引きこもり
空が泣いていると、どうにも気分が暗くなりがちだ。
二日ほど続く雨に、宗田達は部屋に引きこもっていた。
各々、することもなく好きに一日を過ごしている。
「宗田さん、暇ですよー。何かしてください」
「宗田さん~。この漫画の続きってありますか~」
窓の外をなんとなく見つめていた宗田は、重い首を二人へと向けた。
唯にはデコピンを、葵には新しい漫画を渡すと、窓の傍へと戻る。
「ちょっ、なんで私にはデコピンなんですかっ! 酷いです! 嫌いです」
「宗田さん、ありがとうございます~」
空の悲しさは、この部屋の中には関係ないようだった。そう言う宗田も魔法について少し考えるくらいしかやることがない。
「あ、唯。食料がどれくらいあるか見てもらっていい?」
「私の話は無視ですか? もうっ! えっとですねー。あー、今日でギリギリか、明日の朝までくらいです」
元々食料は少なくなっていたが、葵が増えたことで更に困窮を極めている。
本当であれば、彼女を迎え入れた次の日には探索へと出たかったが、雨じゃなければ出ていたのに。
「明日も雨だったら、一旦、俺だけで探してくる」
「でも、それは……」
唯の頭の中では宗田が行方不明だった時のことを思い出してるのかもしれない。
震える指先を別の手で握り、どうにか飲み込もうとしていた。
「仕方ないだろ。雨の日は、音も匂いも分かりづらいし。葵さんには危険すぎるよ」
レベルアップに関してすら知らないと言うことは、ゾンビに対して一人で対応できないと宗田は判断した。
自分が初めてゾンビを倒した時の葛藤と、唯のあの時のことが頭に浮かぶとなおさら危険を犯せない。
「分かりました。あまり遠くまで行かないでくださいね」
「あぁ。大丈夫だ。今度は、すぐに帰ってくるからさ」
笑顔を見せて唯だったが、その裏にはまだ影があった。
ただ、それにたいして乾いた笑みしか返すことができず、腹の中がざわつき、静かな不快感が背骨を撫でた。
少しだけ、部屋の空気が重く沈んだように感じるとお互いの会話が途切れてしまう。
「あ~、面白かったです」
二人の気まずさを壊すように葵が声を発した。
そちらに目を向けると、読み終わった漫画が積みあがっている。
「んっ。体がバキバキですから~。宗田さんはさっきから何を見ているんですが~?」
彼女と話していると、唯ほどでないにしろリズムを狂わされる。だけど、今回はそれで助けられた。
「あ、ゾンビさん~」
横から葵が顔を覗かせると、下を歩いているゾンビに反応を示した。
「静かにね」
「はい。分かってますよ~」
ゾンビが音に反応することは、雷の日に分かった。あの時の狂乱ほどではないが、雨音に誘われるゾンビが多く感じる。
時折、手で空中を掴む素振りを見せたりするが、それは寂しそうに空を切る。
それを繰り返して、さっきからゾンビが何体も家の前を通っていた。
「そんなにゾンビ見て、気持ち悪くならないですか?」
ゾンビの姿が多様な形をしている。時にはどうしてそれで動けるかと言うくらい、欠損が多い姿もある。
それは決して見ていて気持ちいいものではない。
「葵さん……?」
宗田の声に葵は反応しなかった。
食い入るようにゾンビを見ている。その姿が見えなくなるまで存分に堪能すると、すっと顔を話し宗田を見た。
「いなく、なっちゃいました~」
目が合うと反射的に体が後ろへと逃げた。
葵の目の奥に子供が新しいおもちゃを貰えたような、無邪気さが見える。
そして、頬を赤らめ妖美に頬を撫でる姿は、艶めかしく綺麗だった。だが、それは宗田の背骨を下から頭蓋までゆっくりとなぞる様な冷たさを感じさせた。
「ふふ、ごめんなさい~。なんか、少し気持ち悪いかもです~」
そう言って、また漫画を漁り始める。
呆然としていると、唯が近寄ってきた。
「宗田さん、大丈夫?」
「え? あ、大丈夫だよ」
そう言うのが精一杯だった。
ただ、唯も何かを感じ取ったようで、葵を射るように見ていた。




