練習
暇な時間を持て余してる宗田は、魔法の練習をすることにした。
小さい水の玉を浮かせて、右に左に上下に動けと念じる。すると、宗田に答えるように魔法の水球が移動する。
ただ、テーブルの端まで移動すると、糸が切れたように落ちて弾けてしまった。
「何してるですか?」
魔法の練習が気になったのか、唯が持っている漫画を置いて近寄ってくる。
それに釣られるように、葵も傍にきた。
「魔法の練習……と言うか、検証かな」
「検証ですか?」
「そうだよ。例えば、――イメージは水球」
魔法で再び出現させると、唯が食い入るように凝視する。
いつもより濃いイメージを持って作り出したため、胸の奥が抉られたような感覚があった。
「それでね。自分の手から離れた状態でも、魔法を連続で放てないかなって」
「ほへー。なんか凄い事をしてるのは分かりました」
気の抜けた唯の声に苦笑いを返す。
「例えば……。――水鉄砲」
水球がギュッと縮まったと思ったら、ぶるりと震えて、その先から水が押し出される。
「――にゃーっ!」
それが唯の顔に直撃すると、変な叫びをあげた。
「おおー。できたぞ。それに小さくなったけど、まだ残ってる」
「できたぞじゃないですよっ! 顔が酷いことになりました!」
「唯ちゃん〜。楽しそう――」
魔が差した。ただ、それだけだった。
唯の悶絶する姿に味を占めて、ついて手が……いや、思考が滑った。
結果として、魔法で出来た水の玉は消失したが、葵の顔がずぶ濡れとなる。
「うふふふっ」
何も言わずに笑っている葵に宗田は戦慄を受けた。
「――ごめんっ! 葵さん、ごめんってば! ついさ。ほら、唯! ボケっとしてないでタオル持ってきて」
「んなっ! 私だけ酷くないですか! もう、嫌いです!」
と言いながら、その手には純白のタオルが握られている。
「いや〜。葵さん、ごめんね〜」
顔に一滴も水を残さないように拭き取るが、宗田のその手が震えていた。
その間も、笑顔を絶やさず無言の圧力に、肝が縮みあがってしまう。
「びっくりしました〜。でも、楽しかったですね〜」
ようやく口を開いたと思えば、少し嬉しそうに声が高い。
だけど、無言で笑顔を見せられるのは非常に怖い。
だから、もうしない。絶対。
「いや、酷い目にあったよ」
宗田がぼやく。
「それはこっちのセリフですって! もう!」
「でもさ、おかげでいろいろと分かったよ」
「むー。何が分かったと言うのさ」
「範囲は限られてるけど、離れた魔法も思うように操作できるってこと」
しかも、いつもより多くを注ぐことをイメージしたことで、一発では消えず、二発目でようやく消失した。
後は他の属性で安定するかと、実戦で使えるかだな。
「それなら、イメージ次第では連射も可能になる?」
「そう。俺のアドバンテージは魔法だから、連射できればと、複数を同時に操作できればってことかな」
欲を言えば、自分に同期して追尾してくれれば距離の問題も解決するんだが。
これに関しては今度検証しよう。
「ところで葵さんは……何してるの?」
視界の隅でずっと身を乗り出してる葵に声をかける。
「まだかなって、思って〜」
さっきの水鉄砲が気に入ったらしく、待っていたみたいだが、あの笑顔を思い出すと素直に怖いんで、丁寧にお断りした。
今日で何日目だろうか。火が落ちて眠気がほどよく襲ってくると、宗田の瞼が下に落ちかける。
「ふぁ〜。二人とも俺は寝るからね」
「はーい。宗田さんおやすみ。あ、葵さんこれ面白いよ」
「おやすみなさい〜。わっ、本当ですね〜。なんかこのシーン、目が飛び出してかっこいいです」
葵の奇抜なセンスには慣れてきた。
唯も普通に会話を続けている。
二人の微妙にずれた会話を子守唄に、瞼が完全に塞がれた。
――コン……コン。
微睡みに手を引かれ、深淵を覗こうとしている時に、窓から音が鳴る。
意識が一気に引き戻される。
「唯、ランタン消して」
部屋が暗闇に包まれ、その奇妙な音だけが波紋のように広がっていた。
向こう側の気配に、唯と葵は話すのを辞めて窓を凝視する。
愛用の武器を持ち、宗田はゆっくりと立ち上がった。
「二階なのになんで……窓から?」
思わず宗田は呟きが漏れる。
ゾンビが窓を叩くのもありえない。
白い顔なら破壊して入ってくるだろう。
となれば、あの新種の怪物……。
そう思った瞬間、肌を嫌な汗が伝い服に染み込んだ。
「唯は……葵さんをお願い」
ゆっくりと伸ばした手は異様に湿り気を持ち、肺が空気を拒絶する。
ざらついた布の感触が指先に触れると、カーテンを一気に引いた。
「――見つけた〜」
知らない顔がこちらを見ていた。
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