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進化

 「ただいま〜」

 疲れ切った唯の声が、アパートの中に広がるが薄暗い部屋の中から返事は返ってくることはない。

 「おかえり」

 だから、変わりに宗田がそう返事をすると、嬉しそうに鼻歌交じりで中に入っていく。


 「いやー、お兄さん! この魔石いいよ! 特上級だね! 本当に、本当にもらっていいんだよね!?」

 ベリルは今だにはしゃぐように、魔石を見てニマニマと笑っている。

 

 「はいはい、いいから。早く中に入ってくれ」

 適当な民家に、アパートの入口を出現させると、宗田達は一旦帰宅することになった。

 片付けを手伝おうとしたが、一番の功労者にそんな事をさせるわけにはいかないと、紫苑から言ってきた。

 だから、その言葉に甘えて帰ってきたのだが、ベリルとのやり取りはこれで三回目。

 うんざりしたように言葉を返して、ベリルの背中を軽く押す。


 「いやー! 太っ腹だよ! 本当に!」

 宗田に背中を押されながらも、ベリルの口は閉じることはなかった。

 苦笑しつつ、宗田もその後ろを追って部屋に向う。


 「う〜、ゴロゴロしたい! でも、体汚いからできない! もどかしいよっ!」

 中に入ると、ベッドの前で悶絶する唯の姿があった。

 「はははっ。ちょっとお風呂入れてくるから待ってて」

 だいたい帰ってくるといつもこんな感じだった。

 お互い血みどろで泥だらけ、掃除してもどこかしらに血のような染みが着いて一つずつ増える。


 ――イメージはお湯


 やっぱり魔法って便利。

 急いでる時はこれに限るよ。

 普通に溜めるより圧倒的に早く、浴槽にお湯が溜まっていく。


 「お湯、溜まったよ〜」

 「は〜い! ベリルちゃんも一緒に入っちゃうよ!」

 「え! お姉さんと! 一人が……あ〜」

 嫌がるベリルを引き連れた唯が現れた。

 「お姉さん、洗うの雑なんだもんな〜……」

 「はいはい。早く綺麗にしましょうね」

 まるで母と娘みたいだ。

 宗田はそそくさとその場を後にすると部屋に戻って、何気なくテレビを付けた。


 「と、言ってもなにか番組が見れるわけじゃないんだけどさ」

 記憶商店の名前が全面に表示されてから、通販サイトのように商品を検索する画面が現れる。

 「あ……え? これ……家賃?」

 今までなかったが、家賃支払いに関しての記載が増えていた。

 「残り三日。支払い金額が魔石(小)五百個……やばい……後、光熱費も請求が……」

 今、無一文じゃなったか?

 全て合わせると魔石(小)六百五十個……。

 これは非常にまずい。

 上質魔石があればこと足りたんだが、ベリルの奴が食いやがった。


 てか、あの黒いグールとか他のグール達の魔石があればこと足りるんじゃないだろうか、それか――


 アドゥルバの魔石で払うか?

 いや、それはもったいない。

 世知辛い……。


 宗田がテレビの前で固まっていると、ホクホクとした表情の唯とベリルが現れた。

 「上がりました、よ? どうしたんです?」

 唯が声をかけると、宗田は画面を指でさした。

 「え?……家賃……支払い」

 唯が机の上に視線を向けたとき、ベリルの動きは見たことがないくらい早かった。

 「やだよ! これは僕のだもん!」

 両手で掴んでぎゅっと手を前にして、虹色の魔石を必死に隠す。


 「だってさー。巾着の中の魔石、空になってるし」

 「そ、それはお兄さんがいいよって言ってた……あっ」

 やっぱりあの時、ベリルは声が聞こえていたようだった。

 焦ったベリルがギリギリと後ろに向いて、可能な限り離れようとする。

 宗田は視線でベリルを問い詰めると、唯は不思議そうに二人を見比べていた。


 「はぁ〜……とりあえず家賃の件と今のは後で話そう。二人とも髪乾かしてて。俺も一旦風呂」

 ベリルがほっと胸を撫で下ろして、顔が元の位置に戻ってくる。

 それにもう一度目を向けるが、ベリルは目を合わせようとしなかった。


 ――――

 

 「ふぃ〜。すっきりした」

 体がすっきりして、ようやく重たくのしかかっていた肩の張りが取れた。

 二人はテーブルを挟むように座ってて、ベリルは指先で魔石を転がして遊んでいる。

 ゴツゴツと歪な形のため、すぐに動きを止めてしまうがそれを反対の指で押して虚ろな瞳で見ていた。


 「さっぱりしましたね」

 宗田が腰を降ろすと唯が口を開く。

 「なんか、ここ最近で一番疲れた気がするな」

 体力的と言うよりも精神的なのが一番だが、ベリルが眠たそうに欠伸をしている気持ちは分かる。

 宗田もつられて欠伸をすると、唯も大きく口を開けた。


 「みんな欠伸して、お疲れ様ですね」

 唯の声色も少し微睡みを帯びていて、とろけそう。

 早く寝てしまいたいと、今後について話すことにした。

 「だね。明日は一旦、紫苑のところに顔を出して、魔石狩りでいいよね?」

 「はい。家賃の支払いも迫ってますし……最悪はベリルちゃんの魔石を……」

 「だめ! これは上げないの! いいもん! もう、食べちゃう!」

 虹色の魔石を唯が狙う素振りを見せると、ベリルは表面に口をつける。

 ちゅっと吸う素振りを見せると、みるみる光が消えていく。


 「んー!」

 まるで子供がジュースを一気飲みするように、少し苦しそうな声をベリルは上げたが、魔石から魔力を吸い上げるのを辞めようとはしなかった。

 「――ぷっはぁー! 美味! 美味であるぞ!」

 どこぞの人間だと突っ込みを入れたくなるくらい、歓喜の声をベリルが叫ぶ。

 すると、その体から光が溢れ出し、部屋の隅まで眩く輝いた。


 「は? え? なんだこれ!?」

 宗田が驚いた声を上げた。

 「眩しいです! ベリルちゃん!」


 その光が収まって、チカチカする瞳で慌ててベリルを見た。


 「ベリル……大きくなった?」

 チカチカする瞳を何度も瞬きを繰り返して、ようやくベリルの姿が見えた。

 腰に手を当てて偉そうに胸を張る彼女は、ついさっきまでと比べると身長が大きくなり、顔立ちから幼さが少し消えている。


 ただでさえ、造形が整い過ぎていた人形のような顔立ちから、美少女と言って差し支えない成長を遂げている。

 「どう? 僕、変わった?」

 ずいっと二人へと近寄ってきたベリルからは、子供の甘い香りから、大人と子供の境の甘くて酸っぱいような香りがする。


 前屈みになったベリルから、胸の谷間が覗いて顔を逸らすと、横で愕然としている唯の表情が見えた。

 「胸……大きい……殺そ、う」

 と物騒な言葉を言いながら、両手で自分の前を隠す。

 中学生くらいまで急に成長したベリルはニマニマと、悪い笑みを浮かべていた。

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