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彼女を止める方法

 「ねぇ、お兄さん……これ、どうしたらいいと思う?」

 殺意剥き出しの唯を指さして、懇願する子供のように少女は困った顔を宗田に向けた。

 

 「さっきみたいな……魔法は?」

 「もう無理、全部使っちゃった。これ以上、使ったら僕、消えちゃうし。そしたら、君の封印も解けちゃうよ」

 宗田の力について、この少女は何か知っているようだった。

 それをこの場で聞き返したかったが、後で問い詰めればいい。

 だから、今も戻らない唯をどうにかすることを選ぶ。

 

 「唯、もういい! 落ち着いて!」

 「あ、待っててくださいね。今、そいつを殺してから、すぐに行きますから」

 こんな感じで、宗田の声すら届かない。

 「もう、お姉さん、なんなの……本当に」

 うんざりするように少女は肩を落とす。

 「もういいや……お兄さん、後は――お願い」

 指をパチリと鳴らすと、唯を縛った鎖が砕け散った。

 その瞬間、唯が消えたと思ったら少女の前に現れる。


 宗田が少女の服を引っ張り抱き寄せると、鈍い音が耳を掠めた。

 「あれ? 宗田さん? なんでそいつ庇うの?」

 唯が空を切った空間を少し見つめてから、こっちを振り向いて、首を傾げて宗田に問いかけてくる。

 ただ、見られてるだけなのに視界の隅が黒くなり、首を絞められるような圧迫感に呼吸ができなくなった。

 アスエラと初めて対峙した時と同等か、それ以上のプレッシャーが唯から放たれている。

 心臓の鼓動がうるさく鼓膜を叩き、体が凍り付く。

 

 「おー、怖いねー。ほら、お兄さんファイト」

 死神に首に鎌を当てられてるくらいの殺気を脆に受けると、宗田の額に脂汗が浮かぶが、銀髪の少女は涼しい感じで受け流してしまう。

 この子は本当に何者なのだ?

 ちらりと見るが、あくびをしながら宗田の服の裾を摘んでいた。

 目が合うとニコリと笑って返すくらい余裕で、この子の回りだけ空気が違う。

 得体のしれない不気味さを背中に感じながら、目の前の唯に向き合うと、恐る恐る宗田が口を開く。

  

 「唯、いいんだ。この子は俺達を守ろうとしてくれた。だから、一度落ち着こう」

 「…………。」

 「な? ほら、この子何もしてこないだろ?」

 「……あは。その子に何かされたんですね。今助けますから、下がってください」

 唯の瞳は宗田の背中に隠した、子供に向けられている。

 「唯……いいんだ。これ以上は、辞めてくれ」

 宗田が懇願するように唯に伝えると、目を伏せて動きを止める。

 「……です。嫌です! 私の宗田さんを奪うのは、誰でも許さない。だから、どいて……私に殺させてっっ!」

 

 唯から一瞬、鳴りを潜めた殺気が噴き出し、空気中の酸素が萎縮したかのように薄くなると、いくら息を吸っても肩が大きく上がる。

 鼻呼吸は口呼吸に変わり、唇の湿り気が徐々に消え失せる。

 唯との睨み合いが数分続くと、彼女が痺れを切らしたかのように一歩前に出た。

 

 「辞めてくれ。唯」 

 宗田は何度も問いかけるが、彼女の足は止まらなかった。

 そのたびに、宗田と銀髪の少女が後に下がる。

 「きゃっ! いったぁーい!」

 ボコボコになった地面に足を取られて少女が転び、唯が一気に加速した。

 

 「――死ねっ!」


 その声と共に唯が消えると、間合いを一瞬で詰められる。

 少女の胸目がけて尖らせるように揃えた指を突き出す――


 「――あぐぅっ! 唯……だめ……だ」

 世界が真っ白になると、遠くに感じられた。 

 ――腹の真ん中が熱い。

 体から急速に体温が失われ、かじ噛んだように体が震えた。

 内臓を直接温める異物からは、彼女の温もりを強く感じるが、人の皮越しで感じるよりも生っぽくて、少し不快で気持ち悪い。 

 その異物がわずかに胃を圧迫し、鉄の味を押し上げて、口の中が生臭い鉄の臭いに満たされる。

 限界まで血液を口に詰められると、吐き出して唯の胸元を赤く染めた。

 

 「なんでっ――!」

 唯が慌てて手を抜くと、宗田の口から血が更に溢れ、膝から崩れ落ちる。

 完全に地面に着く前に彼女が支えてくれるが、指先が激しく震えていた。

 気管に入った血を吐き出しながら、青白い口を動かし宗田は絞るように声を出す。

 

 「もういいから……。大丈夫だからさ」

 真っ赤な指先を頬に添えると、唯は嫌がる素振りも見せず握り返してくれた。

 口元の震えを押さえるように下唇を強く噛む。

 無理やりひり出すように、唯が口を開くが震えが止まらないようだった。

 

 「私……治さないと――"治って"」

 その魔法の一言は反則だと思う。

 主人公がヒロインのために死ぬ。

 そんな美学を全否定するかのように、腹の傷があっと言う間に塞がり、冷え切った温もりが元に戻ってしまう。

 そして、閉じた目を開ければ、赤色から黒茶色に戻った唯の瞳と目があった。


 「唯……流石に痛かったよ」

 自然と出た言葉は唯に対する文句だったが、口元が緩む感覚に自分が笑っていることに気づく。

 声がようやく届いたようで、顔がしわくちゃになると、宗田の頬が濡れた。

 ゆっくりと体を起こし、涙を右手の親指で拭う。

 「うぅぅ……わ、私……宗田さんを傷つけて……その、そんなつもりじゃ……嫌いにならない、で」

 泣きじゃくる彼女の頭に手を置くと髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで、撫で回す。

 宗田がひとしきり満足すると、その手を止めてしっかりと唯を見た。

 

 「嫌いになる? そんな訳ないじゃん。助けようとしてくれて……ありがとう」

 宗田の言葉に唯が胸に顔うずめて、肩をしゃくり上げる。

 優しく背中を擦ると、唯の温もりが指先を伝ってきた。

 それが、今日の戦いの終わりを告げるように、煮えたぎった心を静かに包んでいる。

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