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活性化?

 虫の音色に紛れて、怪物のうめきの音が耳の奥を削り取る。

 他人の血液でざらついた肌は、どこかに置いてきたかのようになくなり、湯上がりの心地良い温もりに二人は包まれる。

 だが、神経をなぞる様な音に鼓動が数拍速くなると、わずかに二人の肩が跳ねる。

 

 薄いガラスで仕切られた出来損ないの密室は、二人を守るには心許なく、向こう側の存在が触れば崩れ去る平和に、部屋の空気が張り詰めている。

 少しでも体を休めようとソファーに深く身を沈めたが、結局は強張りが消えることはなかった。

 

 「少し……外の様子、覗いてみる」

 宗田は庭に面した大きな窓へ歩み寄ると、カーテンの小さい隙間から片目を覗かせる。

 地面には雑草が生え塀で仕切られてはいるが、怪物達の影が生者を羨み彷徨い続けていた。

 

 体から悪臭は消えたが、鼻の奥にはそれが記憶として残っている気がしてしまう。

 それが、唯の喉元に伸びた黄ばんだ歯を鮮明に思い出させ、背骨が氷の柱に変わったかのようにぶるりと震える。 

 急に空気が冷たくなったように感じ、カーテンを急いで引き戻すと唯へと振り向いた。

 

 視線の向こうには、瞼を重そうに膝を抱えて座り、宗田を見ている姿が映る。 

 「……どうでした?」

 唯の声は気だるげに沈んでいた。

 口から下を膝の後に隠したまま覗くように宗田を見る。

 外の気配でどうにか意識を保とうとしているが、いつその糸が切れてもおかしくないくらい疲れているようだった。

 

 「まだ、その辺にいるみたい」

 「そう……ですか」

 「もう少し、ここに隠れてるしかないかな――」

 目を背けたくなるような鮮烈な光が、部屋の闇を食らい尽くすと、少し遅れて轟雷が鳴り響く。

 「――きゃっ!」 

 部屋の空気を一瞬で引き裂き、雷光が闇の一部を呑み込んだ。すると次には、ぽたぽたと空が泣きはじめ二人が外に出るのを拒み始める。

 「さっきまで、晴れてたのに……通り雨か」

 宗田がぼそりと呟くと背後で、さっきの轟音が合図になったかのように空のうめき声の数が増えていく。

 軽い水の落ちる音が強くなると、外の世界が騒がしい夜へと切り替わった。

 「凄い……雨。でも、なんか落ち着く」

 いつの間にか横にいた唯は、明滅を繰り返すカーテンをじっと見つめていた。

 その姿は美しくもあるが、どこか危うさと怪物のような怖気けを纏っているように見える。

 唯の姿に見惚れる宗田は上手く口を動かせず、口からはただ息が漏れていた。

 

 「んっ、宗田さん? ぼーっとしてどうしたんです?」

 「いや……なんでもない」

 彼女の瞳と視線があうと、心を見透かされているような気がして、わずかに逸らした。

 「余計、帰れなくなったね……」

 振り絞った宗田の言葉の端は少し震えている。

 この狂った世界にあてられたからと思ったが、神々しさと禍々しさを融合させた彼女一人に宗田は狂わされそうだった。

 「このまま、いなくなってくれたらいいんですが」

 唯に奪われていた意識が少しだけ戻されると、その言葉にすっとカーテンを見た。

 

 「なん、だ……」

 乾いた喉の奥から、湿気のない声が出る。

 外に気配を向けた宗田だったが、頭の天辺から足先まで冷水を浴びせられたかのように、熱が消え去った。 

 「唯……上に逃げよう」

 雷の音に感化させられて怪物達が行進を始めたかのように騒いでる気配を感じると、唯の手を引き急ぎ足で階段へと向かう。

 「あ、でも、二階は逃げ場がなくなるからって」

 「そう、だけど。外がおかしいんだ。今――絶対に見つかるわけにはいかない」

 「は、はい」

 宗田の焦りを感じ取った唯の手はわずかに湿り気を伴っていた。

 

 「唯、ドア塞ぐから手伝って」

 「えっ……あっ、はい!」

 ベッドや机、動かせる物を扉の前に集め簡単には開かないようにすると、宗田は窓のほうへと歩み寄った。

 「ここからなら、見えるか」

 すっと窓から顔を覗かせると、目が大きく見開いた。その様子を見ていた唯も宗田の横に並ぶと外を覗く。

 「――えっ……なに、これ?」

 二階から下を覗くと、怪物達の狂乱の宴が始まっていた。

 ちらほらとしかいなかったゾンビは溢れかえるように、ひしめき合う。

 雷の音に合わせて仰ぐように、空へと手を伸ばし自分達の思うがままにあちこちに移動していた。

 「やっぱり、音、なのか……見つかったら終わりだな」

 

 改めて、自分のいる世界が狂っていると認識する。

 死が当たり前のように蔓延する世界に、自分の中にあった、希望が弾けて消えた。

 

 「……はは」

 全身の力が抜け、壁にもたれかかるようにへたり込むと、尻からフローリングの冷たい感触をわずかに感じた。

 それは、あまりにも居心地が悪く顔すら上げることができなかった。

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