もう一人の怒り
私こと神崎はどうにかまだ生きております。
それは宗田さんと言う、希望がすぐ傍にいてくれるから。
それだけで胸が熱く、溶けてしまいそう。
少し前まで神崎と呼んでいたのに、今では唯と。
ただ、それだけで嬉しくて今すぐにでも――欲しい。
だけど、この世界はどこまでも邪魔をしてくる。
――くそ野郎なんです。
宗田さんを狙う敵は――殺す。
だって欲しいんだもん。
「――逃げろっ! 早く!」
その言葉は私に無力を叩きつけました。
完膚なきまでに、"あの時の私"は白い怪物にやられ、宗田さんが助けてくれたと思ったら。
……今度は逃げろか。
それにしても、黄金色の剣を見ると、既視感のような何かを感じますね。
なんでしょうか。
だけど黄金が消え去ると黒に染まり、宗田さんを苦しめます。
破壊しようとしましたが、忌々しい黒に私の黒では対抗できなかったようです。
できたのは逃避のみ。
辛くて、辛くて。逃げる最中にゾンビを何体葬ったか。
「ふざけるなっ!」
一体のゾンビの頭を殴りつけると、簡単に砕けます。
「いつも――いつもっ!」
頭を鷲掴みにして、壁に全力でぶつけると豆腐みたいになりました。
「"こんな世界――破壊してやる"」
それは憎悪。いえ、決意です。
私と宗田さんだけでいい。
後は邪魔だから消えろ。
早く、早く宗田さんのところに戻らないとなんだよ。
力を寄越せ、レベルアップしろ、早く――
「……まだ、足りない」
暗くなっても、朝になっても、狩りを続ける私は悪鬼と言ってもいいでしょう。
今なら、あの黒を食えるかもしれない。
「宗田さんのところに……行かなきゃ」
呼ばれているような気がして、マンションに向かいました。
道中に見つけたゾンビは、全て殲滅。被った返り血が、乾いた血を溶かし何層にも積み重なっていました。
「宗田さん?」
一人ぼっちは嫌。私の隣は彼のもの。彼がいないと死にたくなる。
だから、来たのに姿ありません。どこに?
すっと目を細めて見渡しましたが、剣すら見当たりませんでした。
怒りに任せ、踏みしめると床がピシリと音を鳴らし変わりに悲鳴をあげます。
「探さないと」
ゆっくりと階段を降りると、赤い光が二つこちらを見ていました。
あの、白い怪物。そして、私と宗田さんを引き裂いた元凶。
その瞬間、赤い怒りが黒に変質し、そいつが動こうとした時に腹の下に潜り込む。
そのまま、顎めがけて拳を叩きつけると奴の体が空中に浮きました。
「――浅い」
ここで、まさかの身長差が影響するとは。
百五十センチ半ばぐらいでは、二メートルくらいの巨体の顎に触れても、芯を捉えることはできなかったようです。
それにここは階段だから狭い。
「一旦、外に出る」
「――来た」
ゆっくりと出口から出てくる巨体の影が一つ。
ゆらりと朝日に揺れて影の形を変形させた。
「お前達のせいで……」
歯の奥で、何かが折れる音と鋭い痛みが走ります。
だけど、それよりも目の前の敵を破壊して壊し続けたい、そんな衝動の方が大きすぎて。
導火線に火がついたように飛び出します。
「くそ、硬い」
コンクリートを直接殴ったようにざらついて硬い腹を右手で全力で殴りつけてやりました。
もちろん、腕は変な方向へぐにゃりとしましたが、その痛みがさらに黒を押し広げます。
「ご飯だー」
ずどんと、上から下に怪物の一撃が右腕と肩に直撃すると、潰れて肉塊となりました。
「――油断したね」
攻撃が当たったことによる喜びか、そいつは追撃をしてきませんでした。
突然、体の部位を失いバランスが取りにくいですが不格好な蹴りを胴体にかまし、巨体を道路の奥に吹き飛ばします。
「死ね」
ふくらはぎに全力で力を込めると、一気に距離を詰め腹を向けたそいつ頭の側へと着地しました。
「死ね」
何度も。
「死ね」
何度も何度も砕けるまで、壊れるまでそいつの頭を踏みつけ続け、太陽が完全に昇った頃に、ようやく破壊に成功しました。
そう言えば、腕、忘れてました。
「治れ」




