スーパーヒーロー
時間にしてそんなに経っていないが、どうして、かかなり時間が過ぎたような錯覚を覚えた。
ベリルのはしゃぐ姿にふざけたやり取り、周囲をちらりと見れば、真奈や剛が指揮を取っていろいろと指示を出している。
隣にいる唯はぴったりとくっついて離れようともせず、さっきとは違う賑わいが空気を揺らしていた。
血と臓物の臭いで溢れかえった、小学校の敷地内は今、忙しなく動いている。
「――にいちゃん!」
あの時、助けた子供が宗田の姿を見て駆け寄ってくる。
それを見た宗田は、この惨状を見せるのを戸惑い肩がぎょっと竦んだが、杞憂だった。
この世界で生き残ってるだけある。
周囲の屍の山を見ても、あまり反応を示さず嬉しそうに胸に飛びついてくる。
「すごい! かっこよかった!」
赤く腫れぼったくなった瞼をかっと見開いて、輝いた瞳がその奥にあった。
それを見て、目を合わせていいものかと思ったが、宗田は男の子の目を優しく見つめ返す。
「宗田さんに……触った――」
自分の体に触れた少年に、唯が少し反応を見せて宗田がぴくりと反応を見せたが
「――姉ちゃんもすごい!」
今度は唯に抱きつく。
その瞬間、表に出そうになっていた狂気が消えていき、きょとんとした表情になる。
宗田と唯は互いに見つめ合いながら、何度か瞬きすると口元が自然と緩む。
「俺、絶対に二人みたいになって、みんなを守るから! スーパーヒーローだよ!」
子供の純粋な心が異様に胸に突き刺さったが、腹の奥がじんわり温かくなって、重く固まった心が軽くなったような気がした。
唯も宗田も子供の言葉になんて返していいか分からず、あたふたとしていると遠くから声が聞こえた。
「――ほら、祐翔、邪魔しちゃだめよ!」
あの時、助けた母親が少年の事を呼んでいた。
近くに駆け寄ってきて、軽く会釈をされて宗田も唯も同じように返す。
「その、本当に助けていただいて……なんとお礼言ったらいいか。ありがとうございます」
母子共に、二人を見て、怯えた表情を見せず真っ直ぐに見つめてきた。
「……祐翔君が、たくさん応援してくれたから、勝てたんだよ。ありがとうね」
宗田は言葉を紡ぐべきか考えたが、「頑張れ」と少年の言葉が聞こえたことを思い出して、率直に伝える。
「本当に!?」
すると、よりいっそう大きく目を開いてから、ぐにゃっと瞼が細まって満面の笑みを見せる。
ぐっと親指を立てて、母親の傍に戻って行った。
「にいちゃんもねえちゃんも、かっこ良かった! それに、お目が真っ赤でパワーアップしたみたい!」
そう言われ、宗田が自分の目を触る仕草を見せる。
「それじゃ、またねー!」
ブンブンと手を振って、母親と手を繋ぎながら体育館の中に消えていく。
唯も小さく手を振り返す姿が横目で見えて、宗田も真似をした。
「元気な子でしたね」
そう言った、唯の表情がいつもより柔らかくなっているように見える。
宗田も頷きを返して親子の姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。
「なあ……俺の目って赤い?」
さっき祐翔に言われたことを唯に聞き返す。
「はい。すごい真っ赤で綺麗ですよ。やっとお揃いですね!」
唯が嬉しそうに微笑む。
自分では自覚がほとんどないが、彼女と同じ方向へと向かっているのだろうか。
それとも、狂ってもいいと願ったことを、神様が叶えたのかもしれない。
ただ、以前より真っ直ぐに彼女を見ることができるような気がする。
「全然気づかなかったな……俺は、正しく狂えるかな?」
唯に問いかける。
「えへへ。大丈夫ですよ。間違えても私ずっと一緒ですから!」
「そうか……なら、ずっと一緒にいてくれ」
「ふふふ。嬉しい――御意です」
こうして見ると、神崎唯はあの頃とまったく変わっていなかったのかもしれない。
しいて言えば、こんな世界になってたがが外れて、本質が表に出ただけ。
そう考えれば、本来の自分に仮面を被っていた自分の方がおかしかったのだろうか。
一つ言えるのは、今は過去への執着心はないが、変わりに……
――神崎唯は俺のもの
――絶対に離さない
――邪魔する奴らは……皆殺し
自分に素直になるのって、こんなにも清々しいんだと思ったよ。




