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生存者

 死という概念は恐怖をもたらすが、日常に溶け込むと感覚が消失する。

 現に、今も開ける必要ない扉を開けようとしていた。

 中にいるとすればゾンビの可能性が高い。出会い頭に掴まれるのが一番危険だ。

 だけど、それを承知したうえで宗田は扉に手を伸ばしていた。

 

 「唯は下がってて。もし、ゾンビなら援護よろしく」

 「でも無理に開ける必要はないかと……」

 唯の意見はその通りだと思う。

 「そう……かもしれない。だけど、俺達以外に生存者がいるかも。それにね、ほら、唯が入ればゾンビでも安心だし、任せるよ」

 自分達以外の生存者の可能性を期待していた。

 ずっと二人で行動してたが、生きた人間に出会えていない。

 まるで、宗田と唯だけが閉じ込められた世界のようで、それを否定したくてわずかな光を求めようとした。

 

 滑らかな動きの扉は音も立てずに、すっと開く。

 武器を手に、慎重な足取りで一歩踏み入れた。

 一段沈んだ静けさが張り詰めると、宗田は自然と口呼吸になる。

 トンっと足が軽く地面につく足音が耳の奥で増幅し、騒音のように思えた。

 喉を鳴らし、一気に踏み出す。

 

 「――っ!」

 耳を揺らしたのは唯ではない別の人物の声だった。

 次に目線の先に、知らない女が床に座っている。

 「――えっ?」

 宗田は思わず声が出た。

 「宗田さん?」

 踏み込んだ状態から、中々入ろうとしない宗田に唯が歩みよる。

 

 「びっくりしました〜。えっと、どちら様ですか〜」

 語尾が浮いているような話し方の女性は立ち上がり、お尻を手で払う。

 「あの、え、あ、宗田といい……ます」

 「はい。はじめまして〜。ゾンビじゃなくて、良かったです〜」

 そう言ってその女が宗田を見つめて、軽く会釈する。

 

 「私は〜、佐川 葵(さがわ あおい)と言います」

 彼女の名前は葵と言うらしい。

 「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 葵に釣られたように宗田が挨拶すると、目が細まり、ふんわりとした笑顔を見せる。

 小柄な彼女は幼く見えるが、その笑みは大人びて見えた。

 その独特の雰囲気の彼女に見惚れるように見つめていると、背後からプレッシャーを感じる。

 

 「はじめまして。私は唯です」

 唯の声のトーンがいつもより沈み、乱暴な色が含まれていた。

 「唯さんですね〜。よろしくお願いします」

 だが、葵は気にした様子もなく唯にも挨拶すると、目尻がわずかに下がった瞳でこちらを見た。

 左目の下にある泣きぼくろが、幼さの中に大人の妖美さを醸し出している。  

 初めて出会った生存者に胸の奥にあった重しが少しだけ軽くなったのを感じる。

 

 葵が再び口を開いた。

 「ところでお二人は、何をしてなんでしょうか〜」

 「えっと、食料を探しに来たんだけど、そしたらこの中から音がしてさ」

 「なるほど〜。すいません。疲れて寝てたら頭を壁にぶつけてしまって」

 スーツ姿の彼女が深々と頭を下げる。その姿は、事務業務を担当している人のように、滑らかで綺麗な所作だった。

 

 「佐川さんはずっとここに?」

 「はい。あ、葵でいいですよ〜。三日くらい前からです。仲間とはぐれてしまって、困ってました〜」

 仲間と言うことは、もっと大勢の人いる可能性がある。

 「そっか……でも、無事で良かったよ。ところで、よく中のゾンビに見つからなかったね」

 「あっ、それは、あそこが開いててこっそり入りました〜」

 指さした先には従業員用の出入り口があった。たまたま鍵が開いてたのは幸運といっていい、おかげでこうして生きて出会えたのだから。

 

 「唯、彼女どうする? もし、向こうが良いなら一緒に行動するのもいいかもよ」

 唯の方へとそっと下がり、耳打ちをする。

 視線は葵へ向けたままだが頬が微かにやつれていることに気づいた。

 首の真ん中まで伸びた髪の毛の先端はボサボサで、切り揃えられた前髪は額にこびりついている。

 部屋の中もどことなくツンとした臭いがしている気がした。

 彼女も生きるのに必死だったに違いない。

 そうやって観察していると、唯が考え込むように言葉を発した。

 

 「そうですね……嫌……ではないです。宗田さんがよければ……」

 唯からの了承も得られ、葵に声をかけた。


 「葵さん。もし、良かったら一緒に来る」

 「え? ……いいんですか〜?」

 「もちろん。なっ、唯?」

 「まぁ、はい。宗田さんがいいなら」

 いつもの調子と違う唯は気になるが、新しい仲間が増えたことは嬉しかった。

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