表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/75

 唯が駆け寄って来たのが見えるが、その口がせわしなく動いているだけで、宗田の耳に言葉が届くことはなかった。


 ――補助プログラムの終了、実行。

 ――解放率、一パーセント未満に低下。

 ――斎藤宗田の創作物「"過去の遺物"」。

 ――侵食率、九十九。

 ――破壊、実行。

 ――肉体の損傷の再生「深層修復」、実行。


 変わりに聞こえた声は、意味の分からないことを話している。

 ただ、戦いの中で急に力が湧いてきたのは、この声がきっかけだったことを覚えている。

 敵ではない。そのことに恐怖はないが――

 ――君は誰?

 と、問いかけても返事はなかった。


 「……さん。……田さん、……宗田さん!」

 耳の骨を滑るように中の膜が一気に震えると、朧げだった意識が急激に目を覚ました。

 変わりに何かが遠のいていく。

 

 「良かったー。ずっと名前を呼んでも反応ないし……それにを治そうとしたら、勝手に……」

 「え? 傷?」

 そう言えばあいつの攻撃で。

 あれ、ない? 肩も……治ってる。

 下に顔を向けるが、破れた服から見えたのはいつもの自分の肌。

 肩を指先で触れても痛みがなかった。

 

 「あっ、剣は……」

 右手にはまだ、あの異様な剣の感触が確かにある。

 しかし、次の瞬間には、剣が歪に波打ち始める。

 思わず手を離してしまったが、それは地面に落ちることはなく、ぐにゃりと渦を描かように形を変えた。

 そして吸い込まれるように、一点に収束し始めると世界に飲み込まれるように消失した。

 

 「……消えた? どこに」

 残ったのは静寂だけ。

 その出来事に唯も言葉を失うだけだった。

 

 「あれ〜。なくなっちゃいましたね。せっかくのかっこいい剣が。もったいないです〜」

 宗田と唯が口を閉ざしていると、変わりに葵が言葉を発した。

 一点を見つめる彼女の瞳は、大切な何かをなくしたように悲しげが浮いている気がした。

 

 「もったいない」

 もう一度、葵が呟く。

 その言葉の意味が、頭に入ってこない。

 

 「――あががか……あ、あぁぁぁ」

 空気を切り裂く声がすぐ傍で鳴いた。

 この、戦いの音に釣られてきたのだろう。

 「二人とも!」

 宗田が声をかけると、唯と葵が反応を示す。

 白い怪物との戦いで吹き飛ばされた武器を拾いあげ、その場から駆け出した。


 「宗田さん、唯ちゃん、こっちです〜」

 四方をゾンビに囲まれ、逃げ道が少しずつなくなっていく。

 また、戦闘を余儀なくされるかと思った時、葵が俺達を手招きしてきた。

 唯と目を合わせると、頷いて葵についていく。

 すると一件の民家の前に立ち止まり、ポケットから鍵を取り出した。

 「この中です〜」

 玄関を開けると、葵に中に入るように促される。

 その言葉に従い中へと入った。

 

 「ここ、は……?」

 外の騒がしさを断ち切るように、家の中は静かだった。

 「ここは、私の家ですよ〜。二人ともそんなところに立ってないで中へどうぞ」

 「えっと……お邪魔します」

 靴を脱ぐ時の擦れた音が妙に耳に残る。

 薄暗く人の気配がない家の中は不気味に感じてしまう。

 ただ、どこかで嗅いたことがあるような、生ゴミを煮詰めたような感じに、その臭いの先を目で追った。

 二階へと続く階段の先は、ぽっかりと大きな口を開けて獲物を待っているように見える。

 それが、蛇のように這い寄り、宗田の首筋に巻きついた。

 唯も気づいたらしく、鋭い目でその先を射抜いていた。

 すると、そこで立ち尽くしていた葵が声をかけてくる。

 

 「どうしたんですか〜? こっちですよ?」

 葵の元へ歩みよる間も、二階に何があるか、それに意識が向いていた。

 後を突いてくる唯も、呼吸が細く、あきらかにいつもと違う。

 そして、案内された部屋はどこにでもある普通のリビング。

 ソファーにテレビ。この世界になってから、まったく形を変えずにそこに残っていた。

 

 「わぁ〜。流石にホコリ、凄いですね」

 葵は二階の異変には気づいてないだろうか? 多少は薄まっても、死の臭いがこの家の中を満たしている。

 ゾンビの集団から逃れたけれど、体の緊張はそのまま続いていた。

 「葵さん……ご家族は」

 口を開いたのは唯。その視線は葵ではなく、飾られた写真に向けられている。

 

 「わからないんです〜……こうなってから、初めて家に」

 わずかに顔を伏せてそう言った葵に、少しだけ腹の奥が重たくなったのを感じた。

 「そうですか。無事だといいです、ね」

 唯が言葉をかけたが、その声は沈んでいた。

 自分達の家族のことを思い出したようだ。それは、葵だけじゃなく宗田もだった。

 連絡も取れず、生死は分からない。ずっと避けていた言葉は、心を乱れさせるには十分すぎた。

 

 「でも、きっと無事ですよ」

 唯の声色は戻っていない。わずかに言葉の端が震えているように聞こえる。

 すると、自然と手が伸びて唯の手を握っていた。

 

 「――えっ? あの、宗田さん」

 予想外のできごとに唯は明らかに動揺する。

 宗田の名前を呼んだ声がさっきとは違い、上ずっていた。

 

 「わぁ〜。二人と仲良しですね。うらやましい。いいな〜」

 ほっこりとした笑みを見せる葵の姿があった。

 「私、お邪魔かしら〜。うふふっ。ちょっと"二階"にでも退散しますね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そう。よく考えてみたら唯と葵に囲まれてハーレムクルーではあるんだよね。この一行って。でも、全然楽しめる状態にあるワケでないけども(^^;)でも、男1人女2人の3人組である事がのちのち何かになりそうって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ