にゃんにゃんにゃっ!
「――記憶商店でーす。お届けものにゃーん」
玄関を開けたらそこにいたのは、ゾンビでも魔物でもまして人でもなかった。
猫耳と尻尾を揺らす、人型の何か。
その両手には小さい箱を持っており、明るい笑顔で「ご利用ありがとうにゃん」と言葉を続けた。
宗田はそれに別の衝撃を受け、扉を閉めそうになる。
「ちょっ! えっ! 待つにゃんっ! 荷物受け取ってないにゃん!」
「あっ! すいません! 化け猫かと思ってつい」
「化け猫! 酷いにゃ! 私はれっきとした猫人族にゃん!」
「猫人族?」
聞き慣れないワードに首を傾げると、その猫娘の耳がピンと尖った。
「もしかしてこの世界の住人の方は猫人族は初めてかにゃーん?」
「そ、そうだけど」
「それなら驚くのも仕方ないにゃんねー。ここにサインください」
肉球に挟まったペンを受け取ると、箱に貼り付けられた紙に視線を落とした。
そこには
お届け元:記憶商店
お届け先:斎藤宗田様
品目 :日用品 衣類
と記載されている。
「この丸いところにお願いにゃ〜。名字だけでいいにゃん」
彼女の指示に従い名前を記入するとペンを返すと、後側が視界に映った。
「外……なんで?」
瞼を強制的に持ち上げられるように見開き、喉が締め付けられる。
ドアの向こう側は、ただの部屋だったはず。
そこは、闇が渦巻く先の見えない空間か広がっていた。
どれだけ奥を見ても終点が見えない常闇の世界に、宗田は息を飲む。
「どうしたにゃん? 外? あー、これは記憶商店の魔法にゃん」
彼女はなんてことないように明るい声で説明してくれた。
「そうなんだ。魔法って……なんでもできるんだね」
「そうにゃん。うちの店長は凄いにゃん! ところでお客さん……後から覗いてるのは彼女かにゃ? ははーん。隅におけないにゃん。ニヒヒヒッ」
後を振り向けば、心配そうに覗く唯と、無表情の葵がドアの縁から覗いている。
「ち、違うよ。二人は大切な仲間」
「ふーん。そう言うことにしとくにゃん。あっ、時間やばいっ。と言うことで私は戻るにゃん!」
身を素早く翻し、戸惑うことなく足早に闇の中に駆けて行ってしまう。
すると、海の水が引いていくように、目の前の黒が薄くなると元の部屋に戻る。
嵐が過ぎ去った後のように静かになると、手に持った箱がやけに重く感じられた。
「なんか、凄い人? いや、猫でしたね」
唯が口を開く。
「凄い元気な、猫人だったよ。でも、悪い猫人じゃなくて良かった」
「私は、ああ言う感じ苦手です〜」
だから、葵は無表情でこっちを見ていたのか。
「葵さん珍しいですよね。服を掴んで話してくれなかったんですもん」
また、葵の意外な一面を見た。
「あっ、早く中身、見てみましょう」
「そうだな。どれ」
バリバリとテープを剥がし、箱の中を取り出した。
「ちゃんと全部あるな。良かった」
注文した品がちゃんとあることが確認できて、ほっと胸を撫で下ろす。
ふと、視界の端のほうに唯がプルプルと震えてる姿が見えると、思わず目を大きく背ける。
口元が緩むのを堪えると、腹筋に力が入り痛くなる。
「唯ちゃんにぴったり〜」
「なんで……なんでこれが入ってるんですか! 宗田さん! また、意地悪ですね! 魔石を無駄いして、許せません! 嫌いです! もう、これ本当にどうするんですか!」
唯の騒がしい声に宗田の腹筋が崩壊して、床に笑い転げる。
顔を真っ赤にして宗田を睨みつけるその手には、葵が選んだ際どい下着が握られていた。
ひとしきり笑い終えると、捩れかけた腹を押さえながら立ち上がった。
「あ〜、だめだ。腹痛てぇ」
「……絶対、着ませんからね!」
「私は小さくて、着れません〜」
葵が火に油を注いでくれて、宗田の腹がおかしくなるくらい、しゃくりあげる。
「もう! 二人とも嫌いです!」
唯をひとしきりいじり終えると、ようやく宗田の中の悪魔が戻っていった。
いつまでもむすくれる唯を宥めると、この懐かしい空気をずっと味わっていたくなった。
扉をちらりと見やると、電気はついてるが陰鬱とした色に見え、ここから出たくないと体が拒絶しているようだった。
だから、こんな日常が送れるように、もっと強くなることを決意する。




