き取れないくらいの声で呟く。
「でも、宗田さんは……私だけが……うん。やっぱり、そうかも。あは、どうしてこんなに体が熱くなるんでしょう?」
顔を上げた唯の瞳が朱色に染まる。
それはベリルの真紅の瞳よりも、もっと黒く禍々しい。
またさっきのように彼女が狂いそうになると、少女が慌てたように口を開いた。
「ストーーップ! この人、危険! お兄さんヘルプ! 助けて!」
少女が宗田の後に隠れ、肩から顔の半分を覗かせて唯を見た。
「ゆ、唯、ちょっと落ち着こう……魔王をどうする決めないと、ね」
唯から放たれる圧が部屋に重くのしかかると、宗田は口を開くのすらやっとだった。
「え? あ、はい。すいません。私ったら、少し興奮……取り乱しちゃいました。魔王ですよね、宗田さんはどうしたいですか?」
唯の瞳が完全に赤に染まる前に元に戻ると、まくし立てるように話す。
少女が吐き出した息が頬を掠めると、隠れるのを辞めて自分の場所に戻った。
「いや〜。お姉さんも中々だね……僕がこんなに驚くなんて、初めてかも……」
銀髪の少女が肩を落としながら、残ったオレンジジュースを飲み干し、唯を見つめ続けていた。




