限界だ
目の前から飛びかかって来ようとするグールに向かって剣を振るう。
拳に魔力を乗せて放ったと同じように、鋼の剣にも魔力が爆発するイメージをした。
「あ……へぇ」
奇っ怪な悲鳴と共に頭の中心から中ほどまで、刃が食い込みグールは絶命した。
「ん? 抜けない」
食い込んだ剣を引き抜こうと、力を込めるが抜くことができない。
そう、もたついている間に、さらに一体が近づいてくる。
「――撃て」
その一言と同時に弾丸が発射され、グールの胴体に三つの小さい穴を形成した。
仕留めるには不十分だが、行動を送らせるには効果がある。
わずかに動きが鈍ったところにすかさず踏み込んで、蹴りを放つ。
足がじんわりと痺れた。
スイカが砕けるように簡単に破裂して、中身を盛大にぶち撒けた。
宗田は剣を引き抜くのを諦めて、己の肉体を凶器と化すことに決める。
頭、胸、足、腕、どこでもいいからそいつの部位を破壊して、一体でも多く行動不能にしようと自分のできうる限りの攻撃をし続ける。
ギアが徐々に上がっていくかのように宗田の動きが鋭くなって、グール達は宗田を今だに仕留めることができないでいた。
むしろ、屍が山のように積み重なって、血と臓物の海が目の前に広がっている。
「……はあっ!」
歯を食いしばり渾身の一撃を、死体の壁から飛び上がるように姿を見せたグールに放つ。
「しま――」
足元の血で出来た泥濘に足を取られて、バランスを崩す。
顔に目がけて放った拳がそれて、グールの右肩付近に直撃して肩を粉砕した。
急いで追撃しようとするが、そいつはこっちに見向きもしないで通り過ぎていく。
宗田は慌ててそいつが進もうとする方向へ視線を走らせると、奥の方に二人の人影が見えた。
その瞬間、顔面から血の気が引く。
まだ、そんなところにいたのかよ。
「早く――逃げろっ!」
宗田の声に反応した親子が肩を震わせて、こっちに顔を向けると、負傷したグールが迫ってくる姿が見えた。
「くそっ! 邪魔だ! どけよっ!」
急いで追いかけようとするが、後続から波のように押しかけるグールの群れは宗田に次から次に襲いかかる。
そのせいで、そこから一歩も動けず親子が襲われようとしている姿を見ていることしかできない。
結局……これだ。
この世界はとことんどん底に突き落としてくる。
忌々しそうに、宗田はグール達を睨みつけるが、打開策が見つからず、歯ぎしりするしかなかった。
「――きゃっ!」
さっきの母親の悲鳴が聞こえると、宗田が大きく後ろに飛び退いた。
そこから、身を翻し大群に背を向ける。
自分がどうなろうと関係ない。
あの二人を助けたい。
唯になんで助けるかと問われて、「日常を守るため」と答えたが、そんなことどうでもいい。
目の前で人が死んで欲しくないんだよ。
――くそがっ!
「――炎弾。そいつを貫け!」
赤い筋が親子に迫るグールの背中に直撃した。
「なんで……」
だが、そいつは怯む様子もなく一直線に向かう。
複数放った弾丸は間違いなく当たったはずだが、グールの背中に火傷のような跡を少し残した程度でしかない。
魔力……切れ。
戦いに夢中で気づかなかったが、今になって体が鉛のように重たくなっていることに気づく。
くそっ! くそくそくそっ!
心の中で何度も暴言を吐き散らすが状況は変わらない。
「負けない……こんな世界――ぶっ壊してやる!」
宗田の周囲を飛び回る、三つの球体がふわふわと近づいて一つの大きな火の玉になる。
それがぐにゃぐにゃと粘土をこねるように、歪に何度も姿を変えると、長細い一歩の槍のような形となった。
――イメージは真紅の槍
腹のそこから絞り出すように魔力を、球体に注ぎ込む。
自分の指先が冷たい水に手を突っ込んだみたいに、冷えていくのが分かった。
――敵を貫き燃やし尽くせ
槍から放たれる熱気が体を温め返してくれるが、それよりも体温が奪われる方が早い。
歯が何度もガチガチと音がして、数回鳴ったところで強く噛み締めて押さえつけた。
――赤き世界の礎に
せっかくの見せ場で震えるのはダサいよな。
あの子……かっこいいって言ってくらたんだから、どこまでもかっこつけないと。
だから、魔法……お前は黙って――願いを聞き届けろ。
――灼熱の槍
こんな、理不尽な世界に負けるくらいなら――死んだほうがましだ。
「いっ……けぇっ!」
宗田のかけ声と共に親子に迫るグールの背中に向かって一直線に突き進む。
弾丸のように回転しながら夜の闇を引き裂いて、通り過ぎところは一瞬だけ昼が訪れたように明るくなった。
その、真紅の槍が通り過ぎたところは黒く焦げ、その強大な熱量を持った槍がグールの背中に突き刺さる。
ただ、その勢いは止まらずグールの体ごと引きつれて、学校の周囲に立てられたフェンスを突き抜けて、闇の街に消えていく。
「なんとか……なっ……た」
最後に振り絞るように宗田が声をあげると、膝から力が抜けてしゃがみ込む。
後ろが騒がしい……な。
恐らく、別のグールだろう。
閉じかけの瞳をどうにか開いて、親子が無事か確認すると、こっちに向かってなにか叫んでるみたいだったが、生憎、それを理解できるほど頭が回らないようだった。
「はは……ははは」
ただ一度だけ、世界に向けて嘲笑するよう笑う。
視界の横に影が見える。
グールのナイフのような指先が崩れ落ちた自分の頭に伸びてきていた。
恐怖はない。よくやった。
世界に一矢報いた……それだけで満足だったんだ。




