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ひととき

 朝が来た。

 斎藤宗田が一番最初に目を開けて思ったことだ。

 今日は朝から騒がしい。


 「うわっ! 何これ! 大きすぎ。駄肉よ。駄肉」

 「へへへへ。唯ちゃん、持っていってもいいですよ。どうぞ〜」

 「くそっ! 駄肉なのに取れない! 腹立つ」


 そんな声に起こされたのだが、状況がまだ把握できない。

 ツンツンとあちこちに立った髪の毛が、頭皮を引っ張り、それが嫌で手でガシガシと掻きむしる。

 二人でお風呂?

 あれ? 昨日まて不穏な空気醸し出してなかった?

 そう思った宗田だが、中に入って聞くわけにもいかず、おとなしく座って待っていることにした。


 「はぁー。さっぱり」

 「すっきりしました〜」

 二人の姫が姿を見せる。

 「あっ、宗田さん。おはようございます。起きてたんですね」

 「おはようです〜」

 唯の顔は付き物が落ちたようにすっきりとしていた。

 「二人ともお風呂?」

 「そうですよ。流石に気持ち悪くて」

 そう言えば、昨日はいろいろあって服を着替えて寝たんだった。

 「そっか。でも、どうして二人で?」

 「一人だと、血が落ちてないかもしれないんで、背中をお願いしたんです。それに……宗田さん寝てる間にいろいろ話したんですが、なんか。もういいかなってなりました」

 「もういいかなって〜。仲直りです」

 ほうほう。寝てる間にいろいろあったのか。

 「だって、何を言ってもずれてるんですもん。ほんっとに、会話できないの。で、諦めることにしたんです」

 

 それは本当にいいのだろうか。

 この三人でしばらく行動を共にすると考えれば、丸く収まるのはありがたい。

 「葵さんは、頭おかしいけど。敵意はない感じなんで」

 辛辣な物言いに、ちらりと葵を見やったが嬉しそうに微笑むだけだった。

 信用できるかできないかと言えば、宗田にはまだ分からない。

 仮に唯に危害を加えそうなら――

 「俺も、体洗ってくるかな」

 「え? もしかしてお湯溜めます?」

 「ん? なんで? 当たり前だよね」

 口元をニヤけさせて、二人に勝ち誇った表情を見せる。

 

 「ずるいっ! 私も入りたいです! いつも意地悪ばっかりで、嫌いです!」

 唯はいつもの調子でなにより。良かった。

 「宗田さ〜ん。私は嫌いにならないんで、一緒入りましょう〜」

 葵さんの発言に、吐き出しそうになる。

 唯に至っては口を半開きにして、指がプルプルと震えている。

 ともあれ、葵さんの発言は受け入れられない。

 「はいはい。冗談はそこまでにして、今お湯入れるから待っててね」

 「もう。素直に入れてくれればいいんですよ。ケチです」

 「私は冗談じゃないですよ〜」

 「葵さん。ダメ。それなら私と入りましょう」

 「わ〜い。また、唯ちゃんとご一緒できるんですね。嬉しいです〜」

 二人の会話を聞き流し、宗田は浴室へと向かった。


 テーブルを囲うように三人が座ってくつろいでいる。

 妙に葵の距離が近く、唯もなぜか傍に寄ってくる。

 「あのさ。二人とも、暑いんだけど」

 

 火照った皮膚から熱が放出され、それに挟まれた宗田にとってはサウナのように暑くなる。

 男冥利に尽きるとは思うが、あいにくこんな状況に下心は地の底に埋めた。

 むしろ、夏場の陽気と相まって鬱陶しくも感じてしまう。

 

 「まぁ……そのさ。いや、なんでもない。二人ともとりあえず情報を整理しよう」

 宗田の言葉に耳を貸すどころか、さらに近寄る二人に諦めて会話を進めることにした。

 「情報整理ですか……。まずはあの白い怪物ですね」

 「たしか〜。ゾンビの体から出てきて、ぶはって突き破るのがかっこよかったです」

 葵の感性には賛同できないが、その通り。

 ただ、それがなんで起きたかだ。

 予想はつなんとなく……

 

 「ゾンビ……進化したよな」

 宗田は話しを続ける。

 「生存者がやられて、少ししたらゾンビから白い怪物に。つまり進化しか考えられない」

 「そう……ですね。それに、もし進化と言うならもっとたくさんいてもいいのに数が少ない。条件か何かが……」

 「ゾンビさんもレベルアップするんですかね〜?」

 葵の言ったことが正解に一番近い気がした。

 つまり、条件は特定のレベルまで上がるとゾンビが白い怪物になる。

 厄介なのは唯の攻撃で一撃で倒せないことだろう。

 顎に手を当て、対策を頭の中で巡らせる。

 対策は元からあったが、今回は不意を突かれて上手くいかなかった。

 次に出会った時に試してみようと思う。

 

 「あとは〜。宗田さんのあのかっこいい剣ですね」

 急に頭に声が聞こえると、何故か言葉が勝手に思いつく。

 二度これに助けられたが、なんなのか正直わからない。

 宗田が自分の魔法について口を開く。

 

 「あの魔法……よく分からないんだよね。なんか。か、勝手に頭に浮かんでさ」

 「前も同じこと言ってましたね?」

 「そうなんだけど、今は何も浮かばないし、使おうとすると――ッ!」

 頭の中を針で刺された痛みが走る。

 それが、安全機構のように働いて、一文字も言葉にすることができなかった。

 その痛みが通り過ぎるまで、瞼を強く瞑り、痛みの波が落ち着くと再び開く。

 

 「宗田さん、無理しないでください」

 唯が優しく手を握ってくれた。

 「ありがとう。もう、大丈夫」

 「はい。後は……葵さんの家での――あいつですね」

 そう。一番の謎で分からないからこそ、余計に不気味で気が抜けない。

 今でも家を出る際の不気味な金切り声が耳にこびりついてるような気がした。

 

 「私のパパとママは〜ゾンビになったんでしょうかね?」

 「いや、あれはゾンビじゃないと思う。それに、白い怪物でも」

 「なんか、嫌な感じですね。どうにも、分からないことの方が怖いと言うか……」

 「あぁ、本当に。てか、葵さんは本当に大丈夫なの?」

 念のために聞いておくが。

 「何がですか〜。とりあえず、パパママには早く寝てもらわないとってことですね〜」

 とこんな感じだ。自分の家族だと言うのにさ。

 いや、今はいい。

 得体の知れない怪物が、この街をうろついているのが、一番やりづらい。

 

 「こんなもんかな? とりあえず今日は一日休もう」

 宗田が二人に声をかけると、頷を返してくれた。

 やけに距離が近く、身動きがとれないことに我慢が出来ず二人を押し返すがすぐに戻ってくる。

 大きく息を吐いて、水を口に含み諦めることにした。

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― 新着の感想 ―
状況描写を続けている印象ですけど、宗田さんの人間味もそこにうまくのっけて物語を進めていますよね。「朝がきた」と目が覚めたときに思う事は普通のような気もするのですが、この世界観のなかでのソレは普通のソレ…
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