止まらない
「ありゃ――なんだ、この姿はー!」
おとなしそうな風貌の銀髪の少女は、口を開くと騒がしく、見た目との乖離が著しい。
自分の体を角度を変えながら確認すると、最終的には頭を強く掻きむしってから項垂れてしまった。
とりあえず殺るか?
宗田が剣を静かに構えると、一足で距離を詰めて首を斬り落とそうとエクリプスを振るった。
「――なっ!」
唯の攻撃が防がれたのと同じ魔法陣が出現すると、宗田の一撃は軽々と防がれる。
「それなら……」
上から下に、そして右左と振るい続けるが、その全てが無駄に終わる。
くるりと少女が振り返ると、少し宙に浮く。
宗田の額の高さに位置を合わせると、デコピンをするように指を当てた。
次の瞬間には、空が視界に映っている。
「もう、危ないなーっ! 落ち着いてよ。私は敵じゃないんだよ! もうもう! そこで反省しててねっ」
むっすりと頬を膨らませる少女は宗田に言い放つと、唯とアスエラに向き直る。
「宗田さ……」
「いやー、これでお姉さんとゆっくり話が……って――え? えええっ! たんま、ストップ!」
ぶちぶちと言う音と共に唯の腕が千切れ、瞬時に元に戻る。
鉄色の鎖には本体を無くした腕だけがぶら下がり、残った血だけが地面に滴る。
「本当に待ってよ! ごめんってば! 彼にはもう何もしないからさ! あ〜、もう何なのっ!」
自由になった腕で今度は足を引きちぎり、血走った目で銀髪の少女を唯の瞳が射抜く。
噛み締めた歯を剥き出しに、鼻息荒く少女へと近づく。
「私、宗田さんを傷つける人、許せないんですよ」
荒ぶった獅子のような姿とは反対に、唯の声音はいつもと変わらない。
「だから、腕がなくなろうが、足が千切れようが――殺します」
唯の標的が、アスエラから少女に完全に変わる。
「ちょっ、本当にだめだって……も〜、動きを封じてね――咎人の鎖。ぐるぐるぐるぐる巻きで。足りない分は、あの子からもらって」
アスエラから鎖が外れると、それが唯に向かって伸びる。
彼女は冷たい目でそれを見つめ、殴りつけた。
「これくらいで、私と宗田さんの邪魔が出来るとでも?」
合計で五本の鎖、それを唯は糸も簡単にいなして、一本を両手で掴み取る。
アスエラの魔法を破壊した時のように、血管が浮き出るほど力を込めると、金属が破断するような重く高い音が聞こえる。
「お姉さん……本当にデタラメだね。お兄さんより、よっぽどやばいんじゃない」
銀髪の少女から乾いた声が漏れる。
「でも、残念でした〜」
口がにやりと曲がると、唯の背後から無数の鎖が現れる。
唯が飛び退いて避けたが、それを予測していたかのように今度は空から鎖が唯に伸びる。
「――くぅっ!」
地面から伸びた一本が足に巻き付くと、これ見よがしと唯の体に巻き付き、鎖の塊となって地面に落ちた。
「ふぃ〜っ」
少女が額の汗を拭い、一息吐くと。
「たく、何なのよお前らは! これ以上付き合ってらんないですわ。また、お会いしましょう。その時は、全員生きたまま解剖して、キメラにでもしてあげますね」
アスエラがバサリと翼を羽ばたかせる。
「ちょっ! やばっ! 逃げられる! ――咎人の鎖……って、あれ? え? 魔力切れちゃった」
銀髪の少女が慌てたように声を上げる。
「次までに、もっとこの体を"改造"しておきますね……それでは――ごきげんよう」
拘束が無くなったアスエラは、言葉を吐き捨てると空の向こうに姿を消した。
アスエラが逃げたことが宗田の心をさらに荒ぶらせ、それを合図に目の前の子供に全ての殺意が向く。
「――壊れろ」
そう呟くと、宗田に巻き付いた鎖が砕け散る。
「二人揃って感情のままにか――狂ってるね。でも、嫌いじゃないよ。人間らしくて、一番輝いてるね」
宗田の姿を慈しむような目で銀髪の少女は見ていた。
「でも……これ以上はだめ。はい、その力は封印だよ」
突っ込んできた宗田の胸に手を当てると、全身を覆うようにアラベスクのような、植物を模した模様が浮かび、それが宗田の中に溶け込んでいく。
「これで、オッケー。後はお姉さんねって、こっちが一番厄介かも、はははっ……」
銀髪の少女が離れると、体から一気に力が抜けて膝から崩れるように座り込んでしまう。
そして、乾いた音の後にバキッと折れる音がすると、禍々しい色に染まったエクリプスが砕けて消えた。
それと同時に、宗田の内から湧き上がる破壊衝動が、蓋をされたように完全に消失した。
胸の中にぽっかりと穴があいたような空虚が現れると、そこを埋めるように、いつもの宗田の感情が戻った。
口元が震え、顔を手で覆うと震えた声が漏れ出した。
「あ……俺、どうしてあんなに……」
アスエラと言う色欲の王に対して、怒りと殺意を向けるだけなら分かるが、葵を取り戻せるかどうか分からないのに、彼女を殺すことしか考えられなかった。
もし、本当に殺してしまってたら、葵は完全に消える。
冷静になって思えば、自分のしたことに今になって指先の震えが止まらない。
それに――唯……彼女にもなんて気持ちを抱いてしまったのか。
宗田の体内が金属にすげ替えられたように重たく、錆びついていくように感じられた。
「お兄さん! そんなところで呆けてないで、ちょっと手伝ってよ!」
銀髪の少女が少し離れたところで騒いでいる。
その横には、唯が鎖に巻きつけられていた。
「ちょっ――本当にお姉さんおかしいよ!」
何度も揺さぶって、ボールのように唯が転がり出す。
……次の瞬間、少女を轢き殺そうとしていた。




