表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/76

夢と現実

 「あっ、調味料大丈夫そうですね。でも、塩と砂糖ガチガチに固まってます」

 キッチンの棚を漁る唯が砂糖と塩の袋を揉みほぐすように握り、石のように固そうな塊を手で砕いている。

 

 「つ、使えそうなのは持ってこう」

 唯の言葉を聞いてから、引っかかりが刺さったまま抜けない。

 しゃがむ彼女の姿から目が離せず、その後頭部に視線が吸い込まれる。

 唯が何か気配に気づいたのか、不意に振り向くと微笑みを返してくれた。

 

 「へへへっ。できましたよ。見てください」

 そうやって見せてきた二つの袋には固まりがなく、さらさらの粒になっていた。

 「……おっ、さすがだね。これで、後は魔石を集めれば料理もできるね」

 言葉が詰まりかけたが最後まで言い切ることができた。

 唯が「よいしょっ」と立ち上がると、宗田を真っ直ぐに見据え、口を固く閉ざす。

 

 「…………。」

 

 何も話さない彼女から放たれる雰囲気が、喉をキリキリと締め上げ、気管がすっと縮まる。

 呼吸を求めるように、顎がわずかに上を向くが息苦しさから解放されることはなかった。

 

 「……宗田さん」

 唯がようやく口を開いたと思えば、宗田の名前を呼んで、また口を閉ざす。

 「……なに」

 縮まった気管をさらに絞ると、出た声は細く伸ばされている。

 

 「さっきから、どうしたんですか? 私……何かしました」

 鼓動が跳ねるとそれを合図に脈が乱れる。

 頭皮に溜まった湿り気が一点に集中すると、髪の先端からポタリと汗が落ちた。

 熱気に蒸された死肉の臭いに包まれ、割れた窓の外の赤い太陽が死神のように微笑んでいるようだった。

  

 「いや……特に何もないよ」

 

 ――――

 

 「嘘。嘘です! 嘘、嘘、嘘――っ!」

 彼女の叫びの残響が部屋の空気をいつまでも震わせる。 

 その圧に押されるように、宗田の右足が床から離れてしまう。

 

 「嫌だ、やだ、やだ、やだっ! 嫌われるくらいならっ――!」

 唯が包丁の先端を喉元当てる。

 「――だめだっ!」

 彼女の手首を咄嗟に掴むが、びくともしない。

 「宗田さんに嫌われるくらいなら――!」

 喉元に刃がわずかに食い込むと、赤色の液体が伝うように流れ出る。

 

 「嫌いじゃないっ! 唯がいないと俺は――だめなんだっ!」

 叫ぶ瞬間、肺の奥が破裂しそうなほど熱くなる。

 気づいた時には自分の意思とは関係なく、声を張り上げていた。

 すると、ピタリと唯の手が止まり包丁を持つ手がだらりと下がる。

 

 「……本当に?」

 もう一度問いかけるように唯が口を開く。

 「あぁ、本当だ」

 宗田がそう返す。

 「それなら……どうして?」

 唇が沈むが、宗田は覚悟を決めて再び口を開いた。

 「夢……夢のことを思い出したんだ。

 この世界になる前に見た夢の人物が、唯と同じことを言ってて、少し、こわ……驚いたんだよ。ごめんね。嫌いとかじゃないんだ」

 宗田の言葉を聞いた唯が目をまん丸にして、見つめ返す。

 喉から血を流すが気にした様子もなく、唯が微笑みを返してくれた。

 

 「なんだ。私の勘違いだったんですね。驚かせて……ごめんなさい」

 唯が目を伏せて丁寧に頭を下げた。

 「分かってくれたなら、良かったよ。てか、喉の傷の手当てしようか」

 「あ、そうですね。治って……そう言えば、どんな夢だったんですか?」

 喉の傷が治ると、夢に関して彼女が聞いてきた。

 「それがさ……」

 と、夢に関する内容を素直に答える。

 

 横たわる影の前に立っている女性。その手の中には、自分の生首を大切に持って微笑んでいる。

 今、考えてもあまり気分が良いもんじゃない。

 「――あぁ、その夢ですか」

 唯の言葉に頭の回路が一拍飛んだ。

 

 「……はっ?」

 なんで同じ夢を……宗田のは思わず後ずさる。

 心臓が止まったかのように静まり返ると、遅れて鼓動が大きくなるのを感じる。

 指先の熱が体に吸い上げられ、視界がぼやけていく。

 

 「ちょっと夢の中だからって……やりすぎちゃって恥ずかしい! 見てたなら言ってくださいよ」

 唯の話が止まらない。

 「あの夢では宗田さんから話しかけてくれましたもんね。嬉しくて、つい」

 ようやく口を閉ざした唯に、宗田は振り絞るように言葉を紡いだ。

  

 「いや……なんで同じ夢を?」 

 「それは分からないですけど……あっ、大丈夫ですよ? 夢みたいに首を切り落としたりしませんし。あくまで、夢は夢。今はこうやって一緒にいられるだけで、満足です」

 唯の口元が緩み笑顔になるが……

 恍惚と目を細める唯の背後で、黒い影が渦巻いているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ