ピンポーン
指先が黒くて硬い物体を掴み、親指で赤いボタンを押すと真暗な箱から眩い光がほとばしった。
久しぶりにテレビの画面を見た三人からは歓声があがり、それを食い入るように凝視する。
――記憶商店へようこそ
文字が浮かび上がり数秒後に画面が自動で切り替わる。
ネット通販のような画面が現れ、項目が多岐に渡り細分化されていた。
「これ、全部買えるってことでいいんだよな……」
食品、家電、雑貨、医療品に工具、そして衣類。
その文字列に、懐かしさに頭を撫でられた気がした。
リモコンを操作して項目を開いて中を確認すると、葵と唯は二人で盛り上がりを見せていた。
宗田はメニューを開くたび哀愁のような寂しさが、鼻の奥をツンとさせる。
「見てください〜。下着もあります。唯ちゃんの小さくて着れないんですよね〜」
「おい! こらっ! 喧嘩売ってるのか! ああ〜ん」
二人のじゃれ合いはノスタルジックな気分を、ちぐはぐな物に変容させる力があった。
あっと言う間に笑いに変えられ、重くなった指先にかけられた呪縛が解かれると、ボタンを押すのが楽になる。
「なんか、どれを買うにしても魔石が必要みたいだね」
「わぁ〜。この下着可愛いです。お値段は〜魔石(小)三十個みたいです〜」
魔石の価値はよく分からないが、葵から貰った魔石では足りないのは間違いない。
「これ、唯ちゃんのは二十個ですね〜。サイズでこんなに違うんだ〜」
葵はついに唯を弄る楽しさを見つけてしまったのか、楽しそうに微笑んでいた。
その葵の笑顔はいつもと違い、頬が自然と緩んでいる。
「いいんです! 私は葵さんよりリーズナブルな女なんです!」
唯もなんだかんだ楽しそうで何より。
「えっと、魔石はどうしたらいいんだ……。マイメニューの……あ〜ヘルプ。あった」
どうやらテレビ台に備え付けられている引き出しに入れれば勝手に換金してくれる仕組みらしい。
「どれどれ。葵さん、これ本当にもらっていいの?」
念のために再確認する。
「もちろんです〜。また、ゾンビのお腹から拾うだけですので〜」
それは拾うとは言わないのだが。
葵の感覚は、量産型日本人の感覚とは明らかに違う。
以前であれば間違いなく嫌悪していたが、流石に慣れた。
時折、その行動に細指で背中を撫でるような感覚はあるが、人に危害を加えることはない。
注意は必要かもしれないが、かけがえのない存在になりつつある。
今だけでも……そっとしておこう。
「さてと……んー、これでいいのか?」
色とりどりの魔石を引き出しに入れる。
「後は、お客様の保有魔石数でいいのかな?」
ぎごちない操作だったが、お目当ての場所に辿りついた。
そこには、
――魔石(小) :十個
――上質魔石(小):一個
とだけ記載されていた。
試しに引き出しを開けてみると、そこには何もない。
……どうやって?
科学が人間の世界を支配していたころよりも進んだ魔法技術を改めて目の当たりにすると、思わず唾を飲み込んだ。
「まあ……一応これで成功か。でも、上質魔石ってなんだ?」
全部同じに見えたが、その中にも種類でもあるのだろうか。
名前からして、普通の魔石よりはいいんだろうが。
試しに何か買ってみてもいいかも。
「唯と葵さん……遊んでる最中に悪いんだけどさ、何か欲しいのある?」
目を向けると、唯が葵さんの胸を鷲掴みにして睨んでいた。
それを受け止めるように聖母のような笑みを浮かべる葵さんと言う構図は、宗田の息を詰ませるには充分効果があったようだ。
話しかけるのを辞めようと思ったが、最後まで言葉を紡ぐことができた。
「欲しいの……それなら、葵さんに決めてもらいましょう」
「え? 私でいいんですか〜」
「もちろん。経緯は……どうあれ。葵さんが見つけてくれたんだしね」
「気を使わせてすいません〜。それなら、これで」
と言って選んだのは真っ赤な下着だった。
「唯ちゃんにプレゼントです〜」
「いや……まったく嬉しくない!」
「さっき意地悪しすぎたんで、お詫びですよ〜」
あ、ちゃんと意地悪してるって意識あったんだ。
「いらない。宗田さんもなんか言ってくださいよ!」
なんとも際どいのをチョイスしたもんだ。
となると、宗田の中の意地悪な悪魔が這い出てきた。
「葵さん……流石にこれは」
と言いながら、カートに入れるボタンをさりげなく押して、目で葵に合図を送る。
「そうですか〜。残念です。それなら、シャンプーとかどうでしょう?」
「……そうしようか」
購入……えっと、お支払い方法を選択して。
上質な魔石を選択すると、画面には魔石(小)二十個のお釣りが表示される。
つまり、購入価格が魔石(小)三十個だから、上質魔石一個で魔石(小)五十個分という計算になるみたいだった。
――――
――ピンポーン
決定ボタンを押すと、玄関の方からすぐにチャイムが鳴る。
その瞬間、部屋から音が消え、空気が張り詰めた。
「えっ? チャイム? 誰?」
唯の声には明らかに動揺が混じっている。
宗田は意を決して玄関に歩み寄った。
伸ばした腕がわずかに強張り、ドアノブを掴んだ指先がわずかに震えていた。
ゆっくりと扉を開ける。




