いつも喧嘩ばかり
「ああ、気にせず座ってくれ」
サラリーマンの宿命か、どうしても礼儀として立ち上がって出迎えてしまう。
いけ好かない野郎だが、会社の上司のような雰囲気きに刷り込まれた社会のルールが反応してしまう。
紫苑の言葉に座るのを躊躇していたが、空気を読めないベリルがどかっと腰を降ろすと宗田と唯もゆっくりと腰を降ろす。
二人窓際まで歩く。
紫苑が校長が座っていたであろう椅子に腰をかけて、全員に顔を向けた。
その後ろに護衛のように後ろに手を組んで胸を張る真奈が立っている。
腰には昨日の戦いで使っていた刀がぶら下げてあり、護衛として表現したことはあながち間違いないらしい。
「さて、改めて私達の拠点にようこそ」
紫苑の独特の間の後に放たれた言葉は、どうしてか重たく感じてしまう。
唯も宗田も緊張したように背筋を伸ばし、紫苑へ体を向けて、彼の言葉を飲み込んだ。
ベリルはふにゃりと脱力したように、どこまでも柔らかい椅子に体を預けている。
肝座りすぎだろ。
この時ばかりはその胆力が羨ましいと思ってしまう。
「ふむ。そうかしこまらないでくれ。そうだな……ちゃんと自己紹介をしよう。私は竹内紫苑だ。ここのリーダーを務めさせてもらっている」
彼の上からの物言いは少し鼻につくが、不快にはならない。
放たれるオーラが独特で、これが当たり前だと頭が勝手に理解してしまう。
だから、こうやって面と向かって相対すると、変に緊張してしまい、「斎藤宗田」と自分の名前を名乗った時に声が少し上ずってしまった。
「ありがとう。それと、知ってると思うが彼女は」
「――塚本真奈よ。宗君は久しぶり、お二人は……改めて初めまして」
紫苑そう言うと、真奈は一歩前に出て自分の名前を告げた。
宗田には優しく儚げな視線を、ベリルには子供を見るかのような慈愛を浮かべ、唯には鋭く憎悪が込められている。
それに呼応するように、向かいに座っていた唯から重たい圧を感じて目を向ければ、腰を少し浮かせて真奈に飛びかかりそうになっていた。
「なぁ……一つ聞いていいか?」
宗田が静かに言葉を噤む。
安い挑発をしてくる真奈に対して心の奥底に潜んでいた、粘度の高く黒をさらに塗りつぶしたような感情が心に巻き付いた。
こと、唯に向けられる敵意に対しては誰だろう許さない。
それが、"元カノ"だろうが、刀を抜いた瞬間に全力を持って"殺す"覚悟ができていた。
感情を押さえるために握った肘掛けがぎしりと音を立てて、その音が、部屋に溶け切ってからゆっくりと咀嚼するように宗田は言葉を続ける。
「二人は敵か? ――殺すぞ」
宗田の言葉が二人に届くと、紫苑の眉がぴくりと動く。
真奈は驚いたように目を大きく開いてから、顔を伏せてしまう。
自分でも押さえきれないほどの殺意が放たれて、部屋の空気が凍りついたように動きを止める。
居心地の悪くなった空間に耐え兼ねるように、窓に設置されたカーテンが外からの風ではためいて、凍った空気を必死に温めようとしていた。
ただ、それでも中々止まった時間は動き出さなかった。
――パンッ!
その静寂を打ち破るように、何かが弾けた音がする。
そこに目を向ければ、ベリルが手を叩いた仕草をしていた。
「ほら、お兄さんも落ち着いて。そんな、安い挑発を受けちゃだめだよ」
誰よりもくつろいでいたベリルが体を起こして、宗田を見ていた。
ただ、その音がきっかけで膨れ上がった殺意は少しずつ引き下がって、最終的には腹の奥へと姿を消した。
「ふむ。これはすまなかった。真奈も、"今は"そう言うことは控えて欲しい。それとだ……私達は敵じゃない。それだけはきっぱりと言わせてくれ」
紫苑が口を開いて謝罪の言葉を述べた。
「分かった」と一言だけ言葉を放って、全身の力を抜く。
唯も乗り出した体を戻したが、両目から赤が抜けてなくて表情は固いままだった。
「ごめんなさい……」
真奈が紫苑に頭を下げると、一歩だけ後ろに下がる。
そうしてようやく止まった時間が動き出し、紫苑が再び話し始めた。
「まずは、一言お礼を言わせて欲しい。二人のおかげでコミュニティが生き残ることができた。と、言っても今の後だから……あまり喜ばれないと思うが」
目を伏せながら紫苑が頭を下げる。
最後に重ねてすまないと、もう一度謝罪を述べると口を閉ざして、三人を見た。
「ああ……謝罪は受け取った。けど、唯に何かしていいのは――"俺だけ"だ。次はない」
油断すればまたあの感情がぶり返す。
だけど、自分の意志は揺るがないと紫苑の目を見て言葉を言い放った。
「肝に……命じておこう」
紫苑が宗田の言葉を飲み込んで、なにか考えるように視線を上に逸らした。
「さて……なにから話したものか。すまないね、私の方も段取りが狂って、どうするべきか言葉が見つからないんだ」
無言の時間が続いて、互いに気まずい雰囲気に包まれて、どうにか場を保とうと紫苑が口を開いた。
「よし……少しこの世界について知ってることに関して情報交換をしないか?」




