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黒い聖剣

 不意に頭に浮かんだ言葉を口にすると、宗田の右腕に巻き付くように、光がほとばしる。

 黄金に輝く魔法陣が空中に展開されると、太陽よりも明るい光が放たれた。

 その中心にゆっくりと裂け目が入ると、剣の束のような物が現れる。


 青色の宝石が束の先端に埋め込まれ、簡素な装飾を施された剣だった。

 それを見た時、宗田の心臓が跳ねる。

 それはどこか懐かしく、温かさを感じた。


 宗田がそれを握る。

 強引に引き出された剣からは熱が伝わり、まるで意思に呼応するように全てを破壊するような大きな力をくれた。 

 どうしてその言葉が浮かんだのかは分からないが、絶望と怒り、それに憎しみが混ざり合い、勝手に"聖剣"の名前が出てきたのだ。 

 だけど、今はそんな事どうでもいい。

 

 ――殺す

 

 ただ一つのかけがえのない彼女を傷つけた、その行為は死んで償うしかない。

 聖剣とは真逆の、負の感情が宗田の心を覆い尽くすと、赤錆のような色が視界の隅からじわりと滲み出てきた。

 それが、宗田の視界を完全に覆い尽くすと、地面を強く踏み込んだ。


 ――――

  

 「お、んまぁいなー。アヒャッ――れぇ?」

 光輝く剣先が怪物の腕に食い込むと、音も立てずに宙を舞った。

 止めどなく噴き出す紫の血液が、宴の始まりを告げる。


 腕を斬り落とすと同時に唯を抱きかかえると、宗田の足元に、剣が出現した時と同じ黄金の魔法陣が出現する。

 それを足場にするように、宗田は大きく飛んだ。

  

 「……唯。俺のせいで……ごめんな」

 怪物から離れた場所に着地すると、そっと地面に置いて手の平を唯に向ける。


 再び頭に文字が浮かび、それをなぞるように宗田が唱える。


 ――イメージは治癒

 ――どんな傷も、どんな病も

 ――治してくれる

 ――死を遠ざける、生者の祈り

 ――グランドヒール

 

 宗田が全てを唱え終えると、金色の光が唯を包み、光が徐々に大きくなると、失った腕が再生する。

 そして、腹に突き刺さった怪物の腕は塵となり空に吸い込まれた。

 

 死にかけの呼吸が一度大きく息を吸い込むと、何度も強く咳き込み喉の奥にへばり付いた血液を吐き出して、唯が目を開けた。

 目が合うと、か細い声で唯が宗田の名前を呼ぶ。

 

 「宗田……さん」

 その声を聞いて宗田の張り詰めていた、糸が少し緩む。

 「今度こそ守るから。だから、待ってて」

 その言葉に反応するように唯が手を伸ばすと、それを両手で包み込むように握り返し、怪物へと振り向いた。

 そこには自分の無くなった腕を、不思議そうに眺める怪物の姿が映る。

 

 「ては……どこ? ……あれぇ?」

 切断された腕を怪物が覗き込むように見る。

 自分の顔面か大量の血液で汚されるが、それすら良く理解できていないようだった。

 滑稽な姿に宗田の怒りが更に大きくなる。


 こんな奴に唯が傷つけられたのか。

 そう思うと剣を持つ手が自然と強くなる。


 宗田の瞳から感情の色が消えた。


 ――宗田はひとつ息を吐き出す。

 

 怪物に向かって剣を構え、肺に溜めた空気を吐き出すと、空中に無数の幾何学模様が浮かび上がった。

 それに宗田が飛び移り、自分の体を押すように宗田が蹴る。

 一つ踏むたびに体が加速し、怪物は宗田が近づいたことにすら気づかない。

 

 すれ違いざまに、下から上に剣を振るう。

 

 腕に触れたがなんの抵抗もなく、肉に食い込み骨すらも簡単に切断した。

 腕が宙を舞うと、遅れて怪物の血液が雨のように振り注ぐ。

 

 「こっちもぉ? おまえが……やったのぉ?」

 死神には痛覚がないのか、痛がる素振りを見せることなく飛びかかるように宗田に噛みつく。

 だが、宗田はステップを踏むかのように横に避けた。

 両手を失いバランスを崩し倒れ行く怪物が、赤い瞳で宗田を見ていた。

 それを、地面に触れる前に軽く剣振るう。

 バケツをひっくり返したように、胴体から大量に血液が吐き出され、怪物の胴体と下半身が完全に別れる。 


 芋虫のようになっても、這うように宗田へと迫る。

 「しぶといな――ゴミが」

 かち上げるように蹴り上げると、怪物の巨体が宙に舞う。

 

 ――宗田の持つ剣がわずかにぶれる。

 

 すると、バラバラとなった肉片が一つ、また一つと屋上の床を汚した。


 ――――

 

 「終わったな。唯は――」

 唯の方へと振り返ると、こちらに駆け寄ってくる姿が映る。

 その姿を見た瞬間、口から「良かった」と声が漏れた。

 唯が近くに寄ると、宗田の目尻が熱くなった。 


 「宗田さんのおかげで、元気になりました」

 そう声をかけられると、涙が溢れる。 

 「ちゃんと守ってくれましたね」

 優しく微笑んだ彼女を、自分のやるせなさから直視できない。

 だが、振り絞るように宗田は口を開く。

  

 「いや……俺がもっとしっかりしてれば」

 その声は不格好で、涙に焼けた声を隠せていなかった。

 「そんな事ないです。宗田さんがいなければ私は、こうして話すこともできませんでした」

 唯は底抜けに優しく、思わず甘えたくなってしまう。

 だけど、同じことを繰り返さないと誓うように剣の柄を強く握り締めた。

 

 「ところで、宗田さんのそれは……」

 宗田の持つ剣を指さしてそう言うと、顔を近づける。

 「綺麗ですね」

 小さく呟いた唯の瞳は剣に釘付けとなっていた。

 宗田の頬がわずかに動き、言葉を発しようと唯を見ると、澄んだ瞳の色がモノクロに見える気がした。

 

 「かっこいいですね」

 感情が見えない瞳のまま、唯が言葉を発する。

 「あ、ああ、でも、良くわからないんだ。気づいたら――」

 宗田が唯の異変に動揺するように答えた時だった。

 

  ――ザ……ザザザ……

 

 世界が遠のく。 


 「――ぐぅっ! いっ!」

 頭を押さえその場に膝から崩れた。

 突然起きた鋭い痛みは、頭蓋骨の内側を鋭いナイフ削り取るように、全ての神経を狂わせる。

 朦朧とする意識の中で、声がする。

 

 ――過負荷を検知。

 

 無機質で聞いたことない声が脳の内側に貼り付いた。

 それは魔王が発した声色とはまったく違う。


 「ああ、ぐうぁっ!」

 口から涎が滴ると、肉片で汚れた地面をさらに汚す。


 ――模倣、強制解除。

 ――…………。

 ――強制解除完了。

 ――斎藤宗田の魔力回路の修復実行。


 まるでプログラムのように、決められたセリフを告げると、少しだけ頭の中が落ち着いてきた気がした。


 「……、……さん、宗田さん!」

 鮮明になった意識が唯の言葉を捉えた。

 視線だけを動かすと、歪んだ視界に焦りを含んだ固まった顔の唯がいた。

 「ゆ……い」

 絞り出すように声を出すが、その後が続かない。


 「これ、は――なん……なんだ」

 

 ――侵食を確認。

 ――緊急プロトコルを実行します。

 

 胸の奥底から闇が訪れた。

 それは、心を上書きし別のものへと塗り替えようとしてくる。

 痛みとは違う、消える恐怖が宗田の意識を刈り取ろうとした。

 

 その闇は、孤独で、悲しくて、だから破壊する。

 それだけのために生まれて来た存在のように思えた。

 視界の隅に見えた黄金の剣が、禍々しく吐き気を催す黒へと変わりつつある。


 「に、げろ……」

 「宗田さん? あの、大丈夫――」

 「――逃げろっ! 早く!」

 最後の力を振り絞り、唯に向かって叫ぶ。

 見開いた瞳は少し悲し気だったが、どうにか察してくれたようだ。

 戸惑いから、一度は動きが止まったが遠ざかる足音に力が抜け瞼が閉じた。


 闇の向こう側でまた声がする。

 

 ――緊急プロトコル実行。

 ――代替人格、「憤怒」


 「おいおい、俺様の出番かと思ったが、ただの子守かよ。つまんねーな」


 その声は乱暴な口調の男。

 次の瞬間には、宗田の意識はプツリと消え去った。

 いつもありがとうございます。

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