ズレがある
紫苑に宗田が頷いて返事をする。
「ふむ。それなら良かった。ちなみになんだが、この拠点に初めて来た人物に必ず聞いてる——君達は何日目だ?」
「それは……どうしてだ?」
「理由は後で話そう。とりあえず教えてもらえると助かるのだが」
唐突な彼の質問に、宗田は不思議そうに首を傾げた。
どれくらい、と聞かれれば正確な日数は数えてないが二週間そこいらだと思う。
間違いなく一ヶ月は経っていない。
今は恐らく八月の初旬か中旬くらいで、少しだけ暑さが和らいでいる。
たまに吹く風は湿り気が消えて、少し乾燥しているのが秋に近づいているのを感じさせていた。
「多分……二週間くらいだ」
「そうか。隠してもしょうがないからはっきり言うが……この拠点に避難した一人は、すでに一ヶ月以上。――正確には一ヶ月と二週間は経っている」
宗田は紫苑の言っていることを理解するのに時間がかかる。
なんとか振り絞って出せた言葉も一言だけ。
「は?」
どれだけ間の抜けた声だったのだろうか。
さっきまでの沈みかけた空気なんて飛んでいってしまったようで、動揺が空気を震わせていた。
「驚くのもしょうがない。そう言う私も、一番早い人に比べたら一週間くらいは遅れている。真奈もそうだ。ちなみに、二人とも同じ時に目が覚めたのか?」
「ああ……俺と唯はだいたい同じくらいだが……」
そう言えば、ベリルいわく一度死んでいるとのことだった。
つまり、魔素に適応して生き返るまでにタイムラグが人によって発生すると言うことなのか。
もしかして、ベリルはこのことを知ってたんじゃないのか?
視線をすっとベリルに向けると、こっちをニタニタした顔で見ていた。
やっぱりか……後で、覚えてろよ。
と言うか……どうりでアパートが静かだったわけだ。
自分達以外に物音もしなければ、外から生きてる人間の声すらほとんどしなかった。
避難したか……ゾンビになったのか。
空いてる部屋もあったと思うが、もう少し調べてみた方が良かったのかもしれない。
こう考えると偶然に生かされて、ここまで来れたのだと実感させられた。
時間差に関して改めてその事実を知って、驚かされたのは間違いない。
ただ、なにか今の状況が変わるわけでもないと、宗田はすぐに冷静さを取り戻すことができた。
「ちなみに紫苑はどうして人によって目が覚める時間が違う原因を、知ってるのか?」
「いや、それは分からない。ただ……魔王がなにか"企んでる"可能性はある。君達みたいに目が覚めるのに、最低でも一ヶ月もかかった人は初めてだ」
紫苑が少し考える素振りを見せる。
「むしろ、君達の方もなにか知っていることがあれば教えて欲しい」
紫苑が顔を前に戻すと、そう言って宗田の目を真っ直ぐに見る。
宗田はベリルに教えてもらった内容を伝えるべきか判断に迷う。
特にこう言う時の情報は武器にもなり得るのだ。
紫苑を完全に信じきれない宗田にとって、どこまで話すべきか、その境界線を測るため一度口を閉じて両手を組む。
軽く唯とベリルに目を向けるが、特段返答が返ってくるでもなく、ただ目が合って終わった。
魔王に関しての"神器"
大罪の"使徒"
一度、死んでいることに魔素について。
頭の中に並べた情報を一つ一つ考えて、その一部だけを伝えることに決めた。
「……あー、もしかして知ってるかもしれないけど……俺達は一度――死んでる」
唐突に宗田がそう言うと、紫苑の眉がわずかに跳ねて、呼吸が一拍ずれた。
「ほう……にわかには信じられないが……その情報の出どころは?」
「俺も今だに信じられないけど……うちの、優秀な精霊様がそう言ってた」
宗田の言葉にベリルが突然立ち上がると、両手を腰に当てて胸を張る。
「精霊……それすらも怪しいのに、その言葉をどうして信じられるんだ?」
「精霊か、ってことに関しては俺も同意。ただ、ベリルを見て気づかないか? 剛に担がれてた時に比べてどう思う?」
紫苑の視線が宗田から外れてベリルに向く。
撫でられるように上から下に見て、紫苑の目が少しだけ動揺していた。
「む? 成長……した、のか? 確かに昨日より大きくなっている」
「な、普通の人間じゃないことは分かるだろ? あのグールの魔石を渡したら、これだ? 少しは信じる価値があるんじゃないか?」
「全てを……とはいかないが、貴重な情報には違いない」
その他にも、人が死んでも聖者の祝福がないとゾンビになってしまうことや、噛まれてもゾンビにならないこと。
それと、死んだ原因が魔素に適応するため。
後はグールはゾンビから生まれることについて紫苑に話した。
魔王の"神器"と大罪に関しては教えてない。
それと、ベリルの魔法で魔王の元に行けることも。
そのために魔石が必要なことについても、黙っておくことにする。
どれも、下手に話して魔王の耳に入ったり、大罪……特に真奈の中にいる"嫉妬"に聞かれた場合、なにが起こるか分からない。
だから、最悪のことを考えるとこれらに関しては今の所、話すつもりはなかった。
それと単純に、紫苑が信じられないのもひとつの要因ではある。




