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異変と正体

 いつもありがとうございます。

 なんの前触れもなく唯が突然しゃがみこむと、両手で頭を押さえて苦悶の声を漏らした。

 「くぅっ、頭が、いた――」

 扉に意識を集中していた、宗田が唯に駆け寄り声をかける。

 「――どうしたっ! 大丈夫か?」

 脂汗が大量に噴き出し呼吸が上ずっている。

 宗田が手を伸ばそうとすると

 「頭に声が……なに、これ……。え? なっ!? うるさい――黙れっ!」

 唯が当然叫んだ。

 その声に驚いて手を引っ込めるが、錯乱したように首を振る唯に、もう一度口を開く。

 

 「唯、唯っ!」

 彼女の名前を叫ぶように呼ぶと、薄っすらと開かれた目で唯は宗田を見た。

 「す、すいません。もう……大丈夫です」

 そこには、錯乱した彼女の面影はどこにもなく、少しだけ青ざめた顔が宗田の目に映る。

 どうしたのかと宗田は尋ねたかったが、


 「あけてよー」

 その声に意識が扉に再び向けられる。

 子供のような声には抑揚が一切なく、叩き続けられる鉄製の扉が悲鳴を上げていた。

 

 扉を固定する金具が外れかけ、鍵の役割をしていたバールはぐにゃりと形を変えていた。

 それは人の力を遥かに凌駕し、宗田の体を凍らせるには十分で、閉鎖された空間は、逃げ場のない棺桶と姿を変えてしまったように感じる。


 少しずつと変形する扉の一部が、限界まで歪むと亀裂が入った。

 その奥には、踊り場の暗闇が映し出されていたが、それを防ぐように影が見える。

  

 「ごはん……見つけたー」

 引き裂かれたように隙間の空いた向こう側から、怪物の赤い目がぎょろりとこちらを見た。

 人の目とはかけ離れた球体。

 ――ただ赤い。

 ゾンビとは違い、見えている。

 それが一つ、宗田と唯を見つめ、ニヤけるように歪む。

 

 「――っ!」

 喉から空気が潰れて抜けた。

 ぐにゃりと赤い瞳が歪むと、その亀裂から白く巨大な手が突き抜けてくる。

 こじ開けるように穴を大きくして、薄気味悪い顔が覗くと、再び殴りつける。


 「――開いたぁ」


 限界を迎えた扉が吹き飛ぶと、背後のフェンスを突き破り下へと落下する

 背後で宗田の死を阻止したフェンスは、その役割を失い、だらしなく垂れ下がった。

 

 

 陽光の下に晒された怪物は白い死神。

 

 まるで自分達が、首切り台の死刑囚となったように、最後の瞬間を見ているようだ。

 真夏の極寒にいるように、その巨大から放たれる得体の知れない狂気に体が震える。

 宗田の頬を血が流れた。

 揺れる瞳がそれを見ると、自分の命が残っていたことが奇跡だと理解する。

  

 ――もしズレてたら。

 

 運命の悪戯で繋ぎ止めた命。

 ほんの少し横にズレてれば、自分がフェンスのように壊れていてもおかしくない。

 指先から熱が逃げていく。

 呆然としていると、怪物がにたりと笑い口を開いた。

  

 「いただ……きます」

 

 耳元まで避けた大きな口から、赤紫の舌が出てくるとゆっくりと口の回りを舐めた。

 べちゃりと唾液が飛び散り、それが地面に触れた瞬間――視界から消える。

 

 「――えっ?」

 「あれぇ?」

 

 宗田と怪物の声が被る。

 すぐ横には白い怪物が不思議そうに手を眺めていた。

 コンクリートの床はスナック菓子のように砕け、中の鉄筋もくの字に曲がっている。

 ただ――運が良かった。

 

 宗田が動けないでいると、横にいた唯が叫ぶ。

 

 「お前! 私の宗田さんに……許さない――」

 唯の手にあったはずの金槌が、怪物の右手にめり込んでいた。

 敵意を剥き出しにした唯は、怪物に殴りかかった。

 

 「――いたっ!」 

 怒りに任せた一撃は、空気を震わせる。

 だが、それでもこの怪物には届かなかった。

 唯の拳は、自分の力に耐えきれず皮膚が裂け中身が剥き出しに。

 完全に破壊された右手はだらりと垂れた、生臭い臭いが宗田の鼻へと届いた。

 

 「ちっ! 宗田さんは離れててください。――治れ」

 唯は自分の魔法で、壊れた右手を瞬時に治す。

 すると、また白い怪物に一直線で攻撃をしかける。

 

 攻撃、治癒、攻撃、治癒。

 

 狂ったように唯が攻撃を繰り出すが、びくともしない。

 怪物は気にした様子もなく、角度を変えて自身の右手を眺めているだけだった。

 すると、手の甲にめり込んだ金槌に気づいたのか、鼻の役割をしているであろう二つの穴を近づける。

 

「これ……おまえ」

 刃物のように尖った指先を唯に向けると、にたりと笑い、次の瞬間には唯に迫っていた。

 

「辞め――」

 宗田が声を上げようとした時には遅かった。

 彼女の腹の中心から突き抜けて、背中に向かって怪物の腕が突き出ている。

 

 「辞めて……くれ。辞めろ! ――辞めろっっ!」

 その声が怪物に届いた頃に、唯の腕はそいつの口の中に収められていた。

 まるで雨が振り出したばかりの時のような音が、宗田の鼓膜を削り取る。

 ぐちゃぐちゃと怪物が下品に口を動かして、喉を何かが通って言った。

 狂乱の怪物は満足そうに声を高くして笑うと、さらに唯を喰らおうとしていた。

 

 「宗田さん……逃げ……て。お願……い」

 か細い唯の声からは、生の全てが奪われていた。

 自分が死ぬかもしれないのに、それでも宗田を思い逃げるように懇願する。

 

 ――宗田は声震わせて叫んだ。

 

 「俺から何もかも奪いやがって――ふざけるなっ! こんな世界も、怪物もクソくらえだ! 全部、俺が――殺してやる」

 

 腹の奥底からマグマのような熱が迫り上がり、その温度が胸の中心で太陽となる。


 何かが軋む音がした。

 

 ――カチリ

 

 頭の中で何かがハマる。

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 助けると言って、いつも助けられてばかりだった。苦しい時に君の姿を見るだけで、生きている気がした。

 

 でも、それは――甘え。

 

 ――だから、今度こそ俺が守ってやる。

 ――君がいない世界なんて、必要ない。壊れてしまえばいいんだ。

 

 こんな世界――破壊してやるっ!


 ――イメージは創造

 ――悪しき魔物を切り裂く

 ――光輝く剣なり

 ――聖剣エクリプスα

 面白いと思っていただけましたら、評価、ブクマしていただけますと幸いです。

 毎日更新継続中。たまに複数話投稿します。

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