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聖剣再び

 アスエラは宗田の顔を舐め回すように見て、頬をペロリと舐めてきた。

 「その顔……とても美味しそうね」

 ざらついた舌の感触に宗田の表情が固まると、アスエラはねっとりとした笑みを浮かべる。

「あははっ! 我慢できるかしらね〜」

 葵に渡したナイフを喉元に突きつけられて、チクリとした痛みが走ると、喉仏を生暖かい液体が流れる感触がした。

 睨み返すが、アスエラは気にしない。

 痺れを切らして宗田が口を開く。


 「いいから……さっさと話せよ」

 吐き捨てるよう言葉を叩きつける。

 「せっかちですわね」

 そう言うと、アスエラが一歩下がる。

 「あの子はね〜……ずっと、すーっと自分の感情が食べられる恐怖を味わってたのよ」

 「どういう……意味だ?」

 宗田の声のトーンが下がる。

 「そんな怖い顔しないでくれないかしら。あはっ。彼女は私、大罪の王が受肉するための――器」

 七つの大罪のこと……だよな。

 そいつらの器だって言うのか。葵さんは……。

 「要するに使徒よ。私達の意思を汲んで人間世界で行動するのよ。だから……今回は私が彼女の感情を食べてあげたの。産声をあげたその日に、ね」


 アスエラの言葉に宗田の理解が追いつかない。

 それに構わず話続ける。

 「本来は、魔素が少ない世界では顕現することができないんだけど――あの"坊や"のおかげでね」

 宗田の理解が追いつくと、荒ぶるように感情が爆発する。

 「ふざけるな、おま――」

 「――黙れ」

 その一言で自分の音が消えた。

 いくら、口を動かしても出るのは乾いた空気だけ、それを見てアスエラがにっこりと笑い、「お行儀が悪いですわ」と言ってくる。


 「忌々しい坊や。でも、今回は感謝よ。内側から、少しずつ少しずつ食べてやりました。ずっと助けてって叫んでるのにあなた達は全然気づかないんだもの」

 アスエラはさらに続ける。

 「その感謝すら食ってしまいましたが……。彼女はそれに耐えられなくて、今日死ぬ予定だったみたいですわ」

 彼女の感覚のズレ、家族からも蔑まれた元凶が目の前にいた。

 この拘束を解こうと怒りが力に変換されるように、腹の底から熱い塊が押し上がる。


 「最後、感情が戻ったと思ってたみたいですが……」


 早くあいつを――殺させろ。

 殺す。殺す。殺す。


 「あれは私が――戻しただけですから」


 ――カチリ


 「さて、そろそろあなたの"魔法のような"ものも気になるんで、解剖させて――」


 ――補助プログラムの起動。

 ――魂の位階レベル十五。

 ――レベルに合わせた解放率七パーセント。


 頭の中が焼けるように熱かった。

 誰でもいい。

 目の前やつを殺す力を寄越せ。


 ――魔力レベル低下。

 ――"強欲"の能力発動。

 ――強欲の手。


 「へっ? なんで? あなた……その技を使えるのよ」


 アスエラの笑みが一瞬固まると、間の抜けた声が漏れた。

 上を見上げた視線の先には、灰色の幾何学模様が浮かび上がっている。

 外側から内側に向かって波打つように、光の筋が流れ込む。

 その色が、白から黒に変わると、黒い鎧を纏った巨大な手が現れた。

 そいつがアスエラではなく、宗田を頭から鷲掴みに握り潰す。


 「……あなた、使徒? 強欲が力を貸したとでも……いえ、ありえないわ」

 

 視界が闇に染められ、霧が晴れるように視界が開けると、顔を歪めたアスエラの姿があった。

 「ねぇ、あなたは何者なの?」


 それに宗田は答えなかった。


 ――魔力の完全回復を確認。

 ――強欲の手により、この戦闘の間は永続的に回復します。


 湧き上がるような怒りはどこかに消えてしまったように静かになった。

 変わりに目の前の"敵"に対する殺意が心を黒く染め上げる。

 手を軽く握ると、拘束が完全に消えたことに気づいた。

 宗田は、軽く下から上に手を振る。


 「――やばっ」

 アスエラが空高くに飛び上がると、目の前で炎が柱のように立ち登る。

 それが一点に収束すると、赤い球体に亀裂が入って爆発した。

 「憤怒……あなた、まさか――」

 喋るなクソ女。

 「ぐぅっ!」

 両足に力を込め飛び上がると、顔面に一撃。

 「――ァ゙ガッ」

 みぞおちに蹴りをかまして下に叩き落とす。

 凄まじい威力で地面に激突すると、アスファルトに小さなクレーターが形成される。

 重量のままに足で踏みつける。

 「舐めないでよ、ね」

 次の一撃はアスエラを捉えることができなかった。

 一瞬で巨大な魔法陣が出来上がると、透明な壁にぶつかり阻まれる。

 宗田は膝を曲げて、反動をつけて飛び退いた。

 

 「本当に……人間は。もういい殺してやる。それから、お前を解剖して調べればいいわ――色欲の王が命じる。魅惑の甘噛」

 アスエラを中心として、魔法陣が出現する。

 それが、桃色の光を放ち空に打ち上がると、無数の流星となって振り注いだ。

 宗田が身構えるが、体に異変はない。

 すると、遠くから


 「ごはん〜」

 「イヒヒヒッ、お肉ちょうだい〜」


 聞き覚えのある声が聞こえる。

 それも一体や二体じゃない。

 ひしめき合うようこちらに向かってくるようだった。


 「死体の雑魚ばっかりね。あの坊やも趣味が悪い。まっ、良いわ。そいつを殺しなさい」


 白い死神が一体姿を現すと、宗田に向かって走ってくる。

 それを感情のない顔で射抜くと、振り下ろされた怪物の手を片手で止めた。

 「燃えろ」

 宗田が呟く。

 掴まれた部分から、煙が立ち上がると一瞬にして体が燃えて灰になる。


 「はぁ〜。まだ、完全じゃないからこんなものよね」

 アスエラが心底残念そうに首を振る。

 「まぁ、いいわ。そいつを八つ裂きにして、私の前に連れてきなさい。あぁ、脳みそは傷つけないようにお願いね」

 タンタンと二回手を叩くと、そこかしこから死者の大群が現れた。


 ――聖剣エクリプスα


 宗田の手に黄金で装飾された剣が再び現れる。

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