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悪いのは魔王

 唯と宗田は今も違和感があるベリルの姿から視線が外せなかった。

 「宗田さん……殺していいですか?」

 「いや、まだだめ。今のままじゃ勝てないかもしれないから、押さえて」

 ひそひそと二人で話をしている。


 「ちょっと! 二人で僕を殺そうとするの辞めてくれない!? 怖いんだけど!」

 抗議の声を上げたベリルは小学生くらいの姿の時より、大人びた声音をしていた。

 ただ、口調は残念美少女と言った感じで、その部分だけが安心材料である。


 「てか、なんで急に姿が変わったんだ?」

 ベリルの抗議を無視して、率直に宗田が質問する。

 「魔力が一定以上回復したおかげだね! まだ、本来の姿じゃないけど、良かったよ〜」

 安心するようにベリルは息を吐く。

 「本来の姿?」

 「そうそう! 僕は超絶美人なんだよ!? それが、まだこの世界の魔素が薄すぎてさ。あんな姿になったけど」

 そう言えば、前にベリルがそんなこ言っていたような……。

 つまり、アドゥルバの魔石で一気に回復したと言うことなのだろうか?


 「それにしてもお兄さん達、よくあのグールに勝てたね。名前持ちであの強さ……ほっといたら魔王クラスになってもおかしくない、化け物だよ」

 ベリルが今日の戦いについて語り出す。

 「やっぱり……そんなにヤバかった?」

 「うん。なんで勝てたの? ってレベル」

 自分も唯もほとんど相手にされていなかったのは事実だろう。

 勝てた要因があるとすれば、油断していたから。

 それだけだと思う。


 「ベリルちゃん……今の魔王ってあのグールより強い?」

 「ん? そりゃ強いよ! 魔物レベルで見たら最上位、顕現したばかりの"色欲"よりは強かったよ。でも……魔王は別格だからね」

 ベリルの言葉に「そうですか」と唯は悔しそうに顔を伏せてしまう。


 「でも、おかげで三割くらい魔力が溜まったよ!」

 ベリルは嬉しそうにそう言うが、あのクラスを後二体も倒さないといけないのかと、宗田も焦点が遠い所に飛んで行く。

 「ところで、お姉さんは体の方は? どう?」

 ベリルの言葉に宗田がはっとして顔を上げた。

 

 「あ? う……ん。今は大丈夫か、な」

 

 自分の体を確認するように、上から下になぞるように唯は見て頷く。

 真っ先に確認するべきだったのに、普段と変わらない彼女を見て、そのことが宗田の頭からすっぽり抜けていた。

 最悪だ……。

 

 「ごめん……唯」

 申し訳なさそうに伏し目がちで宗田が謝ると、唯はきょとんとした表情を見せた。

 「えっと〜……宗田さん?」

 唯が困った声をあげると、宗田が自分が新しく手に入れた力について説明を始めた。


 「あ〜……チート?」

 説明を聞き終えた唯は、宗田を蔑むような眼差しを向けて、酷い一言を言い放った。

 「うぐぅ! なんも言えないっす……」

 剛の口調が乗り移った宗田は、視線を落として逃げた。

 「冗談は置いといて……宗田さんが言う痛みはないですよ? あったとしたら、首の長いゾンビと戦った時くらいですかね?」

 人差し指を顎に当てて、唯が天井を見上げながらこれまでの事を思い出す仕草を見せる。

 

 「……本当に?」

 疑う訳じゃないが、唯なら無理をしてしまいそうだから心配だった。

 「本当ですよ! どっちかと言えば倦怠感ですかね? 力が入らないと言うか……はぁ……あんな強いグールがいると分かってたら……油断しました」

 話を聞けば、グールの大群を相手にしてて、まどろっこしいからと"加速"と言うわざを使ってしまったらしい。

 

 「しかも、そのせいで……おじさんが……」

 言葉を言い終える前に、唯は口を閉ざしてしまう。

 なにかを思い出して苦しそうに、胸の前で拳を握る。

 肩が少し震えて表情が青くなり、宗田は手をそっと握り返した。


 「唯のせいじゃないよ。全部、全部さ……こんな世界にした魔王が悪い」

 こんな安い言葉は慰めになんてならないだろう。

 だけど、少しでも彼女を支えて上げたいと思ったのだ。

 唯は「はい」と消え入りそうな返事をすると


 「明日、ちゃんとお礼を言わなきゃ」

 白目が赤く染まり潤んだ瞳を手で擦る。


 「なぁ、ベリル。なんで俺が唯の技を使ったらあんなふうになったんだ?」

 話題を変えようと宗田がベリルに投げかける。

 「それは、魂自体が適応してないからかな? お兄さんの……深層修復だっけ? それ無かったら拒絶反応で本当にバラバラになってたかもね」

 ベリルの言葉に宗田は思わず乾いた笑いが漏れた。


 「マジかよ……」

 アドゥルバだけじゃなくて、新しい技でも死にかけていたとか……。

 改めて本当にギリギリだったと思うと、背筋が急激に冷えた。


 「ふぁ~。僕、そろそろ眠いよ」

 そうして、ベリルの瞳がうつらうつらとしてきて、長い一日がようやく終わりを告げた。

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