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夜明け

 鬱陶しいほどの光が瞼の裏に広がっていた。

 顔をわずかに逸らしたが、追いかけるように瞳を執念深く刺してくる。

 居心地の悪い光は、意識を無理に引っ張り出してこようとしてきた。

 微睡の誘惑を振り払い目を仕方なしに開こうとしたが、粘り気のある目やにがそれを拒んでくる。

 それを手で擦り落とすと、ようやく瞳が自由になった。

 目を開けると、壁を背にして寝ている唯の姿が見える。

 

 「俺……寝てたのか?」

 散り散りになっていた記憶の断片を手繰り寄せると、一つの塊となった。

 脳内でそれを再生すると、宗田は跳ねるように立ち上がる。

 「ゾンビが、唯――」

 昨日のことを思い出した宗田が、急いで近寄ると肩に手を伸ばした。

 だが、頬に流れた跡を見つけると伸ばした腕が止まる。

 

 「……また、俺のせいか」

 宗田の唇がわずかに震える。

 握り締めた手の甲に筋が浮かび、生を投げ出そうとした心が揺れた。

 

 「君だけでも……なんとかしたい」

 彼女に惹かれている。

 それは好意的だが、好きとか嫌いとか別種の物だった。

 ただ、分かっていることがあるとすれば、宗田にとって彼女が唯一の生きる意味。

 

 止めた手を伸ばし、ゆっくりと肩を揺らすと、唯の瞼がかすかに揺れる。

 「宗田さん、おはようございます」

 腫れぼったい瞼が宗田の心に強く触れる。

 「もう、朝ですか? イタタタ……体バキバキです」

 なにごともなかったように振る舞う唯に、余計に苦しくなる。

 宗田は視線を下げ、彼女から逃げようとするが離してくれなかった。

 「ふふ、そんな顔しないでください――私は宗田さんが傍にいてくれればいいんです」

 宗田の気持ちを察した唯が、優しい言葉を投げかける。

 夏の風鈴の音のようにその声は体に染み渡り、絡まった感情をほどいてくれた。

 顔をそっと上げ彼女のと目が合うと、はにかむように笑顔を返してくれる。

 「あ、ありがとう」

 彼女の屈託のない笑みは宗田を何度も助けてくれた。

 だが、その瞳は何処か違うところを見ているような気がして言葉が詰まったが、すぐに揺らぎは消え失せる。

 ひとしきりの笑顔を見せた唯は、窓へと振り向くと口を開いた。

 

 「外……大丈夫ですかね?」

 二人は恐る恐る窓へと歩み寄る。

 道路にはちらほらとゾンビの姿が見えたが、昨日のように騒いではいなかった。

 部屋の張り詰めた空気がわずかに緩むと、同時に固まった息を吐きだした。

 シンクロした動きにお互いを見つめ合うと、一拍遅れて笑い声がこぼれる。


 ――その後は、なるべく音を立てないように家の中を散策していた。

 

 「唯、何か良いもんあった?」

 「んー、これはどうですかね?」

 取り出したのは湾曲した鉄の塊。先端部分が二股に分かれている。

 「お、バールか。いいね」

 「なんか、勝手に家を漁って……泥棒みたいで気が引けます」

 「まぁ……確かに。でも、今は仕方ないよ」

 世界が地獄へと変わってから、自分達も変わってしまったと思う。

 生きるのに必死だからしょうがない。

 生きるためには殺すのはしょうがない。

 唯に向けて放った言葉は宗田自身への慰めにもなっていた。

 「そのバールは唯が持ってて」

 「え? 宗田さんじゃないんですか?」

 「俺は金槌と魔法があるから。それに、唯は馬鹿力じゃん。ちょうどいいよ」

 「なっ、えっ?! ちょっ、それは酷くないです?!」

 宗田に抗議をするように唯が詰め寄るが、口元がニンマリと意地悪に歪む。

 「だってさ、あんなに見事にゾンビをねー」

 「もう、宗田さんなって知らないです!」

 わずかに口を尖らせぶっきらぼうにバールを受け取ると、乱暴に一振り。

 耳元で風を切る音がすると、宗田がぶるりと震える。

 「おっ、ちょっ、危ないって」

 「へーん。馬鹿力ってバカにしたからですよーだ。仕返しです」

 唯の目には意地悪成分が多く含まれている。

 「宗田さんの頭もぱかーんです」

 自分がゾンビの頭だったら、そんな可愛いものじゃない。

 むしろ爆裂と言う言葉がぴったりではないかと思ってしまう。

 そうして、一夜限りの拠点を後にする。

 出ようとした時、家主がいない家が寂しくて泣いているように感じられた。

 勝手に侵入して間借りして、物を盗んで、ふざけて。どれも許されるものじゃないが、家が少しだけ喜んでいたようにも思える。

 「また、来てね」

 そう言われたような気がして、宗田は顔だけ振り向くとわざと瞬きを強く返して、お礼を言った。

1話抜けてたので、19話差し替えました。

申し訳ありません

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