表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/74

目覚め

 ここ最近、目覚めの後に救いがあった気がしない。

 今も、瞼の裏を焼いてくる光が夢から現実へと意識を押し上げてくる。

 軽い浮遊感と近づく光に宗田は、重い瞼を持ち上げた。

 

 「俺……あれ、ここ、は?」

 目の先にあったのは青色の天井と、目を焼こうとした光の筋。

 その光を腕で遮ると、目の隅には干からびた死骸と広い屋上が映った。

 思考が言うことを気かず、ただそうしていると、一筋の生ぬるい風が撫でる。

 その風が宗田の記憶を運び、頭の中の冴えてくる。

 

 「――唯っ!」

 引き上げられたように起きた宗田は、彼女の姿を探す。だが、返事をしたのは、風に揺られ垂れたフェンス。

 それ以外に反応したのは何もなく、胸が裂けるように苦しくなった。

 最後に覚えてるのは、うずくまる宗田を見ていた唯の表情。

 それは、固く強張っていた。

 今すぐにでも会いたいと思ったが、彼女の鱗片はどこにも存在しない。

 暗い淵に落とされた宗田の思考が、端っこに浮いている光を掴むと、記憶が蘇る。

 

 「どこに――」

 全てを言い終える前に、悲しげな足音が頭の中に浮かぶ。

 「……頼むから、無事でいてくれ」

 視線を落として呟くと、右手に持っていた剣がないことに気づいた。

 禍々しい黒を放った剣の行方を探したが、どこにもない。

 

 「どこに……消えた?」 

 宗田が自分の右手を見つめる先に剣はなく、ただ空気を握っている。

 「あの時の魔法は……試してみるか。――イメージは治癒、どんな傷も――」

 呪文を唱える途中で、宗田の言葉が止まる。

 強く瞼を閉じ眉間にシワが寄る。

 「……つぅ……頭が……」

 頭に走った鋭い痛みが、呪文を言わせないように口を封じさせた。

 

 「くそっ! なんなんだよ!」

 怪物を倒して唯を救った。

 それはハッピーエンドと言えるかもしれない。

 だが、唯もいなければ頭に勝手に浮かんできた呪文ですら口にできない。

 理不尽で傲慢な世界に、宗田の語気が強くなる。

 

 「もういいや……唯を探さないと」

 立ち上がった宗田の体がわずかに傾いた。

 久しぶりに体を動かしたせいか、足に力が上手く伝わらない。

 少しよろけながら、体勢を整え、肺に空気を多めに送り込む。

 反射的に閉じてしまった目を開け、肺を絞り呼吸を整えた。

 

 「これは……魔法の後遺症、か?」

 宗田の呟きはマンションの屋上に静かに溶けて消える。

 少しだけ胸の奥に引っかかりが気になったが、宗田は歩みを進めることにした。

 入口へたどり着いた宗田は、あの怪物の異常さを改めて思い知る。

 

 「完全に……壊れてる」

 金具は無理やり剥がされたように捻じれ、扉が吹き飛んだ拍子に抉れたのか、中身が見えていた。

 それを見ると心臓の鼓動が激しく肋骨を叩く。

 そして、歩みを進めようとした時、寂しがりな空気に肩を引かれた気がして、後ろへと振り返った。

 

 壊れたフェンスが風に揺れ今にも落ちそうで、それが手を振っているかのよう見えた。

 宗田の口がわずかに開く。

 「もう、大丈夫だよ」

 数秒、瞼を閉じると今度は太陽の光が暖かく感じられる。

 そして、ゆっくりと目を開き、止めた足を前に進めた。


 マンションの外は相変わらずの地獄が続き、周囲の空間が張りつめている。

 「ゾンビの数が多い……な」

 近くにあった車の影に身を潜め周囲を観察すると、あきらかに数が増えていた。

 「なんでこんなに? そんなに時間経ってないとは思うが、俺達を追ってきたのか?」

 息を潜め物陰に隠れるように移動する。

 

 「一旦、家に戻るとして……そこに、唯がいればいいんだが」

 とにかく今は唯を探すことが先決。

 自分の家に帰ってるかもしれない。

 

 ――でも、戻ってもいなかったら。

  

 仮にそうだったとしても探す、どこまでも探す。

 宗田は胸の奥のざわめきを落ち着かせるため、問答を繰り返す。

 

 「守るって決めたんだ、だから諦めない」

 足音を立てずにゾンビ達の側を通りすぎる。

 「これ、使えそうだな」

 砂利で出来た駐車場の地面から、少しだけ丸い輪っかが飛び出ている。

 黄色と黒のロープを地面張り付ける役割をしていえ、鉄で出来た先は鋭く尖っている。

 これを使えば、ゾンビの頭を貫ける。

 迷わずに二本引き抜き、一本は手に、もう一本はベルトに挟む。

 「動きにくいけど、まあいいか」

 何もない手元に武器があるだけで、宗田の表情がわずかに緩み、余裕が出る。

 武器と魔法があれば、一人でも大丈夫だと言い聞かせ先へと進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ