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軽快な音

 「残りはコイツだけ、か」

 唯に全身の骨を粉砕された首長ゾンビがのたうち回るように蠢いていた。

 首を伸ばしてどうにか食らいつこうとするが、虚しく届くことはない。

 「ヒヒヒヒッ」

 痛覚を忘れ置いてきた怪物の哀れなそいつは、意識を失うこともできず、醜態を晒していた。

 これが葵の両親であるのなら、早く始末するべきなのだろうと思う。

 宗田は気になり、ちらりと葵を見やった。

 いつもと変わらず笑顔の仮面を貼り付け、葵の本音がまるで読めない。

 「宗田さん……私がトドメを刺しますか」

 まだ辛そうに顔が強張った唯が、そっと近寄って来る。

 「いや、俺がやるよ……」

 そう返して一歩前に出る。


 ――イメージは戦車

 ――穿つ一撃は鋼鉄をも粉砕する

 ――敵を貫く咆哮

 ――紅蓮の砲撃


 あいつ用に温めていた一撃だ。

 できるかどうか分からなかったが、安全に処理するには遠距離からの一撃がいいと思った。

 それも、特大の威力。

 唯の攻撃にも耐えうる強靭な皮膚を貫く一撃には充分だろう。

 大きな赤い五芒星が浮き上がると、背筋がぞわりと撫でられる。

 赤い線が星を円形に囲い、見たことがない文字が浮かび上がる。

 そして、三つの星が連なるように出現すると、その中心にエネルギーの塊のようなものが現れた。

 そいつが形をぐにゃりと変え、想像していた戦車の弾丸のような形へと変形すると、合図を待つように浮かんでいる。

 「二人とも、耳を塞いでて」

 二人の手が耳元に当てられるのを確認すると、宗田も手を添える。

 「撃て」

 唇をかすかに動かした瞬間、空気を破壊するような咆哮を奏でた。

 歪んだ世界を破壊する一筋の閃光のように輝き、標的に着弾する。

 一瞬で肉塊へと変えた弾丸が地面を抉り、小さいクレーターを作っていた。

 「うっ……」

 魔力が切れたときの虚脱感が、膝の力を抜いた。

 「レベル……上がったのか?」

 内側の空洞が埋まっていく感じがした。

 少し気分が楽になると、ゆっくりと立ち上がる。

 心配そうに覗き込む唯に「大丈夫」と一言告げると、安心したように表情が緩む。

 目の前から姿を消した残骸に目を向けると、自分のしでかしたことがとんでもないことだと改めて実感する。

 

 ――魂の位階が十五に達しました。

 ――「創造」を解放。


 それは突然だった。

 いつもピンチの時に助けてくれる声が脳内で再生される。

 創造――あの時、剣を創り出した魔法。

 それ以降、頭の中に響いた声は口を開くことはなかった。

 だが、すぐに別の異変が続く。 

 

 ――ザッザザッ……ザ……


 そのノイズが聞こえると、体が竦み上がった。

 魔王の声が聞こえた時と同じ、不協和音は二人にも聞こえたようで、上を向いて顔をキョロキョロとさせている。


 ――パンパカパンパンパーン


 予想だにしなかった軽快な音に、思わず肩が跳ねた。

 そして、空から声が降り注ぎ、耳の奥に声が届く。


 ――おめでとうございます。

 ――クエスト「対の追跡者の討伐」を完了致しました。

 ――報酬:スキル「文明の記憶(アパート)

 ――対象人数:一人

 ――スキル取得者を選んでください。


 その声色は女性のものだった。

 直前に頭に響いた無機質なものではなく、生命を感じさせる色をしている。

 頭の中に無理やりねじ込まれたように「クエスト完了」の文字が浮かび上がる。

 ……報酬? スキル?

 「この声、なんでしょうか〜?」

 葵にも疑問の文字が浮かんでいた。


 「お前は……誰だ」

 

 ――…………。


 それに対する返答はない。

 こんな世界で、ゲームのようなことが起こるなんて不気味すぎる。

 それと同じくらい、人をどこまで馬鹿にするのかと、頭の中が熱くなる。

 「宗田さん……どうしよう?」

 唯が呟く。

 宗田も返答に困っている様子で、口が固く閉ざされてしまう。

 報酬が気にならないと言えば嘘になるが、得体の知れないものからのだとなれば話しは別だ。

 誰も言葉を発せず、ただ時間だけが流れる。

 すると――


 ――報酬受け取りの経過時間が過ぎました。

 ――ラストキル取得者へ報酬の受け渡しを開始します。


 「へっ?」

 そんなのあるのかよ。

 「――宗田さん、それ!」

 「わぁ〜。まぶしいですね〜」

 宗田の胸の前に眩い光が現れると、体の中へ吸いこまれていった。

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