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赤色の瞳の来訪者

 「はぁ〜、また腕なくなっちゃった。"治れ"」

 宗田の腰に残った腕を回したまま、唯が心底残念そうにため息を吐くと、アスエラの魔法を弾き返した左腕を見つめた。

 仕方なく、と言った感じで魔法で治療すると、名残り惜しそうに宗田から離れて、背中を向ける。


 「今、宗田さんと一つになろうとしてたのに……邪魔しないでくれる?」

 宗田に向けられた声とは違い、アスエラに向けられた唯の声には無機質で色が何も乗ってないように冷たかった。

 「さっ、宗田さん。私を殺してください」

 アスエラのことを無視すると、唯が振り返ってこれからデートにでも行くような、軽い感じでそう告げる。


 「お、お前っ……どこまでもコケにしやがって――」

 貴族のような丁寧な口調は消え、低く棘のある言葉で唯を刺した。

 羽を一度羽ばたかせると、唯に向かって一直線に向ってくる。

 宗田は黒く染まったエクリプスを剣の形に戻すと、追撃しようと足を踏み出すが、それより早く唯が動いた。


 「――ぎっ!」

 アスエラの顔面に右腕を突き出し、そのまま足を大きく上げて、後頭部に叩き込む。

 溶けたタールが固まり、波打った模様のアスファルトの地面に顔面から突き落とされ、弾け飛ぶ。


 壊れた頭を急いで持ち上げると、両手で地面を押し返し、アスエラは一気に距離をった。

 すると、そいつの頭から触手のようなものが現れ、瞬時に元に戻る。


 「しぶとい……少し待っててください。邪魔者は消しますから。それから、私と一つになりましょうね」

 憎悪を上回るような、唯の狂った雰囲気に宗田は動くことができなかった。

 

 「いいのかしら? もし、私を殺せば中にいる彼女は消えるのよ」

 アスエラが必死に訴えかけると、唯の動きが止まった。

 「そう、それでいいわ。一歩も動かないで――」

 「――それがどうしたの?」

 唯が小首を傾げ、止めた足を一歩前に踏み出した。

 「――えっ?」

 アスエラから間の抜けた声が出た。

 「葵さんだろうと、あなただろうと関係ありませんよ? 私の宗田さんを傷つけた。それが誰であろうと――殺します」

 「いや、ちょっと待っ――」

 「葵さんには申し訳ないですが、ここまでされたならもう我慢できません。それに、これで宗田さんに嫌われても、殺されて一つになれれば――満足なんです」


 唯の宗田に対する思いに、アスエラの顔が引きつった。

 色欲の王を自称しているはずが、狂った愛には共感を得ることができないようで、一歩下がり叫ぶ。

 「なんなんだお前は――近づくなっ! 来るなっ!

 来ないで! 気持ち悪い!」

 唯の狂気に当てられたアスエラが狂ったように叫び続ける。


 「それじゃぁ、さようなら。今まで、ありがとう――」

 「本当、い、いいわけ? 彼女、死んじゃ――」

 アスエラの言葉が途切れる。

 

 すると、葵の声が聞こえた。

「唯ちゃん。今までありがとうございます〜。気にせず私を殺してください〜。さようなら」

 葵が最後の言葉を残して消えていく。 

 「クソッ! こんな時に出てくるなっ」

 悪態を吐くアスエラ。

 

 突然、葵が現れると宗田の肩がわずかに跳ねた。

 その瞬間、憎悪が揺らぎ、唯に向かって宗田は叫んだ。

 「唯――やめろっ!」

 「ごめんなさい……宗田さん」

 だけど、唯は止まらなかった。

 アスエラに向かって一直線に突き進むと、重い音が遅れて宗田の鼓膜を揺らした。

 全ての力を込めたであろう、渾身の一撃がアスエラの顔に吸い込まれる。

 これで、葵は死ぬ。

 宗田が覚悟を決めようとした時だった。


 透き通るような声がした。

 「はーい。ストップね〜」

 聞いたことのない声だった。

 「いや〜、これは驚いたよ。素手で、障壁にヒビを入れるって、お姉さん何者なの?」


 唯の一撃はアスエラの前に現れた、黄金の魔法陣に受け止められる。

 ピシリと端に向かって亀裂が入るが、それでも貫けない。

 空中から現れた鎖が唯とアスエラを拘束し、脱出を試みようとするが、抜け出すことはできなかった。


 宗田の目の前の空間が渦を巻くように歪むと、にゅるりと人が這い出てきた。

 腰まで伸びた銀色の髪に、唯と同じ赤色の瞳を持つ子供が地面に降り立った。

 ふわりと髪をなびかせて神々しさを身に纏い、ドレスのような服のスカートを少し持ち上げると、深々とお辞儀をする。


 「やぁやぁやぁ、お兄さんにお姉さん、はじめまして。こんにちわ、こんばんは」

 無邪気に笑う子供に、宗田の視線は釘付けとなった。

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