表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/146

コンタクト

 唯を助けるために放った魔法によって、指先一つ動かすことができない。

 ざらついた地面の感触は遠の昔に失われて、残った温度を検知する触覚も、もう少しで全てが消えていく。


 普段よりだいぶ狭まった視界の端に、アドゥルバの足が見えると、宗田は死期を悟ったように目を瞑る。

 覚悟を決めるように意識を闇に溶かして、最後の瞬間を迎えようとした時、耳の奥が少し震えた気がした。


 「――……さん!」

 ほとんど聞こえなくなった耳に残った意識を集中すると、何かがぶつかり合うような音がした気がした。

 ぴったりと閉じた瞼は言うことを聞いてくれない。

 薄っぺらい皮の塊が、鉄の塊を持ち上げるくらい重たかった。

 それを少しだけどうにかこじ開けて、視線を上に向ければ、小柄な女の影がアドゥルバと相対している姿が見える。

 

 宗田は傷だらけの唇を開いて動かすが、喉から出てくるのは弱りきった音だけだった。

 単身で突っ込んできた唯も、傷こそはなかったが足が震えているように見える。

 それとも自分の瞳が震えていたのかもしれない。

 ただ、それでも彼女の姿は満身創痍に映った。


 赤い瞳をギョロリと開いて、アドゥルバに向かって自分の身長より大きな斧を構える。

 感情のこもらない瞳が鋭く射抜くと、アドゥルバの肩がケタケタと上下していた。


 なにやら会話をしているのかもしれないが、不意に二人を包む空気の色が変わると、唯の姿がブレた。

 次の瞬間、弾けるように唯が飛び出してアドゥルバに斬りかかると、奴は避ける素振りすら見せず、全身で受け止める。


 腹を裂かれて血が吹き出すと、小規模な爆発が起きて唯は後方に弾かれた。

 その爆発で宗田の体もふわりと浮いて、転がるように仰向けになると、視界が開ける。


 「……げろ」

 その言葉を放つのが限界だった。

 それも彼女に向かって言ったつもりが、すべて空に飲み込まれていく。

 唯……伝えない、と。

 宗田は顔に力を込めると、少しだけ横に動く。

 その先には学校が植えた名前の分からない低木と、大きな一本の木が見える。


 そこに影が映ると、アドゥルバの影が伸びていた。

 手の先には首を鷲掴みにされてもがく人型の姿が。

 ジタバタと暴れているが、少しずつ力なく手足がだらりと垂れ下がる。

 それが、神崎唯だと気づくのに時間がかかった。


 唯……嫌だ……。

 頼む、頼むから辞めてくれ。


 宗田は心で何度も懇願するが、アドゥルバの影が大きく口を開いて唯の顔に迫っていく。


 そんな……。

 唯を失ったら……。


 自分は壊れるだろう。

 心の軋みが大きくなり、乾燥して脆くなった泥が砕けていくように、破片が腹の奥に溜まっていく。

 それが積み重なって内臓が圧迫されて、焦燥が浮き上がり喉元を締め付けた。


 消え入りそうな自分の生命を再び点火させようと、もがいても、気持ちばかり逸るだけで、体だけが死んでいる。

 目の前に映し出された絶望に、宗田の瞳に映る色が全て赤く染まった。


 力が……欲しい。

 自分がどれだけ日常から乖離しても、"狂っても"、彼女のためなら全てをくれてやる。


 葛藤と言う膜を、断ち切るように、神崎唯が生きることだけを思う。


 ――二人で生きよう。


 そう、決意したあの時から変わってしまった自分が――憎い。


 彼女が、彼女のために。

 彼女が欲しい。

 あれは――俺だけのものなんだ。


 その瞬間、不意に遠くに放った槍の魔力が消えたような気がした。


 「――レベル……アップ……した」


 こんな死にかけの状態でも、胸のゾクゾクは変わらなかった。

 気分を高揚させて、次第に魔力が回復していくのが感じられる。


 足りない。

 これじゃ、足りない。

 もっと、もっと――力を寄越せよ。


 その瞬間――世界から気配が消えた。


 ――ザァ……


 それは頭に声が入ってくる直前に、よく起こるノイズ。

 宗田の心臓がトクンっと軽く跳ねる。


 ――魂の位階レベルが三十に到達しました。


 頭の中で何かスイッチが入る時に聞こえる声、そのものだった。

 機械的な声色で、男でも女でもない。

 抑揚がなく、例えるならスマホで文字を読み上げる時に使う音声。

 それも、かなり昔のもの。

 なにが起きてるか理解できない。

 今、起きている出来事に宗田は追いつこうとするが、それよりも先に声の主が次の言葉発する。

  

 ――コンタクト、開始。


 これまでにない内容だった。

 自分が覚えているかぎりでは、こうやって接触をしようとすることはなかったのだ。

 宗田は息を潜めるように、自分の思考を停止させる。


 ――聞こえますか? マイ、マスター。


 声の問いかけに、宗田は反応していいのか分からず少しだけ間が空いてしまう。

 だけど、この窮地を脱することができる可能性もあると思えた。

 恐る恐る、心の中で口を開く。


 「……誰だ?」

 

 そう言葉にすると、そいつからすぐに返事がくる。


 ――声が届いて良かったです。

 ――私は、あなたを"生かす"存在。

 ――斎藤宗田、"生存用プログラム『シーリス』"

 ――改めて、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ