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ちょうだい

 「――お肉、ちょうだい」

 ねっとり質量を含んだ言葉が空気を冷たく冷やすと、肺の空気が逃げ場を失った。

 ジャリジャリとした砂の感触がいやに不快で、自然と足が離れてしまう。

 圧に押される自分の体を奮い立たせるように怪物を睨みつけると、そいつは嘲笑うかのように大口を開いた。

 

 そこには、全てを飲み込みそうな黒が貼り付けられている。

 その黒が視界に入り込んだ瞬間、食道の入り口がひりつき、熱い空気が漏れ出していた。

 怪物の口を閉じると、眼球の奥の白い点が宗田に貼り付く。

 そして、嘲笑うようにカチカチと歯を何度もぶつけ、それが徐々に速くなる。

 そして――一拍だけ音が飛んだ。

 

 「――宗田さん!」

 次に飛び込んで来たのは、満天の星に輝く三日月だった。

 遅れて届いた衝撃が肺に溜まりきっていた空気を潰すと、視界が反転する。

 それが、圧力に負けて一気に外に出た。

 

 「――かはっ!」

 呆けた頭がクリアになると、さっきの光景が一気に蘇る。

 浮遊感がなくなり地面に吸い寄せられるように落ち、思わず身をよじり下を向く。

 そこには、闇に溶けた三日月が宗田を呑み込もうとしている。

 そして、その隅のほうで唯の影が揺れるのが見えた。

 

 「邪魔――しないでよっ!」

 唯が前から迫る怪物の頭を拳でいなす。

 だが、すぐに後から喰らいつこうと襲いかかった。

 「……させない。――イメージ銃。炎弾バースト」

 大気が揺れて、その奥が歪む。

 三発放った一発が、彼女の背後に迫った怪物の頭に直撃すると一瞬の隙が生まれた。

 力を溜めるように膝を曲げ、唯が地面を蹴る。

 まるで重機が通った後のように土煙が舞い、地面の一部が抉り飛んだ。

 重い衝撃音と共に唯は、宗田を喰らおうとする怪物の胸に足を突きだした。

 

 「ヒッ――」

 笑い声が、か細い悲鳴に変わると、肉を捏ねるように怪物は転がり飛んだ。

 「助かったよ……がはっ」

 近寄って来た唯に言葉を話そうとすると、胃の中に溜まった血が一気に噴き出した。

 それを吐き出すが、嘔吐感は消えることはない。

 胃が拒絶反応を起こし、まるでポンプのように血を口に送り出す。

 体温が徐々に冷え、体が凍りつこうとすると、焦燥に駆られた声が聞こえた。

 「宗田さん――治ってください」

 

 次の瞬間には、体の氷はすぐに融解し溶けて消える。

 体を包んだ温かさが無くなると、体が軽くなった。

 ……また、助けられた。

 彼女の強さと優しさに甘える自分が嫌になる。

 下唇を強く噛みしめ、両手の指が地面を削り取る。

 今はこんなこと思ってる場合じゃない……な。

 気持ちを切り替え、顔を上げようとした時だった。 

 「――イヤッ!」

 葵の悲鳴が聞こえた。

 怪物が標的を変えて、彼女に迫っている。

 頭を抱えてしゃがみ身を守るが、丸呑みするように口を開く怪物は動きが止まらない。

 魔法は……だめだ。間に合わない。

 「――くそっ!」

 目の前で大切な仲間を黙って見ていることしかできなかった。

 それでも助けようと手を伸ばした時、唯がボソリと呟いた。

 「――加速」


 ――耳に声が届いたと思ったら、怪物の横面が大きく凹み、葵を抱えるように唯が横に立っていた。 

 絶望を希望に変える彼女はまさに――救世主(メシア)

 

 「――んっ。あれぇ……唯ちゃん? 私、いつの間に」

 「宗田さんの悲しむ顔が見たくないから、特別に助けてあげたんですよ」

 「えへへ。嬉しいです〜」

 「唯……今のは?」

 唯に声をかけた時、その声色が僅かに黒ずんでしまう。

 それを察知したかのように目を伏せ、唯の唇が沈み口を開こうとすると。

 突然その場で唯がうずくまる

 「ぐぅっ……やっぱり、まだ体が……」

 「大丈――」

 「――うるさいっ! そんなの知ってる! 私はただ……うっ」

 左手で心臓を掴むように胸を押さえている。

 「宗……田さん。ごめんなさい。また、あの声が聞こえて……。後で……話します」

 唯の呼吸は酷く乱れ、滝のように落ちる汗が地面を濡らしていた。

 

 話したいことはたくさんあるが、まだ怪物は死んでいない。

 唯がやったであろう一撃は凄まじく、怪物の顔は元の形状を保ってないほど伸びて歪んでいた。

 粘土を捏ねたように引き伸ばされているが、致命傷にはならずヨタヨタとこっちに歩いてくる。

 アパートで唯が眉間に突き刺した鉄の固まりが、半分くらい押し出され、悪鬼のような酷く醜い生物に見える。

 

 もう一体も体の骨が粉砕されたかのように、起き上がろうとすると折りたたまれてしまい、もがいて動けないでいた。

 すっと息を吐き出して、こちらに向かってくる首長ゾンビを睨みつける。

 唯のように怪力もない。

 唯一のアドバンテージは魔法だけ。

 だから、あいつの脳を破壊する一撃を放つ。

 彼女が残してくれた――このチャンスを絶対に逃さない。


 ――イメージは雷

 ――空を走る光の蛇

 ――生物を葬る怒りの一撃

 ――雷光


 黄色い魔法陣が頭上に出現すると、夏のスコールを思い出させる音がした。

 紋様が次々と場所を入れ替わり、最終的に中心に大きな六芒星が出現する。

 眩い光がほとばしると、怪力の眉間にあった鉄の塊に吸い込まれる。

 壊れたブリキのロボットのように、体を震わせてそれでもまだ動く執念深さに宗田は、首を嫌な汗が伝う。

 だが、脳を破壊されればおしまい。

 足が止まると頭から煙が上がると、崩れるように倒れて動かなくなった。 


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― 新着の感想 ―
現代神話であり……どこかゲーム文学的。だけどパニック的だしホラー風味もあってね。この作品って色んな要素を面白く取り込んでいる。やっぱアプデ人類ってそういう作品だなぁと。この話を読んで改めて思いました。…
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