新しい力
その後は『無限水源』に関しても、説明を受けた。
簡単に言えば、今手に持っている青い宝石の埋め込まれた指輪を好きなところに設置すると、飲むことの出る水が湧き出てくるとのことだった。
ついでに言えば、その指輪を移動すれば好きに場所を動かせる。
これには関しては、紫苑に任せようと指輪を渡すことにした。
――ラストキル対象:斎藤宗田
――スキルのアップロードを開始します
神の声がそう言うと、アドゥルバの腹の中心から光の球体が現れるとふわふわと宗田の胸の中心に吸収される。
唯がそれを心配そうに見つめてきたが、宗田は胸が少しくすぐったいだけで問題ないと、首を立てに振って安心させる。
――アップロードの完了
――全ての報酬の受け渡しを完了しました
――良き人類ライフを、お送りください
最後に神の声がそう言うと、プツリとテレビが消えるかのように静寂だけが残った。
宗田の頭にはシーリスが権能を使用しようとした時と同じように、『血液操作』に関しての使い方が頭に浮かぶ。
――イヒッ
「……え?」
アドゥルバの嫌に耳に残る笑いが耳の中で聞こえた気がした。
弾けるように首をアドゥルバの死骸に向けるが、倒れたまま宗田に倒された時となにも変わっていない。
奴の能力を得たことで、残響のようなものが残っていたのだろうか?
なんとなく、耳に残るあいつの笑いは、いい気分ではないが、貴重なスキルには感謝させてもらう。
「はぁ……やっと終わった」
「……はい。終わりましたね」
ようやく落ち着くことができると、肩の力が抜けた。
すると、どっと体が重くなりその場に座り込みたくなってしまう。
「ねぇねぇ、お兄さん。あのグールの魔石取らないの?」
ベリルがツンツンと宗田の腰の辺りを突いて、魔石のことに関して催促するように、見てくる。
「あー……そう言えば、そんな作業が残ってたわ」
一区切り終えたと思った気分に冷水を浴びせられたように、新しい仕事が舞い込んで心底めんどくさく感じる。
「今……宗田さんに触ったかな? ベリルちゃん」
ここ最近、忙しくて誰かが宗田に触れてもあまり反応を見せなかったが久しぶりに、ベリルはギロリと睨まれて指先がヘロヘロと逃げていく。
「……あはは」
乾いた笑いで誤魔化すが、「その指斬らないとですね」、なんて呟いて唯は斧を構える。
「――ひっ!」
ベリルが本気で顔が引きつって腰が引けてしまう。
「まあまあ」
そう言いながら唯の頭をひと撫ですると、毒気を抜かれたようにキョトンした表情をする。
肩の力が抜けて、構えた斧がすっと下ろされると、顔が下を向いてしまう。
赤くなった耳を隠すように両手で隠すと、宗田はくすりと笑った。
「そんなことより、あいつの魔石取るの手伝ってよ」
宗田が唯に言葉をかける。
唯が自分を守るために嫉妬するように攻撃的になる瞬間が、どうしてか可愛く見えてしまう。
唯をなんとなく、ぎゅっと抱き締めたい気持ちになった。
それを誤魔化すように頭を撫でることで我慢したが、今も体が疼いてしまう。
トボトボと唯がアドゥルバの元に向うと
――ダンッ!
と大きな音を立てて、アドゥルバの右腕が吹き飛んだ。
その後も軽快な音を立てて体を刻み、唯が肉隙間から手を突っ込むと、赤紫の物体を手に持ってこっちに向かってきた。
「これ……どうぞです」
まだ、顔を上げてくれない唯だったが、ぐいっとアドゥルバの心臓を差し出してきて、苦笑いを返しながら宗田はそれを受け取った。
「ありがとね」
まだほんのりと温かさを感じる臓器が、宗田の手にずっしりとした重さを伝えてきた。
それに視線を落とすと、今にも鼓動を奏でようとするくらい綺麗な形をしている。
奴の血の臭いはガソリンのような、化学物質のような鼻につく臭い。
それは手に乗っかった心臓からも強く漂い、鼻の奥を刺激していた。
「――よっと」
宗田は指をすぼめてアドゥルバの心臓に躊躇なく手を突き入れる。
「……お? これ、でかい……」
突っ込んだ手を中で広げると、心臓がもぞりと動きそのまま引き抜いた。
「あ……綺麗ですね」
唯が宗田の手に掴まれた、拳くらいの大きさの魔石に目が向く。
宗田はアドゥルバの心臓を無造作に放り捨てると、服の裾て緑の血液を拭き取った。
「本当に、なにかの宝石みたいだ」
七色に輝く魔石を空にかざして、覗き込むように宗田が見ると、思わず感嘆の言葉が漏れる。
「ん?」
すると、服の裾がクイクイと引っ張られ、目を向ければベリルが物欲しそうにこっちを見ていた。
人差し指を唇に当てて、何度も何度も服の裾を引っ張り続ける。
「てか、巾着は?」
唯の能力を使用した時、ベリルの横に魔石を置いてきたはずだった。
甘えるように見つめてくる、ベリルに言い放つとどこからともなく巾着を取り出して逆さまにする。
「空っぽ」
そう一言。
「僕……頑張ったよ、ね?」
訴えるように見つめられて、宗田は観念したようにベリルに魔石を手渡す。
「――うっしゃー!」
雄叫びを放つように、はしゃぎ捲くるベリルに宗田はどこか騙された気分になる。




