アスエラと宗田
「――イッ」
一振りで首長ゾンビの頭から体までを縦に引き裂く。
刀身の長さは関係なく、触れたものを自由に引き裂いてしまう。
「おにく〜」
宗田が足を踏み込むと、振り下ろされた腕めがけて剣を軽く振ると、水が噴き出るように血液が噴射する。
白い怪物が反対の腕で掴みかかろうとする。
それをくるりと一回転するように宗田は避けると、反動を利用して首を跳ねた。
落とされた首の口だけが宗田を食らいつこうと動き続けるが、冷たい視線を向けると頭に向かって足を振り下ろす。
足の裏がぬめりとしたが、宗田は視線を落とすことはなかった。
まっすぐに死者の大群を見据え、にやりと口元を歪ませる。
「お前――皆殺しだ」
その言葉と同時に宗田が加速する。
大群のど真ん中目がけて飛び上がると、真下にいたゾンビを踏みつぶす。
円を描くように回転すると、複数の魔物達の胴体と下半身が引き裂かれる。
「――燃えろよ」
その瞬間、引き裂かれた怪物から赤い炎が噴き上がる。
ひとつ息を呑む。
「収束――王の腸」
吹き上がった炎が一点に集まり渦を巻く。
ありとあらゆる物を吸い上げるように、赤い太陽が夜を食らい尽くすがの如く、地表を照らした。
それが、へこんでは元に戻ると、不気味に歪む。
まるで形を整えるように歪んで、悪魔の心臓のように形作ると、脈動を初めた。
戦い方は剣が教えてくれる。
魔法は勝手に頭に流れ込む。
自分の意思とは関係なく体が動く。
欲望のままに体を任せるん感覚が最高に気持ちいい。
だから――滅びろ。
「……怒り狂え」
世界が震える。
最後の呟きと共に、音が消えた。
赤と白が混ざった光が、視界を覆い尽くし瞳の奥を焼いてくる。
遅れて耳をつんざく、轟音と共に空気が悲鳴を上げた。
数秒間、全ての五感を失う。
次に見えたのはドロドロに溶けた怪物達だった。
「あなた、本当に何者なんです?」
空から落ちた声に視線を動かすと、アスエラの体を半透明な壁が覆っていた。
宗田はその場から動かず、無造作に剣を振るう。
「――危なっ!」
アスエラが体を捩ると、その横を光の筋が通り過ぎ膜が弾け飛んだ。
「凄いわね……まだ、完全に顕現できないけど、ここまで追い詰めるなんて、でも――残念でしたわね」
アスエラの瞳が細く長く伸ばされるように笑う。
「あなたの意識が少しだけ逸れれば十分」
宗田は足に力を込めると、空へ飛び上がる。
「――我は色欲の王。全てを魅了し、欲を司るもの。従え――魔界樹。束縛しろ」
アスエラが呪文を呟く。
宗田の魔法で溶かされたタールをかき分けるように、鼠色の根が突き抜けて迫ってくる。
体を捻ると、宗田は迫り来るそいつと向き合った。
高速で剣を振るい、斬り落とす。
しかし、四方から襲いくる根は止まることなく剣を持つ手を、足を体を絡め取り、地面に叩きつける。
脱出を試みようともがくと、アスエラが降り立つのが奥の方に見えた。
全身にへばりつくタールが宗田の肺をおかし、呼吸を邪魔する。
泥を踏み潰すような足音が目の前で止まった。
「魔力も封じたから、私の束縛からは逃れられませんわ。それにしても……強欲に憤怒して……あなたは使徒? いえ……二つもあり得ませんわ」
ぶつぶつとアスエラは呟くが、宗田にはどうでも良かった。
殺害対象が目の前にいる。
それだけで、血が湧き頭の細胞一つ一つが沸き立つ。
剣を振るおうと、渾身の力を込めると体内からブチリと音がして、自分の意思から完全に途切れる。
それならば、次は左腕だと力を込めたが結果は同じ。
「無駄ですわ。魔力も封じましたし、強欲の手で束縛を魔力に変換するのも不可能――詰みですわね」
宗田は忌々しく睨みつけるが、アスエラは意に返さない。
「私、実験と解剖が好きなんですわ。彼女を通して、いろいろ解剖させて暇を潰しましたが、どれも興味を唆らない。でも……あなた、最高よっ!」
アスエラが木の根に命じると、宗田を起き上がらせる。
宗田の顎の下に人差し指を添えて、恍惚とした表情を浮かべた。
「完全に顕現して、坊やを殺して世界を滅ぼそうと思いましたけど、とんだ拾いものですわね」
甘い吐息が鼻にかかると、宗田の神経を逆撫でする。
近づいたアスエラの顔に食らいつこうとしたが、笑顔を浮かべたまま軽い調子で避けられる。
「まぁ、怖いですわ。そう……実験も好きなんですが――人間が悶え苦しむ姿は同じくらい大好きなの。だ、か、ら。……みんな、頭だけを残して、たっぷりいたぶって私を楽しませなさい」
アスエラが呼んだ死者の大群は、宗田の一撃でほぼ壊滅したが、まだ残党が残っていた。
それに命令すると、宗田に躙りよる。
「さぁ、泣け! 命乞いしろ! そして、死ね!」
狂喜乱舞するアスエラを、宗田が射抜くように見る。
その奥で、二つの赤い目が揺らいだのが視界に映った。




