銀髪の少女の正体
「すごく、久しぶりに戻ってきた気がします」
変わり果てた宗田の部屋に戻ってくると、唯がそう呟いた。
宗田も部屋を見渡すと、散乱したガラスに壊れて外れた扉が床に立てかけてある。
壁の一部は完全に崩れ、隣の部屋まで見えていた。
唯と葵と三人で過した日々が宗田の頭の中で蘇り、寂しさが胸の奥で重く沈んでいる。
「本当だよ」
唯の呟きにそう返すと、宗田は窓に近寄って外をなんとなく眺める。
怪物の死体の山に、壊れた車、外の景色もすっかり変わり果ててしまった。
「あっ、ゾンビ……」
なんとなく眺めていると、ゾンビの影が見える。
「結界解いたから気をつけてね〜」
銀髪の少女が手をひらひらしながらそう言った。
宗田はちらりと目を向け頷くと、再び視線を窓の向こうへ戻す。
「そう言えば、葵さん……ずっと窓の外を眺めてましたよね? なんだったんでしょう」
あれは雨の日だった。
ゾンビを見つけると、ずっとそいつを見つめて声をかけても反応をしなかった。
「なんだろうね? もしかしたら、解剖でもしたかったのかもよ」
「解剖!?」
宗田は唯に葵のことを話すことにした。
――――
「感情をあのアスエラって奴に……それに色欲の王ですか。葵さん……助けられないんですかね?」
「アスエラは確かもう時期消えるって言ってたから……でも、諦めたくはないんだ」
「葵さん、探しに行きますか?」
唯との会話をしていると、最後に苦しんで泣いていた葵のことを宗田は思い出してしまう。
それが、胸を強く締め付けて吐き気のような嘔吐感が襲う。
堪えるように歯を強く噛み締めると、その音が頭蓋を揺らし、黒い感情を持ち上げようとしてきた。
いつの間にか強くに握り締められた拳には汗が滲み、助けることができなかったやるせなさをぶつけるように横の壁を軽く叩く。
探しに行こう。
そう口にしようとすると、宗田と唯の間に銀髪の少女が割り込んできた。
「お二人さんはあの子を助けたいのかな?」
少女の表情は道化師のようなヘラヘラとした雰囲気は無く、感情が消えていた。
「あぁ……だから、今すぐにでも――」
「――それは辞めた方がいいよ」
宗田の言葉が遮られる。
「それはどういうことなの?」
唯が少女に聞き返す。
「大罪の王が部分的で顕現したら、人間の感情なんてすぐに消えちゃうんだ。だから、今見つけられたとしてもできるのは……彼女を殺すこと。それしかできないよ」
その少女の言葉に二人は黙り込む。
「なんで……そんなことを知ってるんだ? お前はなんなんだ?」
少し間を開けてから、宗田が言葉を発する。
「僕はね〜。■■■」
そう口にした言葉は確かに聞こえてくるが、言葉を理解することができない。
「え? 今なんて」
唯が口にする。
彼女も宗田と同じで、少女の言葉を"理解"できないようだった。
「やっぱりまだ聞こえないんだね……」
少女の顔は少し寂しさを含んでいる。
言葉はすぐに部屋の空気に沈んでしまい、三人を寂しい空気が包む。
銀髪の少女がわずかに目を伏せすぐに前を向くと、この空気を壊すように口を開いた。
「うん! 僕はね、凄い精霊なの! 精霊の中でとても偉い存在なんだ。だから、あんなこともこんなこともできちゃうんだよ!」
腰に手を当て胸を張り、偉そうな態度を見せた少女だったが、今の言葉には嘘が十分に含まれていることは分かった。
宗田はなんとも言えない気持ちになり、頭に手を乗せ、軽く撫でる。
「ちょっ、僕は子供じゃないんだよ!? 本当はこんな姿になるわけじゃなかったんだからね! 魔素が薄すぎて、体の構築が上手くいかなかったの!」
宗田の手を跳ね除けると、抗議の声を上げてくる。
「とりあえず、お兄さんお姉さん、中に入らない? そこで葵って子を助ける方法と、僕の知ってる情報教えるからさ」
銀髪の少女が、部屋の中にそびえ立つ扉に向かって指をさした。




