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アップデート人類  作者: 黒猫メロン


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3/13

2

 「突然のお誘いしたのに、来てくれてありがとうございます」

 小さい歩幅で歩く彼女が、宗田を少し見上げるようにそう言うと、優しい笑顔を見せてきた。

 「いや、むしろ、ありがとね。神崎さんのお相手を喜んで致します」

 冗談交じりでそう返すと、彼女は「まぁ、素敵」と返しをくれた。

 それを聞いて宗田は小さく声を出して笑うと、気が抜けて大きく口を開けて息を吸うと、目尻に涙が集まりだした。

 それがほろりと流れ落ちると、手でそれを拭う。

 その姿を見た唯が何か悟ったようにニヤけながら、口を開いた。

 「あれ? 寝不足ですか? さては……ははーん。また、遅くまでゲームしてましたね」

 「あたぼーよ。俺からゲームがなくなったら、体溶けるからな」

 唯には全てお見通しだったようだが、宗田もさも当たり前だろと強気に返した。

 「それは大変ですね……で、クリアできたんですか?」

 その問いかけに対して、宗田の声がわずかに下がる。

 「いや~。ボコボコにやられて、ふて寝しました」

 そう言うと、唯が控えめな胸を突き出し自慢げに鼻を鳴らす。

 「ふふーん」

 格下を見るような目で宗田を覗き込まれて、宗田がわずかにたじろぐと、ニンマリと笑顔を向けて唯が再び口を開いた。

 「――私は、二週目ですけど」

 唯の言葉に宗田の瞳がまん丸に開かれると、足が止まってしまう。

 「え? 嘘だよね? だって、俺より後に始めたじゃん。嘘だと言ってくれ……」

 「残念ながら本当です。宗田さんはー、私に負けたってことで、罰ゲームに、またご飯一緒に食べに行きましょう。おごりで」

 勝ち誇るように唯が言うと、悔しそうに宗田は天を仰いだ。

 「そんな馬鹿な……てか、ゲーム上手すぎ」

 宗田の言葉には悔しさを隠しきれず、その様子を見た唯が弾むような足取りで通り過ぎる。


 唯がくるりと回って、宗田へと振り返ると腰に手を当て、威張るように口を開いた。

 「えっへん。だって、好きなんですもん。ゲーム」

 そう言うと、可愛らしい舌をちょこんと出し挑発してくる。

 自分の好きな分野で負けるのは悔しく、がくりと肩を落としてトボトボと彼女の後を追いかけた。

 

 そして、何気ない会話を楽しみながら、ファミレスに到着する。

 仕事帰りに、よく彼女とこのファミレスでゲーム談義や会社の愚痴を言い合っていた場所だ。

 常連とも言えるくらい通いつめ、今日も来てしまったのだが、メニューの書いてる看板の前で立ち止まり指をさす。

 「あ、これ! 私が食べたかったやつ!」

 指先を追うように目を滑らせる。

 その先にあったのは期間限定メニュー。

 

 「……どれどれ」

 宗田がそれを読む。

 ――期間限定:マグマバーグディッシュ

 ――君はこの灼熱に耐えられるか。

 そう書いてあった。黒い毛並みのゴリラは赤く染まり、凶悪そうな表情をして両手で力こぶを作っていた。

 最後の方に、辛い物が苦手な方は注意してください。

 その文字を見て唖然とする。

 「昨日からだったみたいなんですよ。CMを見て、食べたくて。じゅるりです」

 それに言葉を失っていると、唯が横から話しかけてきた。

 つまり、これが目的で珍しく休みの日に連絡をしてきたわけか。

 でも、辛党なのは意外だな。

 我慢が限界に達したのか、宗田の腕が引かれた。

 手を握られたと分かった瞬間、そのぬくもりに一気に顔が熱くなる。

 だけど、こっちの気持ちなんて知ったことじゃないと、手を引いて中へと連れ込まれた。


 「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」

 視界がぶれるように、一瞬だけ色が褪せた。

 目にゴミが入ったのかと思い、目を伏せて何回か瞬きをすると、視線を上げる。

 

 ――えっ?

 

 迎えてくれた店員の姿がおかしい。

 右腕が千切れかけ、かろうじて皮膚で繋がっている。

 顔面が獰猛な獣に食われたように、鼻は穴しか残らず歯を守る唇の大半が失われている。

 まるで"ゾンビ"のような姿をした店員が、人の言葉を話し出迎えてくれた。

 

 「あ、二人です」

 横にいた唯が店員らしきものへと返事をする。

 神崎さんには見えてないのか?

 ちらりと横を見たが、特に変わった様子はない。

 「あれ……?」

 再び視線を店員へ向けると、普通に戻っていた。

 「んっ? 宗田さんどうしたんです?」

 「あ? いや……なんでもないよ」

 唯にそう返事を返す。

 

 「こちらの席へどうぞ」 

 席を案内され二人は向かい合うように腰を下ろした。

 さっきのことが脳裏にこびりつき、去っていく店員の後姿を凝視する。

 ――……ザッ。

 ノイズのようなものが走る。

 やっぱり何か変だ。

 店員に重なるようにさっきの影が見える。

 映像がバグったようにブレて二重に、その片側は肉体が欠損し、生きる屍のようだった。

 回りを見回せば、同じような人ばかり。

 何度も目を瞬きするが、それは消えることはなかった。

 「もう、本当に大丈夫ですか? おかしくなるくらい夜更かししちゃだめだよ」

 唯に声をかけられた瞬間、肩が跳ねる。

 彼女ももしかして……。

 恐る恐る視線を落とすと――

 いつもの唯が不安げに眉を寄せていた。

 良かった。唯は普通だった。

 試しにもう一度、奥をちらりと見たが、さっきのように二重に見えることはない。

 「なんか……目が疲れてるかも。でも、治ったから大丈夫だよ」

 疲れかゲームのやりすぎだろ。

 気のせいとすることにした。

 あまりに酷いなら病院かな?

 寄せた眉がほどかれると、唯が口を開く。

 「もう、ゲームばっかりだめですよ。それにしても並ばないで入れて良かったです」

 「そうだね。この暑い中、並ぶのはやばかったよ。はい、水をどうぞ。お嬢様」

 「ふむ。苦しゅうない。どれ、いただこう」

 ノリの良さは天下一品。こうして話をしているだけで口元が緩む。

 それにいつもコロコロ変わる忙しい表情は、こちらも笑顔にしてくれる。

 「ん~。お水が美味しいです!」

 小さい口に、あっと言いう間に水が飲み込まれると、カランと氷がぶつかる音がした。

 「もう一杯っ!」

 「酒かよっ」

 テーブルの端においてある水の入ったピッチャーを手に取ると、空になったコップへ注いだ。

 「苦しゅうない」

 偉そうにもう一度言うと、今度は少しだけ口に含み飲み込む。

 彼女が満足したのを確認して、メニューに目を落とす。

 上からなぞるように見ていると、唯が声をかけて来た。

 「宗田さんもマグマバーグディッシュですか?」

 馬鹿言ってんじゃないよ。

 「いや……俺はこのチーズのやつかな」

 そう言うと、唯はつまらなさそうに唇を尖らせていた。

 君と違って舌がバグってるわけないだろ。

 抗議の視線を送るが、唇がさらに突き出ただけで終わる。

 「ほら、店員さん呼ぶよ。全部決まった?」

 「はい! もう、今日食べるのは全て昨日のうちに決めてますから」

 それだけ彼女は楽しみだったようで、鼻歌まじりに上機嫌に歌を歌っていた。

 あまりに自由すぎることに苦笑するが、冷えた心はすっかり温かくなっている。

 すっと手を伸ばすと、店員を呼んだ。


 「ふぁ~~」

 「うわー、大きい口。吸い込まれそう。って、そんなに眠いんですか? ジジイなんだから少しは年を考えた方がいいですよ」

 「誰がジジイだ。まだ、二十七なの。唯だって後、三年したら同じだからね」

 「あ、大丈夫です。もうこれ以上、年を取らない設定なんで」

 真顔で冗談を返してくる。

 目が笑ってなくて、ちょっと怖い。

 鋭く射抜く瞳に目が泳ぐ。

 年齢って怖いね。

 と思っていると、ちょうどよく頼んだ物が来た。

 「こちらマグマバーグディッシュです……」

 皿の上には、赤いソースがぐつぐつと泡を立てるハンバーグが乗っていた。

 勝手に目尻から涙が滲む。

 「それと、チーズチーズディッシュになります」

 「あ……はい。ありがとうございます」

 距離は多少あるはずなのに、目を焼くほどの力をもったマグマバーグディッシュ。すぐそこに置かれた唯は大丈夫なのかと、少しだけ目を向ける。

 「美味しそうです!」

 ――特に問題がないらしい。

 「食後にデザートをお持ちします。ごゆっくりどうぞ」

 そう言って、店員が去っていくと宗田も食べようと視線を落とす。

 

 ――……ザッ……ザザ

 あれ? まただ。

 

 視界がぶれると皿が捻じれるように、形を歪ませて見えていた。

 空間ごと捻れるように、ぐるぐると渦を巻く。

 慌てるように唯を見たが彼女の皿も同じように渦を巻いていた。


 「んっ? 宗田さん。こっちを見てどうしたんですか。あ、食べたくなったんでしょ。いいですよ~」

 じっと見つめてしまったことを、催促だと勘違いした唯がハンバーグを宗田の皿に切り分けて置いた。

 「え? いや、なんか――あれ」

 すると、いつもの世界が目の前に現れる。

 おかしいな。なにかの病気か? やっぱり今度、病院にでも行こう。

 そう思いながら食事を進めたが、今日一日で変なことが立て続けに起きている。

 それがどうしても頭にこびりついて剥がれてくれない。


 胸の内側が大きくざわつき、それが時間と共に大きくなっている気がした。

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