起死回生の一手
「ねぇ、真奈さんって言ったよね? なにか打開策はある?」
唯は真奈に目を合わせることなくそう言った。
「あったら、今ごろ苦労してないわ」
真奈が自分の刀を拾いながら残念そうに声のトーンを落とす。
「そう、分かった。早くこいつら倒して、宗田さんを助けたいから手伝って」
唯は左足を滑らせるように前に出すと構えを取る。
ちらりとグール達の奥に視線をやると、愛用の斧に目が行く。
どうにか武器を取り戻さないと。
あの怪物に掴まれて真奈に助けられた時、手を離してしまった。
その後、意識がプツリと途切れてしまったが、余裕こいて禁止されてる技を使うんじゃなかったと、少し前の自分を忌々しく思ってしまう。
心中で舌打ちをすると、足を強く踏みしめた。
その瞬間、舗装された地面がめくれ上がり神速の一撃を繰り出す。
「――なっ!? 嘘でしょ!」
腕が千切れようが、足がもげようがかまわなかった。
それくらいの力を込めた唯の拳は、一体のグールの手の中に収まってしまう。
そして、他二体のグールが支えるように背中を押さえて、唯の一撃は塞がれてしまう。
ただ、他のグール達との連携を抜いたとしても唯の攻撃ですら表皮にヒビを入れる程度だった。
変わりに突き出した拳が、自分の威力に耐えきれず原形が分からないほど、砕け散っていた。
「離れて!」
真奈が飛び込んでくると、グール達が一斉に後ろに退いた。
「これは……苦戦するのも分かる、つぅっ!」
休む暇もなく、他の残ったグールが飛び込んでくる。
二人は後ろに飛び退いて回避したが、唯は自分の手から伝わる痛みに苦悶の声が上がった。
「それ……酷い」
真奈がその手を見て、顔をしかめる。
「これくらい……平気」
ぼそっと呟いて「治れ」と言うと、あっと言う間に元の形に戻ってしまった。
そこからは防戦一方だった。
波状攻撃のように休む暇もなく、唯と真奈にグール達が襲いかかる。
最初はどうにかかわし続けていたが、次第に体の動きが鈍くなり、そこかしこに生傷が増えていく。
ただ、それでも二人はの女性は黒いグール達に食らいつきなんとか致命傷だけは避けていた。
「こいつら……くっ」
ギロリと唯の赤い瞳が揺れたが、力を込めようとすると体から力が抜けていく。
「あなた……さっきから――」
「――うるさい。だまれっ!」
真奈が唯の異変に気づいて声をかけようとするが、唯が乱暴な口調で言い切る前に言葉を遮ってしまった。
「あぁ! イライラする!」
自分の体が思うように言うことを聞かず、口調が荒くなっていく。
「早く……宗田さんのところに行かないとなのに!」
ちらりと目を向けると、地面に倒れ伏した彼の姿が見える。
頭を鷲掴みにされて、自分達の戦いを見せられていた。
その横にニヤニヤとして笑う、グール達の親玉と思しき怪物。
宗田さんから――その手を離せ。
いつもなら、一気に仕留めようとするが、今回の相手は無理だ判断した。
確かに、加速と言う体に負担がかかる技を使った後で弱っていたが、全力の一撃を簡単に素手で受け止められてしまった。
万全の体勢でも勝てるかどうか……。
だから、癪に触るが、この真奈と言う女の力を借りたい。
そのためには、このグール達をさっさと始末する。
ところが、今だに一体も仕留められないうえに、むしろこっちがジリジリと追い詰められている。
次第に募る焦りが苛立ちに変わって、唯は強く歯ぎしりをしていた。
なにか、武器はないのか?
目だけを動かして確認すると、唯を庇って死んだ中年の男のハンマーが学校と道路を隔てるフェンスの手前の草の中に突き刺ささるように落ちていた。
距離としてはそんなにないが、その横にはグールが立っている。
ただ、この五体を突破して背後の自分の武器を取りに行くよりは可能性が高い。
そう思った時、唯の行動は早かった。
「え!? ちょっと!」
唯がハンマーが落ちている方とは逆の方向へと走る。
すると、その陽動に引っかかった黒いグールが一斉に動いた。
道を塞ぐように立ちはだかると、唯は既のところで足を止める。
カウンターを狙ったグールの攻撃が胸を掠めると、膝を折って空高く舞い上がる。
そして、後ろに一回転すると、草むらの手前に着地した。
「おじさん……借りますね。ちょっと、手……離してください」
中年の男の残骸をそっと離して地面に置く。
ハンマーの柄をギリギリと握り締め、唯が一気に突っ込んだ。
両手で握って振りかぶると、勢いよく撃ち下ろす。
それはグールの頭に当たらなかったが、食い込んだ腕から血潮がまった。
「――これなら……いけるっ!」
唯が叩きつけた反動を利用して、くるりと一回転すると、そのままグールの脳天目がけて再び振り下ろす。
視界の隅では、他の仲間達が手を伸ばしていたが、死ななければ怪我なんてどうでもいいと目もくれない。
「――フロストウォール」
真奈の声が聞こえたと同時に、体が一気にかじかんだ。
だけど、今さら手を緩めることはできない。
そして、唯の一撃がグールの脳天を捉えるとそのまま頭ごと地面に叩きつけた。
アスファルトがめくり上がり、グールの顔は車に引かれた蛙のようにその中身をぶち撒けた。




