シビアな創造
「はぁ〜……酷い目にあった」
と呟くと、凄い勢いで振り向いた唯が鋭い眼差しを向けてきた。
慌てて下に顔を向け、今の言葉をなかったことにするように荷物の整理に集中する。
開いたリュックの端の方で唯の顔が元の位置に戻るのが見えると、ほっと胸を撫で下ろす。
「宗田さん〜。漫画も持っていってもいいですか〜」
「だめです。この部屋に置いていってください」
ピシャリと葵に告げると、悲しげに背中が丸まり本当をぎゅっと抱きしめる。
顎をそっと引いて上目遣いで見てくるが、目を染めて見下ろすように無言で首を横に振る。
「いけずです〜」
珍しく感情を現わにした葵が、隅の方に無事だった漫画を並べていく。
「終わりー。宗田さんは片付けとか終わった?」
「あぁ、終わったけど。なに、これ?」
きれいにまとまった唯の横に、人の背丈ほどの角材が静かに置かれていた。
そこに意識が持っていかれると、宗田は彼女に尋ねる。
「さっき、宗田さんの部屋の壁から剥がしてきました! せっかくのお揃いなくなったんですけど……」
悲しげに唯が顔を伏せる。
「でも! これまでの宗田さんを見守った立派な壁の一部! それがあれば百人力です!」
顔を戻し、爛々とした表情に変わる。
「ちなみに……それ、何に使うの?」
一応、聞いてみることにした。
「ゾンビの頭をこう……てへっ」
唯は明るく言うが内容は物騒。
脳筋一直線の彼女に乾いた笑みがこぼれるが、「頼もしいね」って伝えると嬉しいに頷きを返してくれた。
「唯ちゃん、いいですね〜。私も何か欲しいですけど〜。流石にゴリラにはなれません。どうしましょう」
横から現れた葵が宗田の目を見つめながらそう言うと、奥で唯の眉がヒクリと動く。
ここで触れると唯が暴走しそうだからそっとするが、"武器"問題は宗田の頭を悩ませるには充分だった。
「それね……本当にどうしよって――あっ」
言葉を言い終える前に、何かを思い出した宗田の背筋が伸びる。
「どうしたんです?」
唯が宗田に声をかける。
「それがさ……もしかしたら、新しい魔法……使えるかも」
文明の記憶からの怒涛の展開に、もう一つの声の存在を完全に忘却していた。
それをふと思い出して、二人に宗田が告げる。
「新しい、魔法ですか? 気になります」
「見てみたいです〜」
唯と葵の目が宗田を捉えると、ずいっと近くに寄る。
「ちょっ、二人とも近いって」
思わず宗田が身を逸らす。
「どうなるか分からないからさ、二人とも離れてて」
あの声は"創造"と言っていた……だとすれば。
意識を自分の手の平へ集中すると、宗田は詠唱する。
――イメージは創造
――肉を切り裂く鉄の刃
――サバイバルナイフ
ぶわりと湿った空気が揺れた。
密度が増した空気が重く、喉の奥にへばりつく。
手の平に鋼色の六芒星が出現すると、灰色の光が放たれる。
宗田を含め二人の視線が、一点に集中すると、その光が明滅を繰り返した。
稲光のような筋が魔法陣の上で踊り、そこから少しずつ、"それ"が現れる。
形を形成しながらゆっくり姿を現すと、宗田の手にはずっしりとした重さが伝わった。
「――すごい」
宗田の手に現れたナイフに唯が釘付けになる。
手のひらから爪先までの長さより、わずかに長い刃。
持ち手部分に指を誘うようフィンガーグルーブが刻まれ、それに沿わせるように握る。
新品の木肌はまだ硬く、手に若干の抵抗を覚える。
ナイフが出現すると、成功したと言う安堵に肩の丸みがゆっくり下がる。
その直後、指先から力が抜け握っていたナイフがするりと落ちた。
流れてきた汗が目に入りリュックが黒くぼやけて見える。
「魔力……一気に持ってかれたぞ……これ」
額に脂汗が浮かぶ。
どうにか抗っているが開いた口すら閉めることができなかった。
唯が慌てて近づいてくると、肩に手を回し宗田を立たせる。
壁際まで連れてこられると、ゆっくりと座らせてくれた。
服がびしょ濡れになるくらい汗が吹き出し続け、背中の冷たい感触と相まって、全身が凍っていくような感覚がする。
肌がざわつき、全身の毛が波打つ感覚が気持ち悪いが指先一つすら動かない。
「これ、飲んでください〜」
ストローをさしたペットボトルを葵が持ってくる。
唇をすぼめ一口飲んだが、胃の中で燃えるような熱さにはあまり効果がなかった。
それでも飲み続け、熱気が引いてくると二人の顔が鮮明に見えた。
「二人とも……ごめん。魔力、すっからかんになった」
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