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はいはいはーい

 「あ、宗田さんと唯さん、それと……ベリルさんですか?」

 学校の正門を潜ると、門番の役割をしていた青年二人に出迎えられた。

 腰には斧とナイフが携えられ、外からの侵入者に対抗できる準備をしている。


 ――それを見た時、宗田の意識がふわりと浮かんで、目の前が真っ白にぼやけた。

 

 視界が晴れると、宗田はそっと腰に手を伸ばす。

 気づかれないように葵が大切にしていたナイフを取り出して、一人の口元を押さえてから――ナイフを一突き。

 

 ずぶりと、肉と血管を裂く鈍い感触の後に、固い物にぶつかる感触がする。

 それを断ち切るように、一気に押し込んで、反対側にはみ出すくらい深く押し込む。

 

 きひっ! っとか細い悲鳴を上げた男が膝から崩れ落ちようとする瞬間には次の行動へと移っていた。

 

 腹に向けて、杭をイメージした拳を突き立てる。

 軽い苦悶の表情を浮かべてから、全ての穴から血液が噴射した。

 圧力に耐えかねて、片方の目玉が飛び出して、宗田の体にもたれかかるように倒れると、数回痙攣してズルズルと地面に倒れ伏す。


 顔にかかった血液を舌先で舐め取るとビリビリした感触がして、それが脳を突き抜ける。

 体がまるで欲していたかのように全身を快感と幸福感が満たしてくれて、天を仰ぐように顔を上に向けるとケタケタと笑い声が漏れ出た。


 ひとしきり味わい尽くすと、宗田はゆっくりと足を前に進める


 ――……イヒッ


 「……さん、宗田さん」

 体が揺さぶられてることに気づくと、宗田の耳に音が蘇る。

 高鳴る心臓にそっと手を当てると、唯に顔を向けた。

 

 「ぼーっとして、どうしたんですか?」

 殺したはずの二人の青年に顔を向けると、困惑したような表情を見せていた。

 

 ……生きてる。

 

 それを見て、宗田は安堵の息が漏れて、暴れていた鼓動が落ち着きを取り戻し始める。


 「ごめん……なんか、疲れてるのかな? ぼーっとしてたみたい」

 口を開いた時、喉がくっつくくらい乾燥していることに気づいた。

 舌の周りに溜まった唾を飲み込んでからどうにか押し広げると、ガラガラとした声が少しだけ良くなる。

 唯は宗田の異変に何か気づいてるのか、怪訝な表情を浮かべて探るような視線を向けた。


 すると、左の耳に人の吐息がかかる。

 「お兄さん、気をつけて……。――スキルには意思が宿る時あるからさ」

 ベリルだった。

 忠告するように一言放つと、そっとその場を離れる。


 ベリルの言葉を耳にした時、一瞬だけアドゥルバの耳に付くような笑い声がした気がした。

 これはもしかしたら奴らが肉を食らって血を飲み干している時の感覚だったのかもしれない。

 なんの前触れもなく人を殺して、その生を食らう。

 それが、屍者達の娯楽で快楽で、欲求を満たす行動なのだろう。


 「あー、すいません。ちょっと、昨日のことを……思い出して」

 なんて、適当な事を門番をしている二人に伝える。

 一人の青年が頷き「紫苑さんのところに案内しますね」と、三人を先導してくれた。


 校庭を見下ろすような形で、校舎の入口まで舗装されている道が続いている。

 その奥の方には体育館が校舎の影に隠されるように佇んでいた。

 校舎を見下ろせば遊具がいくつか見えるが、今は使う子供達は誰もいない。

 変わりに、グランドの地面はまだらに色付いて、そこからまだ死臭が湧き出ているような気がした。


 薄っすらと昨日の残り香が鼻を擦ると、宗田の肩にわずかに力がこもる。

 入口に近づいて見上げれば、アドゥルバの爆発によって破壊された窓がそこかしこに目立つ。

 

 たまに人の手が見えて板を打ち付けてるのか、トントンと規則正しい音が聞こえてきた。

 顔を戻すと電気の消えた薄暗い下駄箱が整然と並び、どこか子供の頃を思い出させてくれる。

 学び舎なのに、どこか不気味で不思議さと(おぞ)ましさが混ざったような校舎に、足を一歩踏み入れた。


 「今、呼んでくるんで、ここで待っててください!」

 校長室に案内される。

 門番を務めていた青年が元気に言葉を発して、駆け足でどこかに行ってしまった。


 ふかふかの椅子にとりあえずと、三人が腰を降ろす。


 すぐ横で人の息遣いのような音がした。

 宗田が振り向く。


 風の音か……?


 「わっはぁー! これすごーい! ――はうっ!」

 するとベリルのはしゃぐ声が、宗田の胸の引っかかりを消し去ってしまう。

 目を向ければ唯に押さえつけられていた。

 もがいて脱出しようとするベリルは、唯の腕力に負けておとなしくなる。

  

 再び静かになると、木製の重たそうなテーブルを挟んで二人をなんとなく眺めた。

 その奥に視線を向ければ、本が理路整然と並べられている。

 

 待ってる間、暇だからと右から順に目を走らせれば小難しくて、自分には縁がないような本ばかりが並んでいた。

 宗田はすぐに興味を失い顔をぐるっと動かして一通り見回せば、何かのトロフィーや賞状が飾られている。


 割れたガラスの向こうから風が入り込んで、賞状がパタパタとはためくと、子供がいなくなった学校が寂しいと訴えかけているようだった。


 ――コンコンコン


 校長室の入口からノックがする。

 「はいはいはーい!」

 と、空気の読めないベリルが駆け出した。

 唯が止めよう手を伸ばすが、それをするりと華麗にかわすと、ベリルは扉を開いた。


 「お待たせして、申し訳ない」

 仏っ面の紫苑がじろりとこっちを見て、その後ろにいた真奈は軽く会釈をしてから宗田達を一瞥した。

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